初戦/4-2
紅い閃光が明滅し、〝感覚〟を置き去りにそれは落ちて来た。
気付けばいつの間にか。
理解した時には敗北を。
終わった後には納得を。
それだけこのアビリティは絶大な威力を伴っていた。
ただ眺めているだけの僕がこうなのだ。当の本人達はもっと……。
――スキル、守護。ランクCが発動しました。自相棒の超近距離にいる味方を対象、もしくは対象に含む攻撃を代わりに受けます。
「あぁくそっ……らしくねぇことしちまった」
雷が落ちた地点に、二人は立っていた。
「すまないな、ノクト」
日代は自分の相棒に語り掛けるが、その相棒は答えない。
――ノクト、戦闘不能。
未だに紅い雷はノクトの体に残り、ばちりばちりと火花を散らしていた。
「いいか天広、高遠。俺のノクトが守ってやったんだ。ここで負けたら承知しないからな」
淡い光と共に、ノクト日代は消えていった。
「はは、馬鹿だねぇ。わざわざ守ったってことは、彼がプライド・プレイヤーだってことだろ?」
アレクのマスターは皮肉たっぷりにそんなことを言うが、僕も正詠もそんなことに腹は立たなかった。
何よりも腹立たしいのは……自分の不甲斐なさだ。
誰も犠牲にしないで勝利することなんて、僕ら初心者は望むことではない。だけど、それでも最初くらいは。
誰も犠牲にならず勝利を掴みたかった。
「天広くん!」
平和島の声に我に返る。
「アビリティ、紅雷! アビリティランクS。小範囲の敵に発動した相棒の属性で超強力な攻撃を行います! 属性による防御を無視する効果があります!」
鷲掴みにされているセレナの隣で、平和島が大声で叫んでいた。
「太陽! やったれ!」
遥香の喝の入る声。
「正詠……悪い」
「いいや、問題ない。これで負けたら日代に顔向けできない」
テラスを見ると、組み伏せられながらも真剣な眼差しを僕に向けていた。
いつでもいい。
テラスのその眼差しは間違いなくそう語っている。
「テラス、〝他力本願〟!」
――スキル、他力本願。ランクEXが発動しました。
「やるぞ、テラス!」
彼女を呼ぶ声と同時に、テラスの周りで雷の爆発が起きてベリスを吹き飛ばした。
「なっ!?」
テラスは地に刺さっていた自分の刀を抜き、それを天に向けた。
その切っ先からは、炎と共に雷が空へと走った。
「ここからは僕たち
雷は爆発を伴いながら集約していく。
――アビリティ、紅雷が選択されました。ランクをプラス。紅雷EX+。
「放て、紅雷!」
テラスが勢いよく刀を振り下ろすと同時に、紅い雷が周囲に降り注ぐ。地面に当たるとそれは大きな爆発を引き起こしながら、辺り一面を焼き尽くす。
「有り得ない……それは私の、私のアビリティだ!」
アレクのマスターの情けない声が、爆発の中から聞こえた。
「そうだよあんたのアビリティだ。だからちょっとお借りするよ、
一際強大な雷は、アレクへと降り注いだ。そのあまりにも強大な一撃は、近くにいた正詠たちも吹き飛ばす。
「仲間にダメージはいかないとはいえ……悪いことしたな」
テラスは刀を鞘に納めた。すると少しの余韻を残しながらも紅い雷は消え失せ、焼き尽くされた建物だけが残っている。
「……あれ?」
相手も味方もいない。
「なぁテラス。これって仲間にはダメージいかないよな?」
テラスはこくりと頷いた。
「お前なぁ……」
瓦礫の中からロビンが姿を現す。ロビンと同じように、少し離れたところにいたリリィとセレナも同じように瓦礫の下に埋まってしまったようだ。
「悪い悪い」
――アビリティ、紅雷EX+。全範囲の敵に、発動した相棒の属性と雷属性で、防御無視の超強力な攻撃。属性による防御を無視し、またあらゆる援護スキル、妨害スキルを無効化。
先程の紅雷の効果がメッセージが表示される。
