第五章 みんなの戦い

戦い/1

 ホトホトラビットで校内バディタクティクス大会に出場することを決めた僕たちは、早速その週の土曜日に作戦会議をすることになった。というより、作戦会議というよりは正詠大先生の説明会だった。

 バディタクティクスに出場するために最低限必要なことは、参加者は五人、全員の相棒バディのレベルが10以上。一応僕含め全員のレベルは10以上になっているが、レベル差がかなり激しかった。


「いやさ、これひどすぎね?」


 ホトホトラビットの角の席で、みんなが相棒のステータスを見せ合っていたのだが、みんなのレベル差がかなり開いていた。


「正詠のロビンが25、遥香のリリィが19、日代のノクトが19、平和島のセレナが21……僕のテラスが15、だと?」


 っていうかさ、相棒のレベルを上げるのって勉強とかだよね。なんでテラスのレベルこんな低いの? 結構勉強しているはずだよ、僕。


「なぁ太陽。お前平日勉強してんの?」


 正詠ががっかりしたように僕に言ってくる。

 平日って勉強するもんなの? なに君達勉強マニア? それとも部活とかの後に勉強するほどのドMなの?


「日代! 何でお前僕より相棒のレベル高いの! お前不良じゃないの!」

「俺は不良じゃねぇ。それに部活やってねぇから帰ってきたら復習してんだよ、暇だから」


 哀れむように日代はため息をついた。


「そうだな。日代はただの素行不良だもんな」

「うるせーぞ成績優秀馬鹿」


 なんだその矛盾した罵倒の言葉は。お前ら実は仲良いだろ。


「俺からしたら太陽、テラスのスキルの方がおかしいと思うぞ」

「何がだよ?」

「いや、スキルレベルがEXって、おかしいぞお前」


 テラスが最初から所持しているスキルは、招集、他力本願ともにレベルEXとなっていた。正詠が言うにはEXというレベルは、普通あり得ないとのことだ。世界的にスキルレベルEXを所持しているのは、本当に世の中を変えるほどの人物に限るらしいが……。


「いやまぁ確かにおかしいかもしれないど、こんなこともあるんじゃね?」


 僕の反論に、正詠はため息をついて言葉を繋ぐ。


「まぁいい。総合的に見て、リーダーは確実に太陽にしたほうがいいな。テラスのスキルは前衛、中衛には向かない。リーダーになって後衛で構えている方が良い」


 正詠はノートにペンを走らせた。

 正詠はかなり本気でバディタクティクスの戦い方を考えているらしく、僕ら四人のスキルをどういう風に使うかを既に想定してノートに記していた。


「正詠、バディタクティクスそんなに好きなんだな?」 


 ホトホトラビットのマスターからおごってもらった紅茶を一口飲んだ。


「……あぁ。子供の頃から、夢……だったからな」


 正詠は辛そうに目を伏せた。


「すまない、正詠。なんか傷付けること言ったか?」

「なぁに言ってんだ。別に傷付けられてねっての。さってと……とりあえず、役割分担の話をするぞ」


 急に道化の仮面を被って、正詠は笑った。こいつにこんな笑顔は似合わないのだけど、傷付けたかもしれない僕本人から、そんなことを言えるわけなかった。


「前衛が二人、中衛が二人、後衛が一人? どゆことなの正詠?」


 遥香はそのノートを一番に見て、それを僕らに回した。


「えっと……今の話からすると、太陽くんは後衛だから、残りを決めるんだよね?」

「そう、その通りだ平和島」


 正詠はノートを手に取って、また何かを書き始めた。


「とりあえず太陽の話だけするぞ。こいつのスキルは調べた限りじゃあはっきり言って戦闘向きじゃない。招集、他力本願のスキルの二つはどっちも援護スキルだ。招集は自分の周りに味方を集めるスキル。他力本願はバディタクティクスに参加している敵味方のスキルをランクアップして使用するスキル。しかも他力本願敵で相手のスキルを使用するのなら、その詳細を把握していないとダメだ」


 ここまで話して、正詠は細く息を吐く。


「ただし……」


 正詠はにやりと笑みを作った。


「こいつのスキルは一発逆転に向いている。だから後衛で俺たちのリーダーであるべきだ」


 更に正詠はペンを走らせる。


「いいか。俺たちはかなり相性が良い。日代、遥香、お前達は前衛向きのスキルが揃っている。そして俺と平和島は中衛だ。前衛二人が守り切れなかった奴を狩るのに向いている。そして平和島、お前のスキル『博識』は敵のスキルの詳細を把握できる可能性があるスキルだ」

 はは! と日代は笑った。彼らしい狂暴な笑みだった。


「いいなそりゃあ! 気に入ったぜ優等生!」


 遂には日代は膝を叩いて笑い出した。


「俺たちの大将は、弱点であって最大の武器ってことだよな! そういうギャンブルは嫌いじゃないぜ1」


 僕と遥香は、揃って日代へと怪訝な視線を向けた。しかし、正詠と平和島、そして日代は、僕らを見て楽しそうな笑みを向けている。


「んだよ、那須も天広もまだわかんねぇのか?」


 日代は今までに見たことないほど楽しそうに笑っている。


「詳細を求めますぜ、正詠大先生」


 正詠は楽しそうに僕の質問に答えた。


「いいか、俺たちは情報初心者ルーキーだ。だから情報熟練者エキスパートの力を借りようってことだ」


 答えを途中で切って、その続きを平和島が語る。


情報熟練者エキスパートの人たちを、私たち情報初心者ルーキーの舞台に引きずり下ろす……ってことだよね?」


 平和島に似合わない楽しそうな笑み。


「そっか。強いスキルを使っちゃったら太陽に使われちゃうから……」


 遥香が手を叩きながらそう言った。


「同じ舞台に立たせりゃああとは純粋な殴り合いか騙し合いだ。んだよ、つまんねーゲームと思ってたが、存外面白そうじゃねぇか」


 日代は指の骨を鳴らした。

 ……なるほど、ね。それなら僕たちにも勝ち目はあるかもしれない。


「相手はどうしてもスキルの使用に制限がかかる。だからこそ、僕たちには可能性が産まれる……」


 正詠が肩を竦める。


「That's Right」


 そして正詠はにっこりと笑った。


「というわけで、バディタクティクス校内大会で優勝するための作戦会議を始めるぞ」


 そんなこいつの言葉に、僕たちは一斉に頷いた。

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