戦い/3
正詠を信頼はしているが、やはり不安は拭えない。
「本当に……本当に大丈夫なんだよな?」
「だから安心しろって。そもそもこのパッチは国家が提供してるんだぞ」
「いやいや、うちの国何してるんだよ」
「細かいことは追々、な」
「お、おう。テラス、インストールしてみてくれよ」
戸惑いながらもテラスは頷いて、インストール画面を表示させた。
「そっか。僕が決定ボタン押さないとダメなのか。ぽちっと」
表示されたボタンを押すと、みんながにっこりと笑ってこっちを見ていた。
「なんだよ?」
「びっくりするよ、太陽」
遥香の悪戯な笑み。
「え、そうなの?」
テラスはその場でくるくると回ると、きらきらと光を纏っていく。さながら、魔法少女の変身シーンのようで、心がわくわくしてくる。
「脱ぐのか!」
期待を胸に叫ぶが。
「「「「脱がない!」」」」
四人からの総ツッコミを受けた。「別にいいじゃん。期待したってさ」呟いてテラスの変化を見守った。
少ししてテラスを包む光が一瞬強くなると、テラスの姿がはっきりと現れた。以前と一切変わらないテラスの姿で。
「何にも変わってないけども」
「ね、驚いたでしょ?」
「確かに驚くわ……」
頬を膨らませて、テラスは鞘に納められたままの刀の先をこっちに向けている。抗議しているのだろう。
「パッチはちゃんと当たったな。テラス、属性を教えてくれないか?」
正詠がそう言うと、テラスはじろりと彼を見た。
「なんだこいつ生意気な目しやがって」
「蓮ちゃんってば……」
さらにテラスは頬を膨らませ、刀を掲げた。するとそこから炎が出てきて、花火のようにぽんと弾けて消えた。
「炎か……よし、これで全員の属性もわかったし、作戦の立て甲斐もあるな」
正詠をペンを回して、またノートに何かを書き始めた。
「ロビン、マルチウィンドウで俺たち全員の属性で取得可能なアビリティ一覧を出してくれ。あぁっと、それとここ二週間以内での模試、ネット模試の賞品も頼む」
待て。今模試とか不穏な単語が出なかったか?
「準備ができたってことはこれから模試狩りってやつか」
面倒くさそうに日代はため息をつき、それに平和島は微笑みを向けた。
「あぁ……パッチ探してるときにそんなんあったね。相棒が配布されるこの時期って、アビリティ目当てで色んな人が模試を受けるから、〝模試狩り〟って言われてるんだっけ」
遥香はリリィと共にネットで探し物を始めた。
いやいや、こいつら何言ってるのかわかってるのか? 模試だぞ、模試。勉強しないとダメなんだよ、わかってんの?
「えっと……天広くん、話付いて来れてる?」
「大丈夫だ、大問題だ」
「えーっと……」
「なんでアビリティだかを手に入れるのに勉強しないとダメなんだよぉ」
「天広くんってもしかして、一回も模試受けたことない?」
「自慢だけど一回もない」
平和島は苦笑して頬を掻いた。
「最近の模試って、大体アビリティを賞品として出してるんだよ。そうすると受験率が上がるから。それでね……」
「あぁ平和島。太陽には説明しなくていい。とりあえずスキルとアビリティの違いさえ理解できていれば、それでいいから」
正詠がそういうと、ロビンがみんなの相棒に何かを手渡し始めた。
「今日はここまでにしよう。みんなにアビリティ取得できる模試とかのデータを渡しておいたから、その中から少しでも多く手に入れておいてくれ」
相棒たちはこくりと頷いたが、テラスだけは首を傾げていた。それを見た相棒たちは、困ったような笑みを浮かべながらテラスの頭を撫でている。
テラスは頬を膨らませながら、瞳には涙を浮かべている。
「はは! 持ち主が持ち主だけにテラスも可哀想だな!」
日代が笑った。それがトドメになったのか、テラスの瞳からは涙が零れて、大口を開けて泣き始めた。
「蓮ちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ」
平和島の言葉を聞いて、テラスは泣き喚いた。やっぱりこいつらの声が聞こえなくてよかったと思う。
「テラスちゃん、落ち着いて……」
テラスはセレナとノクトへと鞘付きの刀を振るう。それにノクトが怒ったような仕草をして拳を振り上げるが、それを見たテラスが更に泣いた。テラスの前にリリィが立って、ノクトの頬を引っ叩く。ノクトはリリィの肩を押すと、リリィは尻餅をついた。
テーブルの上で、相棒たちの取っ組み合いの喧嘩が始まった。
「あぁもう……とりあえず今日は解散だ。いいか、太陽。サボるなよ」
頭を振りながら、正詠は立ち上がった。
「やれやれ、だ。相棒とはいえまだ生まれたばかりのガキか。帰るぞ、ノクト」
正詠に続いて、日代も立ち上がる。
「蓮ちゃん……あ、ごめん。みんな、また来週ね」
平和島は日代を追いかけるように立ち上がった。
「んじゃあ私も帰るね。太陽、宿題やっときなさいよ」
遥香が僕の肩を叩いて席を立った。
一気に寂しくなったテーブルの上で、テラスはまだ泣いていた。
「どうしたんだよ、テラス。そんなに泣いて。容姿に変わりないって言ったこと怒ってんの?」
ふるふるとテラスは首を振った。
「みんなに馬鹿にされたから怒ってるのか?」
ふるふるとテラスは首を振って、僕に指差した。
「僕がお前のこと馬鹿にしたから怒ってんの?」
またテラスは首を振った。
「えっと……なんか僕がしたのか?」
首を振りながらテラスは地団駄を踏んだ。
「教えてくれよ、テラス」
ぴこん。
みんなが……あなたを馬鹿にしているようだったから。
「そっか……僕のために、あんなに怒ってくれたのか」
ぴこん。
あと、刀を持った変化に気付かなったから。
「あ、あぁ……はは、悪いな。やっぱ気にしてたのか」
テラスの頭を撫でようと指を伸ばすと、テラスはその指を掴んで頬ずりした。
「よし。少し見返してやろうぜ。お前のマスターはやればできるってとこ、見せてやるよ」
テラスは僕の言葉に涙をぴたりと止めて、満面の笑みで頷いた。
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