初戦/4

 アレクはレイピアを、ベリスは槍を、虎王は刀を構えこちらを見ていた。三人の顔は余裕で満ちており、こちらを馬鹿にしているようにも見える。


「なぁ正詠。どうすんの?」

「考えてる。だからお前も考えろ」


 視線は眼前の三人から逸らさずに僕と正詠は会話する。全員の顔は見えないが、きっと僕らと同じ顔をしていることだろう。


「ねぇ君達、リタイアしてくれないかな? 僕らも無駄に手の内を晒したくないんでね」


 マスターである先輩がそういうと、アレクはにっこりと微笑んだ。感情のある相棒らしからぬ、あまりにも機械じみた笑みはあまりにも気色が悪い。


「なぁ先輩。ちょっとハンデくれない?」


 精一杯の虚勢を張って、軽口を叩いてみる。だが、先輩たちはそれには反応せず、ただ武器を構えているだけだった。


「〝飛車角落ち〟は、自軍が二名倒されることで発動できるスキルです。ランクがAなら、ステータスはかなり上昇しています!」


 平和島が〝飛車角落ち〟の効果を見破ったのが合図とでも言うように、先輩たちの相棒が地を蹴った。


「そうか……君は〝博識〟か〝看破〟のスキルを持っているんだね。さっさと退場願おうか」


 アレクはレイピアを突き出すが、それをノクトが剣の腹で受け止めた。


「いきなりクイーン狙いか、大将」

「ははっ! となると君はナイトかな?」

「冗談。そんな風に見えるか、こいつが?」


 ノクトはレイピアを弾いて、返しの刃で斬り付ける。


「そうだね、君は猛獣に相応しい。ナイト気取りは少し違うか」


 ひらりと躱しながらアレクは皮肉を漏らす。

 そんなアレクの足元に数本の矢が突き刺さった。


「あんたを倒せばこっちの勝ちだ! 悪いけど勝たせてもらいますよ!」


 ロビンは既に次の矢をつがえていた。


「あぁそういえば、私だけに気を取られていいのかい? 君たちの大将を放っておいてさ」

「「!?」」


 正詠と日代が僕にようやく視線を向けた。


「本当にお前ら! ちょっとは! テラスのことも! 守ってくれって!」


 アレクの攻撃をノクトが受け止めてすぐに、平和島は僕とテラスの援護に来てくれたが、あの二人は大将にかかりっきりだった。


「虎王、任せた!」


 アレクのマスターが叫ぶと、虎王は刀を捨てて両腕でリリィとセレナの首を鷲掴みにした。


「リリィ!」

「セレナ!」


 遥香と平和島が互いの相棒の名前を呼ぶと同時に。


「スキル、〝開き王手あきおうて〟!」


 虎王のマスターがスキルを発動させた。


――スキル、開き王手。ランクAが発動しました。相手リーダー付近にいる相手相棒二体を強制的に移動させます。


 虎王はぐんと体を捻ると、自分ごと横に物凄い勢いで移動した。


「さて、これであとは君達二人と大将だけだね?」


 正詠と日代が舌打ちする。


「君たちのどちらかだろう、〝誇りプライド〟を持っているのは?」


 ノクトの大剣技、ロビンの矢を巧みに捌きながら、アレクのマスターは饒舌に言を繋いでいた。


「ぺらぺらぺらぺら、相当あんたの舌には脂が乗っているんだな?」


 皮肉を口にしていながらも、日代の声には焦りが見えた。

 当然だ。だってテラスとベリスが一進一退の攻防を繰り広げている。というよりは、僕のテラスが完全に防戦一方だ。槍と刀じゃあそもそも相性が悪すぎる。


「王城と戦うまで隠しておくつもりだったけどね、気分が変わったよ」


 アレクは二突きでノクトとロビンの動きを制する。


「力の差を知っておくといい、情報初心者ビギナー。来年は君たちが力を示す番なんだから」


 アレクの周囲に紅い雷が弾けた。

 あれは、何かヤバイ。決めの一撃というか、そういう感じだ。


「だぁぁぁぁぁぁ! テラス、正詠と日代がピンチだって! そんな奴さっさっと倒して二人を助けに……!」


 きぃん、と冷たい金属音がするとテラスの刀が宙を舞っていた。


「わぉ……」


 ベリスのマスターが鼻で笑う。


「さっさと倒されるわけにもいかないんだよ、情報初心者ビギナー。俺たちはあの王城を倒すんだからな。お前はそこで仲間が倒れて敗北するのを相棒と眺めていろ」


 ベリスは槍をくるりと回転させると、テラスを組み伏せた。


「舞台は整った。さて……仰ぎ見たまえ、情報熟練者エキスパートとの力の差を」


 アレクはレイピアを天へと向けた。するとその切っ先から一筋、紅く細い雷が走る。


「また来年挑んでおいで、情報初心者ビギナー。まぁ次は……君たちが倒した後輩がライバルだけどね」


 晴れているはずの空を紅い雷が支配し、一点へと集約していく。


「正詠! これスキルか!?」


 組み伏せられているテラスを横目に、正詠へと叫ぶ……が。


「アナウンスがないってことはアビリティだ!」

「おい優等生! こんなのがアビリティだってのか!?」

「だからそうだって言ってんだろ、素行不良!」


 ノクトとロビンの二人も、あまりにも強大な雰囲気に体が竦んでいるように見えた。


紅雷こうらい


 地鳴りを伴いながら、紅い雷は舞い降りた。

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