戦い/4
まず何をすべきか。
バディタクティクスにおいて重要なのは、スキルとアビリティの組み合わせだ。自身のスキルにあったアビリティに選ぶのが何よりも大切だ。
例えば援護系のスキルが多い相棒には、それを更に伸ばすアビリティを選ぶのも良いし、生存率を上げるために防御を上げるアビリティも良い。
つまり少し自由度の高いRPGみたいなものだ。
そうなると、僕のテラスはスキルが攻撃にも援護にも回れる手前、結構幅は広い。だが、バディタクティクスでは大将が倒れると敗北になるので、結果的に生存率を上げることを優先させるべきだろう。
「テラス、正詠からもらったデータを見せてくれよ」
ベッドを背に座りながらテラスに言う。
表示されたデータにはアビリティが数種とそのアビリティを入手できるネット模試が記されていた。
「えっと、まずは炎系の魔法攻撃アビリティ二種と、回復系が二種?」
合計四種のアビリティに言うアンダーラインを引く。
「テラス。これからアンダーライン引いたやつで表を作ってくれ。名前と効果と模試で頼む」
テラスは頷いた。すると別画面には先ほどアンダーラインを引いた四種のアビリティ名と効果、ネット模試のアドレスが表示されている。
「さんきゅー。んで、あとは……」
正詠からのデータには、他にもコメントが書かれていた。そこにはネット模試の難易度や、問題内容の傾向などだ。よくここまであの短時間で調べたものだと思う。
「うわ。化学で炎魔法二つか。あと回復は生物……これは中学までの範囲なのか。あと必要なのは現代文と英語か。よし」
立ち上がって椅子に座る。
「そんなわけでテラス。今アンダーラインを引いたアビリティで、模試対策を頼むよ」
テラスは宙をぼーっと見る。相変わらずバカっぽい。少ししてテラスの頭の上に電球が現れて、ずらりとデータが並んだ。
「はは、多いな」
テラスはくるりと回って着替えをした。学ランを来て、さらしを巻いている。応援団なのだろう。
「そんじゃ化学からやるかぁ」
僕はノートを広げて、テラスが出してくる問題を解き始めた。
というわけで、かれこれ三時間ぶっ通し。さすがに疲れたので休憩を挟むことにした。
「すいへーりーべー僕の船……祇園精舎の鐘が鳴る……接続完了ー……」
机に突っ伏して呟くが、それがどんな意味なのか混乱している。
「あーやばい。テラス、サイダー飲むよな?」
満面の笑みでテラスは頷いた。
サイダーを取りに行き、また部屋に戻る。部屋ではテラスが僕のノートを見て嬉しそうに眺めていた。
「どうした?」
サイダーをお猪口とグラスに注ぎながらテラスに聞いてみる。
ぴこん。
テラス:レベル18
「おーレベル上がったのか。よっしゃ」
テラスの頭を撫でる。きゅっと目を瞑る仕草が可愛らしい。
「そういやお前さ、どこで手鞠を覚えたんだ?」
テラスは首を傾げて、手鞠を取り出して遊びだした。
「いやだからどこで覚えたんだよ」
ぴこん。
覚えてないけどできるんだよなぁ。
「お前……それは前に僕が平和島に言った台詞だろ」
無邪気にテラスは笑って、手鞠を続けた。答えるつもりがないのか、ただの天然なのかはわからないが、これ以上聞こうとは思えなかった。
「ほら、休憩が終わったら勉強の続きするぞ。まだ夜の十時だし、もうちょっと遅くまでやれる」
テラスはすぐに手鞠をやめて先程の応援団のような服装に着替えた。現金な奴だな、ホント。
「今日中にネット模試の化学は終わらせておきたいところだな。さすがに日曜日まで苦手科目やりたくないし」
腕捲りをして勉強を再開しようとしたが、ふとネット模試をどうやるのか気になった。決して逃避ではなく、純粋な疑問として。いや、マジで。
「なぁテラス。ネット模試って、どうやって受けるんだ?」
テラスはすぐに僕が受ける予定のネット模試の受験要項を表示させた。
自宅で受けられるのは予想していたが、その方法は相棒を使ったものだった。相棒が受験者である僕らを監視することで不正などを防ぐらしく、不正をした時点でその模試は失格扱いとなるらしい。受験前には、彼らに机の上に余計なものを置いていないことを確認してもらい、他にもスマホの電源は切っているか、机の上に置いてあるものは規定内のものかどうかも確認してもらうらしい。ただし受験時間に関してはかなり融通が利くらしい。とは言っても制限時間を過ぎるのはNGではあるが、早く終わったらその旨を相棒に伝えて、ネット模試を終了できるようだ。
「今更だけど、科目を絞れるってのも便利だよなぁ」
普通の模試とは違い、一科目だけを受験することも可能で、苦手科目を徹底的にやりたいときにも、本番に近い状況で試験できるのは良いことだろう。
また、アビリティの取得条件に関してだが、これは点数によって決まるらしい。基本的には平均点よりどれぐらい多くとっているかで、賞品が変わるようだ。平均点と大差ない点数だと初級的なアビリティ、満点だと上級アビリティ等々……。
本当に良くできたシステムだと思う。相棒を強くしたいと思うのなら、勉強するしか手段はないのだ。
「ゲームの闘技場みたいな感じかな」
サイトの右上にバツ印を押して、画面を閉じた。
「さてテラス。とりあえず、化学だ」
僕が狙うの炎の魔法攻撃アビリティの単体攻撃用と全体攻撃用だ。正詠のコメントでは、特に全体攻撃だけは取っておくようにとあった。理由は、炎の全体攻撃は防御にも使えるからとのことらしい。
「ただレベルを上げればいいってわけじゃないのが、リアルの難しいところだよな」
勿論平均点は欲しいところだが、75点以上で取得できるアビリティも中々優秀だ。
「いやー……楽しくなってきたわ。やるぞーテラス!」
テラスは頷いて机の上で旗を振りだし、鬱陶しかったがそれは無視することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます