日常/4

 土曜日は買い物から帰ったあと、だらだらと過ごした。

 そして日曜日は、勉強をして過ごすことにした。テラスを使った学習がどのようなものなのかをもう少し試してみたかったというのもある。

 いやはやしかし、昼前に起きてから夕方まで勉強するなんて久しぶりだ。こんなに長く勉強するなんて思ってもみなかった。父も母も妹も僕のそんな姿には驚いていた。

 ここまで勉強したのは受験のとき以来だ。あの時はランナーズハイで無理矢理詰め込んでいたなぁ。そんな昔のことじゃないのに懐かしい。


「お前レベル上がった?」


 テラスは自分のステータスを表示する。


 テラス LV:10


 あんまり上がってない気がする。うーむ。もっと効率よく勉強すればそれに比例してレベルも上がるんかな。

 そんな僕の様子を見て、テラスは首を傾げている。


「遥香や正詠はレベルどんくらいかわかるか?」


 テラスは宙を見てしばらくぼーっとしているような動作をした。


「……?」


 何か声をかけようとすると、頭に光の点いた電球が表示された(比喩とかではなく本当に電球が出た)。それとほぼ同時に、リリィとロビンのレベルが表示される。


 リリィ LV:8

 ロビン LV:12


 二つずつ差があるのか。

 大きく背伸びをして、ノートを閉じる。


「今日は疲れちまったわ」


 笑顔を浮かべながら、テラスは頷いた。そして、効率的な休憩方法や休む際の注意点などを表示する。


「サンキューな。その方法はまた今度試すよ。今は眠い……」


 大きくあくびをして、ベッドに寝転がった。春らしい気候のせいで僕はすぐに意識を失った。




 夢を見た。意識ははっきりしており、明晰無だとわかった。飛んでみたりできないかなと期待してみたものの、この夢ではできないらしい。


「どうしたの、太陽くん?」


 少女らしい甘い声。何となくだがこの声の主を知っているように思う。


「別に、なんでもないよ」


 確かに今、自分が喋った。それなのに、それは自分ではないような妙な錯覚がある。


「太陽くんは、どんな子が好きなの?」


 声の主は僕の名前を知っている。声の調子から、親しい間柄のようだ。

 あぁ、これはきっと昔の夢を見ているのだろう。

 となると、この子は遥香かもしれない。あいつも小さい頃はそれなりに女の子をしていたはずだ。


「僕は■■■ちゃんみたいな子が好きだよ」


 ノイズ。


「■■■■■■■■■■■」


 ノイズノイズノイズ。


「きっと、また会おうね」


 ずきりと、頭がひどく傷んだ。




 あまりの頭痛に目が覚めると、目の前にはテラスがいた。心配そうに眉尻を下げている。もしかしたらうなされていて、それを心配しているのかもしれない。


「大丈夫だって。ちょっと頭が痛いんだ。勉強しすぎたかもな」


 頭痛はまだ治まらないが、笑顔を作る。それでもまだテラスの表情は晴れることはなかった。少しぎこちなかったかもしれない。


「ところで今何時?」


 テラスが時間を表示した。

 時刻は深夜の二時が映し出されていた。

 おーのー。

 僕は折角の休日を勉強に使ってしまったというのか。愛華の荷物持ちをした土曜日ならまだしも、日曜日にこのようなことをするなんて。学校が始まる。やばい。


「テラス。月曜日を消す方法を教えてくれ」


 テラスは宙を見てぼーっとする。どうやらこの間抜けな仕草は、テラスが情報を探している時にするようだ。少しするとまた電球が表示された(もう一度言うが比喩でもなんでもない)。


「あるのかよ……どれどれ」


 暗い部屋ではテラスが表示する情報は眩しかったために少し目を細めた。


 ・月曜日という漢字を紙に書いて消す

 ・カレンダーに記載されている月を消す

 ・世界を作り替える

               More…?


 違う……違うんだ、そうじゃないんだ我が超高性能教育情報端末、通称SHTITシュティット! そうじゃないんだけど、お笑いとしては及第点です!

 はぁとため息を吐いて、左腕で両目を覆う。

 すると、ぴこんぴこんぴこんと、控え目な音量の電子音が何回か聞こえた。腕をどかしてみると、テラスが慌てふためきながら何かの情報を表示されている。そこには、『喧嘩 仲直り方法』、『言葉で傷付けた 癒し神 助けて』、『相手がため息をついた 原因』等々、色々表示されていた。


「お前、もしかしてさ僕が怒ったりしてると思ってんの?」


 ダメだ……。


「あははっ……可愛いやつだな!」


 あーダメ。笑っちまう、こんなことされると。


「安心しろって。怒ってないから」


 それを聞いて、テラスは胸に手を当て、安心したように息を吐いた。

 本当に良くできたAIだ。まるで生きている・・・・・ようだ。


「とりあえずもう一回寝るから、七時に起こしてくれな」


 テラスは力なく頷いた。

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