試練/7

 太陽と日代、二人とは違う方角へと、遥香と平和島ペア(リリィとセレナ)はのんびりと歩を進めていた。そんな折、朽ちてしまった廃屋を眺めながら遥香はらしくもない表情を浮かべていた。


「ねぇ透子。〝信頼〟しているから話さない。それでいいよね?」


 遥香は平和島へ唐突に問いかける。


「どうしたの、遥香ちゃん。急にそんなこと……」

「繕うのはやめて」


 リリィが足を止めると、遥香は平和島を強く睨み付けていた。しかしそれは敵意からくるものではない。彼女はただ辛いのだ。

 私はそんなに信頼に足りないのか。

 私はそんなに弱く見えるのか。

 私はそんなに友達甲斐がないのか。

 言葉にはできなかった。それを口にしてしまうのは、あまりにも情けなく、そして子供っぽい。


「うん。それで……いい」


 そんな遥香に、平和島は煮え切らない態度で答えた。


「透子も、正詠も、日代もさ。頭良い奴らって、なんで大事なこと言わないの? 慣れてるからいいけど、それって私らにとっちゃあすっごく辛いんだよ」


 平和島は黙って遥香の言葉を聞いていた。それが更に遥香をイラつかせた。


「あんたは……!」


 声を荒げた遥香だが、ぐらりと倒れるリリィを見て言葉を失った。


「あらら、手加減すんなって、ツルギ」


 倒れる寸前に片足で踏ん張ったリリィを見て、進藤は楽しそうに笑って言った。


「やぁレディお二人さん。今日はナイトもいないご様子。私と踊りませんか?」


 小さくなった進藤と相棒のツルギは恭しく二人に頭を下げる。

 それは強者の余裕からだろう。


「別にいいけどさ、私すんごく苛立ってるの。ちょっと乱暴になるけどいいよね!」


 唾を吐いて、リリィは拳を固く握る。


「激しいのがお望みかい? オーケー、お嬢さん」


 ツルギは細く息を吐きながら、刀を構えた。

 空気がしんと静まり返ったように、遥香と平和島は錯覚する。しかしそれは決して錯覚ではない。ツルギが、進藤が臨戦態勢に入ったことで、この場の空気が張り詰めたのだ。


「那須遥香と平和島透子。プライド・プレイヤーでもないお前たちの相手するのは無駄なんだけどな」

「言ってくれんじゃん、チャラ男」

「はは、図星か。となると、残るは高遠と日代か。まぁ高遠だろうな」


 遥香は舌打ちして、進藤を睨み付けた。


「おー怖い怖い。那須がそんな目をするのは予想通りだけど、平和島がそんな目をするのは予想外だ」


 進藤の言葉に、遥香は平和島を見た。

 確かに彼女は進藤を睨み付けている。だがそれは遥香が思っているようなものではない。

 運悪く〝ハズレ〟を引いた。そんな瞳を平和島は進藤に向けていた。


「平和島のスキルは面倒だしな、ここで潰しておけば奏も楽だろう」

「何なの、あんたらも透子や正詠、日代のことばっかり! リリィ、面倒だから殴って!」


 ひゅっと短く息を吐いて、リリィは地を蹴り突進する。だが、その突進を僅かに体を逸らし、ツルギは避ける。


「はは、お前みたいな奴、ちょろいから嫌いじゃないぜ」


 体勢を崩したリリィへとツルギが武器を振り上げる……が、それを水の槍が走り防ぐ。


「やるじゃん、平和島透子」

「遥香ちゃん! 喧嘩はあとでしましょう! 今は……!」


――テラス、ノクトが戦闘を開始しました。


 遥香と平和島の視界の端で、メッセージが表示される。


「わかってる! 行くよ、リリィ!」


 準決勝の戦いは、遂に幕を開けるのだ。

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