初戦/1-2

 続々とステージに上がっては紙を掲げては帰ってくる。気付けばそろそろ僕らの番だ。


「いいか太陽。2番は引くなよ」

「おう、任せろ。僕はくじ運かなり良いぞ」

「それだけは信じてやる」


 まだ王城先輩の隣……つまりは初戦で当たるチームは決まっていない。見たところ空いている枠は四つだ。


「2番だけは絶対ダメで、あと3番、4番もな。9番以降だったら王城先輩と当たるのは決勝戦だけだ」


 正詠はこそりと呟いた。僕はそれに頷いて、ステージに上がる。

 座っている人たち全てが、僕らに向けられているようだった。大きく息を吸って、少しずつ抽選箱に向かう。

 自分がこんなに緊張しいとは思わなかった。


「天広くん。ようこそ、バディタクティクスの世界に。私たちは君を歓迎するよ」


 校長の優しい笑顔と言葉が、僕の気持ちを解す。


「きっと君は、良いくじを引ける」

「はい」


 校長の声に頷いて、僕は箱に手を入れる。


「ちょいさぁ!」


 一気に引き抜いてその番号を正詠と共に見る。


「16番!」


 そのくじを掲げると、僕らの後ろにいる人たちは数人がため息を吐いた。


「よくやったぞ、太陽。これで決勝戦以外はあの人と当たらない」


 肩を叩かれ、僕は安堵の息を漏らす。

 ステージを降りると、海藤がウィンクしてきた。「なんだよ」と言うと、「やっぱくじ運良いよな」と返した。

 パイプ椅子に座ってステージを見た。どうやら最後まで2番は残っていようで、僕らと同じ二年のチームがそれを引いて肩を落としていた。


「では、トーナメント表を出すぞ」


 ステージに大きくトーナメント表が表示された。真ん中に大きく優勝の文字がある。王城先輩のチームは左上、僕らのチームは右下だ。


「へへ、何かいいかも」

「何がだよ太陽」

「ん? だってよ……僕たちは〝上がって〟いくけど、王城先輩は〝下がって〟行くんだぜ? 僕たちの作戦通りじゃん。情報熟練者エキスパートを、\情報初心者ルーキーの舞台に引きずり下ろす! その舞台は決勝戦だぜ?」

「おまっ……」


 僕の言葉に正詠は噴き出した。


「くくく、いや、いい。それぐらいじゃないと大将は務まらない……はははっ!」


 珍しく正詠のツボに入ったらしく、遂には声を上げて笑い出してしまった。変な注目を浴びてしまったが、校長の咳払いでさすがの正詠も笑いを堪えた。


「さて、今回は十六ものチームが参加してくれた。しかもその半数は新人の二年生だ。もちろん、三年生のチームにも期待しているけどね。先程二年生が面白いことを言っていた。君たちも聞こえたろう? 情報熟練者エキスパートを、情報初心者ルーキーの舞台に引きずり下ろす! 良いじゃないか! ゲームは番狂わせが最高に面白い!」


 校長の顔は明るく、少年の頃を思い出しているように見える。そんな校長の顔を見ていると、どことなく楽しい気持ちになった。


「だから期待しているよ、情報熟練者エキスパートの諸君、情報初心者ルーキーの諸君」


 校長の言葉に、誰も何も言わずとも拍手が起こる。その拍手を受けて校長は体育館から去っていった。その後にステージに上がったのは海藤だ。


「ではこれより練習日の割り当てを行います。三年生の練習日の割り当ては前回の大会の結果から。二年生は既に運営委員の我々が平等に割り当てています。フルダイブができる貴重な日です。忘れることにないようにお願いします」


 海藤は一つひとつチームを呼んでいき、談笑を行った。僕らのときも海藤はその笑顔のままで話を続けた。


「期待してるぜ、俺らの太陽」


 海藤から渡されたプリントには、校内大会までのスケジュールが記載されていて、僕らの練習日が赤く塗られていた。一日だけ、しかも午後だけだが。


「いくらなんでも少なくね?」

「これでもかなり捻じ込んだんだぞ。今年は新人が多くてな」

「クラスメイトだろ、頼むよぉ」

「勝てばどんどん練習日も増やせる。気張れよ、ナマコの太陽?」


 テラスが現れて、机の上で刀を振るった。


「おーおー元気だなぁ」


 あっはっはっと笑って、海藤は僕の肩を叩いた。


「さぁ次だ」


 僕と正詠は二人で軽くため息をついて、体育館を後にする。


「俺は部活に出てくる」

「おう。いつも通りホトホトラビットにいるよ。遥香たちもこの結果を待っているみたいだし」

「じゃああとでな」


 頬を膨らませるテラスを肩に乗せながら、僕は一人でホトホトラビットへと向かった。

 ホトホトラビットは珍しく客が僕ら以外は誰もおらず、いつもの角の席で遥香、平和島、日代がノートと教科書を広げていた。何度見てもこの風景は慣れない。というか、日代が勉強しているのがあまりにも似合わない。


「何見てんだよ」


 日代が広げている教科書に目を向けると、どうやら歴史の教科書のようだった。

 ひょいと教科書を奪ってみる。


「ガキみてぇなことしてんじゃねぇよ」


 言いながらも、日代は教科書を取り返すような仕草を見せない。


「なぁんか似合わないな、日代」


 僕は椅子に座りながらそう言うと、日代は大きくため息をついた。


「最近ノクトがうるさくてな。これだから相棒は面倒だ」


 日代が頭を振ると、ノクトが現れて日代の肩に乗った。すると平和島の隣に座っていた英和島の肩にセレナが現れて、距離がありながらもノクトをじっと見つめて微笑んだ。


「なぁ日代。昔話聞きたいんだけど」

「何言ってんだテメー。まずは大会の抽選の結果を教えろよ」

「お前が話さないと教えない」


 テラスが出てきて机の上に降りると、手鞠を取り出しセレナとノクトにそれを見せた。セレナは笑みを浮かべ頷いて、机の上に降りて二人して手鞠を始めた。それを見ていたノクトは二人の遊びに僅かでも興味を示したのか、少しして机に飛び降りてセレナらの遊びを見守っていた。


「マジで言ってるのか?」

「マジもマジ。超マジ。セレナたんとノクトたんの話を聞きたいお」


 テラスが手鞠をつきながらこちらを見ている。


「あんたがた どこさ ひごさ ひごどこさ くまもとさ くまもと どこさ  せんばさ せんばやまにはたぬきがおってさ それをりょうしがてっぽでうってさ にてさ やいてさ くってさ それをこのはでちょいとかぶせ」


 楽しそうに手鞠で遊ぶテラスとセレナを見て、気付かれない程度に首を上下に動かしていた。


「蓮ちゃん、話してあげてよ。セレナとノクトもきっと楽しんでくれると思うよ」


 眉間に皺を寄せ、日代は頭を振った。


「だからそういうことじゃねぇんだっての」

「お願い、蓮ちゃん」

「笑ったらやめるからな」


 狼狽している日代だが、幼馴染の平和島の頼みを断ることはできないようだ。そんなタイミングで、おっちゃんは僕に紅茶を出してくれた。

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