試練/3

 正詠が話している内容を聞いて、僕らは全員が口を噤んだ。

 それも仕方ないと言えば仕方ない。早くも校内大会は準決勝。しかも相手は、前回の準優勝チーム・チーム名は『一騎当千』。剣道部と空手部が合同となって作られているチームだ。相棒の平均レベルは四十五。、


「しかもこの中には全国を経験した人が二人もいる」


 重い空気の中、正詠が口を開いた。だが、それにすかさずツッコミを入れる。


「いやいやいや。前回は王城さんのチームが優勝したんだろ? なんでこの中から出るんだよ」

「校内大会の優勝者はな、二人まで準優勝チームから借りられるんだ。公式大会では五人と補欠の二人が必須だからな」


 正詠はノートに書かれている二人の名前を指で叩いた。


「まず、大将の進藤 剣しんどう けん相棒名バディネームはツルギ。去年時点で確認できたスキルは、『一騎打ちB』、『文武両道C』、『逆上A』。次に副将の藤堂 奏とうどう かなで。相棒名はエルレ。スキルは『守護A』、『一騎打ちB』、『静寂A』だな。」


 正詠は平和島に視線を向ける。


「一騎打ちは指定した相手と妖精的に一対一の戦いを強制できます。この間敵味方からの援護効果は得られません。文武両道は自動発動スキルで攻撃と魔力を上昇させます。逆上は敵から攻撃を受けると確率で全ステータスが上昇した状態で反撃が行えます。静寂は……なんだろ?」


 平和島ってもしかしてゲームとか好きなのかな。


「静寂は敵味方のスキルとアビリティを一定時間使用不可能にする。この二人だけでも太陽とは相性最悪だ」


 そう、その通り。これまではテラスが単独で動いていも招集でみんなを読んで一人をタコ殴りにすれば勝てていた。でも今回はそうはいかない。例えみんなを呼んでも、一騎打ちを使われてしまっては結果的に一対一に持ち込まれる。

 自慢じゃあないが、テラスは単独での戦闘性能が物凄く低い。そりゃあもう僕の学力と同じぐらい低い。


「少なくとも去年時点で、だからな。色々情報収集はしてるけど、今回の大会で今言ったスキル以外使われていない」


 日代は正詠のノートをじっと見つめながら口を開く。


「基本ツーマンセル。初手でまず天広が招集を使って、俺と天広の二人で行動する。那須は単独だとまぁまぁな動きをするが防御がクソだから、透子と組んで行動しろ。優等生は単独で二チームの援護だ」


 ぽかんとしていたのは僕だけではない。意外すぎるほどのアドバイスは、的確で全員が納得できるものだった。


「全く……」


 正詠は深くため息をついた。

 このため息は、知っている。

 期待が、諦めに変わったときのため息だ。


「お前の才能……別の方向に伸ばせたろうに……」


 一度伸び始めた根というものは、後戻りはできない。日代が伸ばしてしまった才能は簡単に修正できないのだから。


「じゃあ次のプライド・プレイヤーは日代にすんの?」

「んなわけねぇだろ、馬鹿か夏野菜」

「……ねぇ日代、夏野菜って私のことかしら?」

「てめェ以外誰がいるんだ、不人気夏野菜」

「ねぇ正詠。こいつ一回殴っていい?」


 何故か正詠に確認を取った遥香に、正詠は軽く笑った。


「一回ぐらい殴ってみるといい。こいつはきっと女を殴らないぞ」

「へぇ……殴っていい、日代?」


 頭を振った日代に代わり、平和島が笑った。


「殴るな。それよりも今俺たちのスキルで何かできるか考えろ」


 日代のもっともな意見に、僕はテラスのスキルを思い出す。

 招集、他力本願、共に規格外と言われているEX。二つとも役には立つが、決して戦闘向けではない。


「なぁテラス。お前何か新しいスキル覚えてないの?」


 ぱぁっと、輝かしい笑顔をテラスは浮かべた。

 よくぞ聞いてくれました!

 彼女はそう言っているようだった。


「……テラス、スキルを見せてくれないか」


 ふふんと、胸を張ってテラスはスキル以外も表示した。頼んでもないのに、こいつと来たら。


 テラス:レベル25

 所持スキル:招集EX、他力本願EX、天運C


 特に『天運』が太文字で赤く点滅している。


「テラス、天運の詳細を表示」


 天運C。スキル保持者に、時折良いことが起きる。


「ふぐぅ!」


 招集、他力本願はまだ良い。人に頼るスキルなのだから。

 遂にテラスは……いや、僕は、天にまで自分の命運を任せるというのか。どんだけ自分に自信がないんだ、僕もテラスも!


「何でこんなスキルばっかり……」

「うわ……あんた、またそんなスキルって……」

「うるせぇな。遥香はどうなんだよ」

「っていうかさ、みんなのスキル見せ合おうよ。リリィも結構レベル上がったし、正詠も全部は確認してないでしょ? で、そのあとに日代殴ろうよ」


 遥香の暴力的な発言は置いといて、正詠は遥香の発言に賛成した。


「ロビン、スキルをみんなに見せてくれ」


 テーブルにいたロビンは頷いて、僕たちにも見えるように自分のレベルとスキルを表示した。


 ロビン:レベル30

 所持スキル:速攻A、天賦の才B、努力C


 正詠のロビンは高水準にまとまったステータスを、更に上昇させるスキル。


「ノクト、見せてやれ」


 ノクト:レベル27

 所持スキル:守護C、怒涛A


 日代のノクトは高い攻撃の割に、日代の性格らしく〝親しい者〟を守るスキル。


「リリィ、お願い」


 リリィ:レベル23

 所持スキル:気合C、根性A、リズム感C+


 遥香のリリィのスキルは、性格通り攻撃というか……もうこいつバディタクティクスで全線で立つために誕生した感が半端ない。


「セレナ、お願いね」


 セレナ:レベル29

 所持スキル:博識B+、戦況分析B


 平和島のセレナは、見た目にそぐわぬ後衛スキル。これでいてレイピアを振り回すのだから、もしかしたら平和島には裏の顔というものがあるのかもしれない。

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