初戦/3-4
◇◇◇
さすが正詠。今のところ作戦通りか。すぐにあちらに向かってもいいのだが、大将は最後まで隠れているのが良いらしいし、とりあえず隠れているか。
仲間から隠れるなんて、まるでかくれんぼだ。
「テラス。ノクトとセレナがどの方角にいるかわかるか?」
とりあえず正詠と遥香の心配はいらないにしても、日代と平和島はやばそうだ。二人ともあんまりゲームに詳しくなさそうだし。
――ノクトが相手相棒を撃破しました。残り三体です。
「マジかよ」
素で言葉が漏れる。あいつら意外とゲーム得意なのかな。
「これで数はこっちが圧倒的に有利だし、正詠たちと合流を……」
「あぁ……やっぱり君たちは
不意にかけられた言葉に、考えるよりも、僕が指示をするよりも先に、テラスは刀を背後へと振るっていた。
「数で勝れば有利だと思っている。その論理が通るのなら、私たちはあの王城達になんて負けていない」
しかしその一閃を相手は躱し、レイピアの切っ先をこちらに向けていた。
「はじめまして、そしてさようなら。無謀な
にっこりと微笑むその奥には、凍てつくような敵意がはっきりと伺える。
あくまでも第三者の視点だからだろうか。レイピアの握る手に力が入るのが、はっきりと見て取れた。
負ける。この人は……この人の相棒は、絶対にこの一撃を外さない。こんなところで、こんなにもあっさりと、僕たちの努力は終わるんだ。
『いいか、太陽。出し惜しみが無しってのはわかる。でもな、テラスのスキルは対策がされやすいんだ。だから、いいか。もしもお前が一人で敵と戦うことになって、もしもやばいと思ったら……』
練習もできないとわかった水曜日。夜に正詠から電話が来て、あいつは言っていた。
『全力で俺たちに頼れよな。お前は助けを呼べるスキルがあるんだ』
助けてやるから、絶対に助けを求めろと。
くそっ。友達に頼ることもしないで負けるなんて馬鹿らしい。勝つのも負けるのも、僕ら全員で決める。
「テラス! 招集、発動!」
スキル発動を告げる掛け声に、テラスの体が一瞬光る。
――スキル、招集。ランクEXが発動しました。ロビン、リリィ、ノクト、セレナをリーダー・テラスの近くに呼び出します。
テラスを包む瞬間の光は四つに分かれた。そこから現れたのは……。
「ノクト、前に出て押し出せ!」
「ロビン、ノクトを援護!」
「リリィ、テラスを連れて後ろに下がって!」
「セレナ、ノクトとロビンにガードアップ!」
仲間の四人だ。
「って、こんな近くならさっさと合流しなよ馬鹿太陽!」
「うるせーうるせー! 大将だから最後まで隠れていようって思ったんだよ、ばーか!」
遥香から罵声を浴びせられ思わず反論する。
「やれやれ、君〝も〟そのスキルを持っていたのか。ランクは規格外だが、まぁ私のアレクと効果は変わらないね」
相手の大将はやれやれと肩を竦めていた。その余裕は相棒も同じようで、ノクトとロビンの連続攻撃を、ひらりひらりと避けている。
「アレク。スキル発動、招集」
――スキル、招集。ランクBが発動しました。ベリス、
先程のテラスと同じように、アレクの体が一瞬光り、その光が二つに分かれた。その光が収束すると相手チームの主力ともいえる、三年生二人がいた。
「この
アレクのマスターでもあるあのキザな先輩は、虎王のマスターにそう声をかけた。
「太陽、あれは将棋部の主将の相棒だ」
「わかってる……でも将棋部って言っても……」
このとき僕は相手を舐めた。所詮は文化部。大した強力なスキルや攻撃方法なんて無いと思っていた。
「虎王。スキル、〝飛車角落ち〟」
テラスの刀よりも武骨なものを持つ虎王は、僕ら全員を見てにやりと嫌らしい笑みを浮かべた。
――スキル、飛車角落ち。ランクAが発動しました。虎王、アレク、ベリスのステータス、スキル、アビリティが強化されます。
「へ?」
虎王が武骨な刀を横に振った。それだけで暴風が吹き荒れて僕らを高いビルから吹き飛ばされていた。
「テラス! 何か、何かできないか!」
落下の途中でテラスに聞くがテラスは首を振る。
「遥香! お前初級の魔術アビリティあったよな!」
作戦参謀正詠が遥香に叫ぶ。
「あるけどどうすんのさ!」
「下に向かって撃て!」
「んなの私たちがダメージ受けるってぇ!」
「遥香ちゃん! 回復は私がするから、お願い!」
「那須! 戦闘じゃあなく落下して敗北なんて、さいっこうにダサいぞ!」
「あぁんもう! ちゃんと回復してよね透子! リリィ、旋風!」
リリィが拳に力を込めて、地面に接触する寸前にアビリティを放つ。その衝撃波で僕らの相棒は地面への直撃を避けて、四方に吹っ飛んだ。
「あぁくそっ。大丈夫か、テラス?」
テラスを見ると頭の上に星が回っていた。比喩ではなく、マジで。なんでこいつはどんなときでもこういったコミカルな表現を忘れないんだろう。
「みんな無事か?」
正詠の声に、リリィ、ノクト、セレナが頭を振りながら起き上がる。
「何でみんなの相棒は僕のテラスみたく星が回ってないんだよ」
「冗談言っている……」
どしん、と重厚な音が僕ら五人の中心で響いた。それも三つ続けて。
「しぶとい
あのキザな声。土煙が失せた後に現れるのは、言わずもがな。アレク、ベリス、虎王の三人だ。
「冗談言ってる場合じゃないな、これはよ」
そんなことを言いながら、僕は久しぶりに本気の苦笑いを浮かべた。
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