第七章 ヴァイオレットと紫のクオリア PART3
3.
第二楽章
ヴァイオリンが序章を奏で、それにあわせてフルートが風の調べを唄っている。二人の音色が絡まって月夜のように淡い光を醸し出していく。
……まさに夜想曲だ。
高音の鍵盤をゆっくりと打ち鳴らし、一つ一つの音が聞こえるように表現する。第二楽章は月の光が射し込むような優しいメロディにしなければならない。
心を研ぎ澄ませ指紋にまで気を使うよう鍵盤に触れる。ホールスタッフも気を効かせてくれているようで、鍵盤が見えるくらいにスポットライトの光を弱めてくれている。
……風花と演奏するのもこれで最後だ。
日本に帰ってきて初めて風花のために弾いたのがこの曲だった。彼女の音色はとても優しく軽やかで、思い出がメロディに合わせて反芻されていく。
何気ない家での会話、劇団の指揮、懐かしい海での散歩、そして風花の家での一夜。
再び迷いが生じそうになる。偽ってでも風花と一緒にいる道を模索しようと考ええてしまう。
しかし、もう少し、もう少しだけと思っているうちに時間が過ぎていく。まもなく演奏は佳境へ入ってしまう。
……風花、君を本当に愛していた。
これからは君を見守る立場になるけれど、それでも君を愛していることには変わりないよ。
彼女への思いを胸にそっとしまい鍵盤を撫でるようにして第二楽章を閉じた。
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