友達/4
いやはやしかし本当に。超高性能教育情報端末って凄いなと思う。英語、数学、化学。どれもこれも苦手なのだが、テラスが表示する勉強方法や参考の例題は非常にわかりやすく、不思議とすらすらと解ける。これが超高性能教育情報端末の本領発揮ってやつか。
生きてきた中で、初めてここまで勉強が楽しいって思ったわ。
「って、もう十時か」
体を伸ばしてサイダーを取りに言った。ついでというか、僕の熱烈な交渉で一つのお猪口をテラス用として頂けることになった。しかもそのお猪口はテラスのイメージにぴったりな桜の模様が入ったお猪口だ。こういうセンスはあると自分でも思える。
部屋に戻るとテラスはそりゃあもう鬱陶しいくらいに周囲を回っていた。
「わかった、わかったから。ちゃんとやるから」
お猪口にサイダーを注いで、父から貰ったVRゴーグルの説明書を読んでみる。
使い方は相棒がいれば簡単にできるらしい。ペアリングすればいいだけらしいが、そもそもこいつは何のために使うのだろうか。
「えーっと、主な使い方は……セミダイブ?」
セミダイブ。昨日のフルダイブとはまた違ったネット遊泳方法だ。
フルダイブは全身で情報を感知するが、セミダイブは昔からよくあるネットサーフィンの派生形。フルダイブを仮想的に体験するからセミダイブだ。相棒のテラスは体はその場にあるので、平和島の相棒みたく電子遭難することはない。まぁ、正確には電子遭難ではなく強奪だったが。
「おーいテラス。セミダイブしたいから強力してくれ」
サイダーを与えられて満足していたテラスは満面の笑みで頷いた。
「えーっと、とりあえず電源を挿して……」
VRゴーグルを被りながらベッドに横になった。完全に視界がこのゴーグルに支配される。この感覚は学校でフルダイブしているときに似ている。
「ペアリング頼むわ」
ぴこん。
VRゴーグルから見えるディスプレイには了解と表示されている。
ぴぴ。
短い電子音が鳴ると、前見たような世界が広がる。
おおう。セミダイブとはいえ、前回のフルダイブと似ている。全身で感じはしないものの、視覚からの情報はほぼ同じだ。
「お。テラス。お前またでっかくなったな」
ほくほく笑顔でテラスはこちらを見た。
うーん。なんだか不思議な感じだな。フルダイブ体験していると、これがあまりにも〝偽物〟に感じて、気持ち悪い。ロボットの〝不気味の谷〟とか、それに似ている感覚だ。フルダイブする機会なんてそうそうないし、こちらに慣れるようにしたほうがいいかもしれない。
「えーっと……あ、そうだ。王城先輩について調べ……」
――アテンション。不明なIPからのアクセスを感知。
前の時と同じ声だ。
「あんた誰だよ。前にもテラスを使って……話しかけてきたよな」
テラスはこちらを見つめている。昨日と同じ、〝ガラスのような瞳〟をこちらに向けている。
――妨害不可能。マスター天広 太陽。ご注意を。
テラスらしきものは僕の言葉を無視する。すると眼前で雷が落ちて、そこから何かが現れた。
「ハック完了。エラータイプ……いや、ゴッドタイプ『テラス』を発見」
現れたのは、真っ黒な鎧に身を包んでいる騎士だった。
――警告したはずです。次はありません、と。
おっと。ちょっと待ってください。色々気になるんだけども、まず僕はただセミダイブというものを体感し、ついでにちょっと調べ物をしたかっただけなんです。こういう事態を一切僕は望んでいないのですが。
「落ち着きたまえ。今日は対話をしに来たのだ。ゴッドタイプ」
――あなた方との対話は求めません。失せなさい。
「その仰々しい会話方法はやめた方がいい。君の大切なマスターが混乱する」
黒い騎士はこちらに顔を向けた。
「安心して良い。天広太陽。私は……そうだな、ノクターンという名はどうだろう? この容姿に似合っていると思うのだがね」
ノクターン……だって? なんでこいつは知ってるんだ?
「なんで僕の友達の昔話を知ってやがるんだ!」
「あぁ大声で話すと君の家族に気付かれるよ。気を付けなさい」
「このっ……!」
――構成を修正します。あーアーAHHHH。
「構成修正完了」
今までのテラスと違った声の調子だ。それは今までの機械的なものではなく、より人間らしくなっている。
「君の友達の相棒はセレナと言ったかな? あれも中々珍しいエラータイプだったよ。双子……というのは少し違うな。親が違うのだし。いやはやしかし珍しかった、セレナとノクトの二体は同じ基本構成……あぁ、ここでは基本〝構想〟と言おうか。全く同じなんだよ、起源が。だから少し調べさせてもらったんだ。まぁ返す予定はなかったのだけれど、彼女のおかげで君の相棒にも出会えたからね。それはサービスというやつだね」
黒騎士は楽しそうに話し始めた。
「しかし……どれだけこの
黒騎士の体から稲妻が漏れた。そして黒騎士は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。しかし、ある程度の距離に黒騎士が達すると前面に炎の壁が上がる。
「それ以上近付かないでください。マスターに危害を加えると判断します」
「くく……女神様は随分とそのマスターにご執心のようですね」
今度は三歩後ろへと下がる。
「あぁそうだ。しばらくは安心していいよ。私たちも調べ物をしなければいけないのでね」
「待てよ」
兜に隠れてこいつの表情はわからなかったが、その下にはきっと卑しい笑みを浮かべているに違いない。
「名前、教えろよ。ノクターンじゃないんだろ」
「そうだった、失礼しました。私はノクターンという名前ではございません。そうで
すね……〝パーフィディ〟と。以後お見知りおきを。神の父」
黒騎士は深く頭を下げた。その姿には一切の敬意は感じられない。慇懃無礼というのに、非常に相応しい様子だ。
「また……またどこかで会おう。近々ね」
ばちりと、世界が暗転した。
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