「うひゃあ。やっぱ高ランクだとすげぇ威力……」
――ベリス、虎王、戦闘不能。
アナウンスに、ぞわりと身の毛がよだったのは僕だけではないはずだ。
「テラス、武器を構えろ!」
レイピアの一突きを、テラスの刀身が逸らした。しかし、それでもレイピアの持ち主、アレクは攻撃を止めない。身は黒く焦げながらも、攻撃の精度は全く衰えず、的確に急所を狙っていた。
「私たちは、王城に……!」
アレクの周囲を浮遊しているマスターの顔にははっきりと、〝敗北〟が浮かんでいた。
「勝たないと先輩の無念が!」
的確な攻撃だ。どれもこれも当たれば確実な一撃だ。それなのに、それなのにそれは……〝決意〟が。いいや、決意なんて言葉じゃない。この人の本心は……あまりにも〝虚しい〟。
「あんたさ、何のためにこの大会に出てるんだよ?」
テラスがレイピアを弾いた。
「負けた先輩のためだけにこの大会に出たのかよ!?」
「そうだよ! 何が悪い! 私の……俺の先輩はあいつに!」
テラスの峰打ちに、遂にアレクは膝を付く。
「あんたの大会だろ!? そんな……」
「お前は何も知らないだろう! あの……あの侮辱された戦いを!」
アレクは一度は付いた膝を必死に立ち上がらせ、彼と同じ顔をテラスに向けていた。
「お前なんかにわかるか!? 目の前で、尊敬する先輩が! 仲間が執拗に攻撃され、誇りを踏みにじられ、観衆に嘲笑される辱めが!」
アレクはテラスに拳を振り上げた……が、それをロビンが受け止めた。
「勝たなきゃいけないんだ! あの王城に!」
あぁ……僕と正詠が観たあの大会だろうか。
一人ずつ、武器があるにも関わらず殴り続け、リタイアを自ら口にさせるあの戦い。観衆は目を伏せる者もいたし、嬲られる相手を笑う者もいた。
そんな中でもはっきりと思い出せるのは、今目の前にいる彼のような〝敗北〟の表情。
「それなら……あんたらの誇りは、僕らが継いでいく! テラス、紅蓮!」
初級の炎属性の魔術アビリティ。こんなもの、目眩ましぐらいにしかならないけ
ど。
「ごめんな、今の僕の力ってさ、こんなもんなんすよ。だけどさ、王城先輩と闘う時には」
他力本願だけじゃなくて、自分の力で少しでも戦えるようになるからさ。
「今は、これで勘弁っす」
「あぁもう……最初から最後まで、生意気な
――アレク、戦闘不能。よって、チーム・太陽の勝利です。
勝利を伝えるアナウンスと共に、僕らは仮想世界から現実世界に戻ってきた。
今まで全く耳に入らなかった歓声と、眩しすぎるスポットライトが、本当に久しぶりに感じた。
『勝利したのは……勝利したのは、渾身の初心者! チーム太陽!』
海藤の煩い声が地下演習場に響いた。
まさかの勝利に地下演習場は大盛り上がりで、ブーイングらしい歓声も混じっていたのは、ここに入場した時と全くと同じだった。
とりあえずヘルメットを脱いで、僕は〝あの人〟を探した。
「どうした、太陽」
「やっぱりいた」
観衆席に、あの人……王城先輩はいた。
『さぁチーム太陽ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 一言どうぞ!』
海藤がマイクを渡してくれたので、僕はそれをプロレスの選手の如く受け取り、王城先輩を指さした。
「今はまぁ上から眺めてくださいよ、チャンピオン。僕たちの舞台に引きずり降ろしてやりますから」
静寂の後。
『なんと太陽選手! 去年のチャンピオン、王城選手に宣戦布告だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
そして僕らの長くも短い防衛戦は、ようやっと終わったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます