電子遭難/3
放課後になっても、平和島は教室には戻ってこなかった。遥香から聞くと、彼女は早退したらしい。チャットで多少やり取りはしていたみたいだが、やはり平和島に元気はなかったとのことだ。
その話を聞いた日代は「けっ」とまた悪態をついた。それを見た正詠はあれやれとでも言うようにため息を漏らす。
「で、日代。完全絶対座標を用意できると聞いたか、実際どうするんだ」
放課後、僕らはまた屋上で話し合っていた。
「〝ここ〟にあるだろうが、優等生」
日代は床を叩きながら言う。
「お前……まさか勝手に高校を使うつもりか?」
「そうだ。何かありゃあ俺のせいにすればいい。俺は〝素行不良〟の生徒だからな。お前たちは俺に脅されたって言えばいいだけだ」
そこまで言って日代は制服の内ポケットから煙草を取り出して火を点けた。それを何も言わずに正詠は奪い取って火を消した。少し二人は無言で睨み合って、互いにため息をついた。
ぴこん。
テラスを見ると、ディスプレイに『喧嘩?』と表示されている。
「喧嘩じゃあないと思うよ、テラス。こういうことから育つ友情もあるんだ」
二人に聞こえないように、テラスに呟いた。
「俺は場所を用意する。で、優等生はどうやってあいつの相棒を探すつもりだ」
「……平和島の家からのアクセス全てをハックし、そこからあいつの相棒を探す」
「はっ、ずいぶんと気の遠くなる話だな」
「俺たちが電子遭難しない可能性が出来たのなら、これが一番確実だ」
「ま、お前の言う通りだな。じゃあ平和島の家のアドレスは俺に任せろ」
「幼馴染が本当なら、調べられるだろうしな。任せる」
あれ、そういえば……。
「なぁ正詠」
「なんだよ、太陽」
「そもそもさ、自宅じゃフルダイブできないよな」
「まぁな」
「じゃあどうやって平和島の相棒は電子遭難したんだ?」
フルダイブとは、大規模のVR機器を使用してネットへ侵入し、体全てを使って感覚的に情報を探しやすくする方法だ。いちいちキーボードを叩かなくてもいいし、感覚で情報を知覚するから文字だけの情報に騙されにくい。
フルダイブをしているときは、相棒がネット上に文字通り体ごと潜るため、フルダイブと呼ばれるのだが……それ以外では今みたく〝外〟で情報取得をするのが普通だ。
「だからおかしいんだよ、太陽」
「え?」
「どうやって電子遭難すると思う?」
「いや、わからないから聞いたんだけど……」
「十中八九、強盗されたのさ。外から平和島の相棒に不正アクセスして奪い取ったんだ」
正詠は不機嫌そうに僕に返した。心なしか彼の肩に乗っているロビンも、正詠と同じように見える。柳原も言っていたが、本当に感情があるのだろう。
「普通強盗されるのは、自宅のセキュリティが弱いということだからな。どうしても、盗まれるほう〝も〟悪いと言われるんだ。理不尽だが、それにも一理ある」
確かに、正詠の言っていることはわかるが、盗まれるほうも悪いなんて理屈そんなの通らない。盗むほうが悪いに決まっている。
「うん! じゃあ何がなんでも今日中に見つけよう!」
今まで沈黙していた遥香だったが、正詠や日代の話が大分現実味を帯びてきて希望が見えたのだろう。二人と比べて遥香の顔は明るい。
「じゃあ今日の夜十時に裏門に来い。ここのことに関しては全部俺に任せろ」
「……そうだな。不安だがお前に任せる。それと
正詠は確認しながら、日代に左腕を伸ばした。
「お、同志宣誓みたいなやつ?」
僕も正詠に倣って左腕を伸ばす。さらにそれに倣って、遥香も左腕を伸ばした。僕らの相棒は全員が手の上に現れる。
「同志宣誓が友達申請なら、これは知り合い申請だ。口上も何も必要ない。ロビン、日代を共有宣誓する」
ぴろりん。
気の抜けるような音がした。それだけで正詠は腕を下ろした。
「え、そんだけ?」
「そんなもんだ」
「えーっと、テラス。日代を共有宣誓する」
「リリィ、日代を共有宣誓」
ぴろりん。
ぴろりん。
同志宣誓のときとは全く違って、随分とあっさりしている。
「こいつはノクトだ。一時的だが、まぁよろしくな」
よろしく、という割には、日代も彼の相棒のノクトもかなり不愛想だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます