電子遭難/2

 正詠と日代が睨み合っている。

 遥香は怪訝そうに日代を見ており、少しのきっかけで喧嘩になりそうだった。


「やったとしてもお前と一緒にってのはごめんだ」

「完全絶対座標なら俺が用意してやる。だから協力しろ」

「……」


 日代は完全絶対座標の施設に関しては自信があるようだ。というか、普通の固定IPとの違いをわかって話しているのだろうか。


「なぁ日代。完全絶対座標の意味、本当にわかってるか?」


 確認のために日代に話しかける。


「当たり前だろうが。そもそも浮動も完全も、こいつらのためのネット環境だろうが」


 浮動不確定座標は、相棒自身に振られるIP。相棒が通常ネット接続している状況で、各家庭や各施設が契約しているプロバイダが適当に振るIPのことをこう呼ぶ。つまりは普通のネットと何も変わらない。

 そして完全絶対座標は、相棒と施設両方に振られる特殊な数値を含んだ固定IPだ。それは通常のIPとは違う数値の為、それを見ることで〝どこから〟アクセスし、〝どこへ〟アクセスしたのか、理論上永遠に、そして確実に追跡可能となる。


「那須、テメーはやるよな?」

「私、は……」


 遥香は僕を見る。今までの意気はどこに言ったのかというほど、その瞳は非常に不安そうだった。対して日代の瞳は自信に満ち溢れていた。断るわけがない、と思っているのだろう。


「待ってくれよ、日代。その前に、なんで君がそんなことを言い出すのか知りたい」


 何故、僕らの話に乗ろうとしているのか。

 何故、危険を犯してまで平和島の相棒を救おうとしているのか。

 その理由がないのならば、いくら何でも協力できない。


「あ? 平和島の相棒を助けようとしてんだろ?」

「んーまぁ、今のところは」

「面白そうだから手伝わせろ」

「それじゃあ駄目だ、日代」


 なるだけちゃんとした笑顔を作ったつもりだが、日代の表情を見る限りどうやら僕の作戦は失敗したようだ。


「反吐が出る顔をするんじゃねぇ、天広」

「嘘を吐いている奴に協力するつもりはないよ。たとえ日代が完全絶対座標を知っていてもな」


 正詠の肩を叩いて、遥香の背中を叩く。


「平和島は……俺の幼馴染だ。だから助ける。それの何が悪い」


 さて戻ろうかというところで、日代はようやっと本音を言ってくれたようだ。


「だってさ、正詠。君も僕の相棒がいなくなったら探すのを手伝ってくれるよな?」


 正詠にそう言うと、困ったような表情を返す。


「放課後、また集まろう。日代、お前もだ。いいな?」

「けっ」


 悪態をついた日代の顔は、普段とは違ってどこか照れ臭そうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る