第13話 サレンと朧
「君は凄いねぇ」
ふと目を開けたサレンの視界に、一人の男が、自分の顔を覗き込んでいる姿が見えた。
目が在った男は、「にこり」と、笑う。
……裏のありそうな笑顔だと――サレンは感じた。
「貴様……」
「ははは、そんな怖い顔しないでよ」
君と僕の仲じゃんか。
そんなことをいう男を、サレンは知っている。自分と入れ替わる予定だったはずの男。
「椋木 朧……」
「名前、覚えててくれたんだ」
「忘れるわけはない」
ついさっきまで一緒に居たんだ。
サレンが死んでからは数日が立っているが、朧と別れてからは一日も立っていないのだ。そう考えれば、生き返ってからも色々とあった。
「嬉しいね」
見たこともない暗い部屋。
この場所は一体どこなのかと、サレンは立ち上がって問うた。
「……ここは?」
顔をほころばせて笑う朧。
「君の精神世界じゃない? 時の部屋ではないけどね」
ああっと、ゴメン。世界が違うから知らないのか。と謝る朧。
そんなヘラヘラとした態度にサレンの眼は鋭くなる。
「貴様……」
「そんなに睨まないでよ。誰がどう見たって被害者は僕でしょ?」
「さあな」
「でも、こうして君の精神の中で、魂だけの存在で、こんな狭い場所に閉じ込められているんだよ?」
とぼけてみるサレンだが、笑顔でそういわれてしまってはなんと返せばいいのか。
「……」
「君がしっかり、あの可愛い神様の言う通りに動いてくれていれば、今頃、この体は僕の物だったのにね」
あーあ。
あんなに可愛い猫耳っ娘や、お嬢さんがいるなら生き返りたかったよと嘯く朧。
「それは残念だったな」
「うん、残念だ」
という割には笑顔は崩さない。
別に今の生活も嫌ではなさそうにサレンは見えるが、それは朧のみぞ知ることである。
「ならば俺から出ていけばいい」
「僕も出たいよ。あんな風に三人の男を、私的な感情もなく、敵意のみで殺すことなんて、僕には無理だったもんね」
どうやら、サレンの視界から、そとの景色ははっきりと見ることは出来ないが、それでもある程度の事情は把握することができた。
映画や漫画の様な世界を、実際に生きるとなれば、朧にはそんな勇気はない。
「神も言っていたな。お前たちの世界は平和だと。この程度で怯むようなら、この世界では生きて行けないぞ?」
平和な世界に帰れとはいうが、帰り方も分からないし、自分の体から朧を追い出すすべも知れない。
「ははっ」
そんなサレンに、やはり笑顔を向ける。
「何が可笑しい」
「確かに生きて行けないけどさ、でも、それでも凄いよ」
世界が違うのは分かるけど、君の意思はすさまじい。
同じ体にいるからか、意識や思いをひしひしと感じるのだと朧は言う。
「……」
「怒らないでよ。それくらいは許容範囲でしょ? 体を取り戻したんだから、それくらいは許してほしいな」
手を合わせて、お願いとポーズを取るが、サレンの視線は鋭いまま。表情が変わらないのを見て、仕方なしに朧は話を続ける。
「容赦ない覚悟。だったね」
「覚悟ではない。『弱肉強食』それが俺の生きざまだ」
その為になら、《騎士団》だろうと平然と殺す。
「それに、お前はこの世界を知らないだろうが、《騎士団(やつら)》だって、人を殺している」
「分かるよ。僕も……」
弱いからこそ自ら命を絶った。強さを持てなかった自分は情けない。
「けど、強いって事はね、どれだけ『意思』を持っても、弱い人からすれば同じなんだよ」
弱いからこそ――朧には分かる。
「それがどうした」
「だから、君が殺したあの《騎士団》と、君は同じなんだよ」
「……俺は奴らと違う」
「一緒だよ」
人を殺すという点ではね。
だが、それは弱者でもあり、世界が違うからこそ抱く感情であり、クウカとハコは同じだとは言わないだろう。
だからこそ、そんな朧の言葉はサレンには届かない。
「それが、どうした?」
「いや、どうもしないんだけどね」
どうしたと言われてしまえば、元も子もない。口を少し前に出して、不満を見せる。
「なら、何故……俺の前に現れた?」
それが言いたくてサレンの精神へと現れたのではないのか。やはり――サレンを恨んでいるのだろか。恨まれても仕方はないのだが。
しかし、笑っている朧は恨んでいる様子は微塵もなく、
「うーん、なんだろう。やっぱ、一人でここに居るのが寂しくなっちゃたからかな」
というだけだ。
「そんな理由で……?」
ふざけた理由ではあるが、それは意識も身体も持っているサレンからすればであり、朧からすれば、十分な理由になり得た。
「いいじゃん。君は自分の体で好き勝手出来るんだから……」
弱い僕じゃ君の意思をはねのけてまで表には出られないよ。あーあ、僕の体はどうなっているんだろうなー。と悲壮感を醸し出す朧に、若干ばつの悪そうな表情はするものの、
「そうか」
の一言で終わらせようとした。勿論、朧はこれで終わらせるつもりはない。次、精神の世界とは言え、いつ会えるのか分からないのだ。
ここで、不満をぶちまける。
「こうして、君の隙を見つけて、話をするだけで精いっぱいだ。あー不便、不便」
「ふん。本当なら貴様の精神を、俺の体に入れてくことも不愉快だがな。入れて置くだけでも有難いと思え」
「そんなこと言わないでよ。戻り方も神様に聞かないと分からないんだしさ」
「なら、貴様が大人しくしていろ」
サレンからすれば、二度と俺をこの場所に連れてきて欲しくはない。異世界の人間に時間を取られるほど、暇ではない。
「無理無理。君の中、暇だもん」
しかし、朧は暇である。暇であれば時間を潰したくなる。自分の見たいものが見れないのは、意外にもストレスがたまるのだ。
見たいテレビがあるのにチェンネル権を与えられなかった感じだと、朧は思うが、そう思ってしまうと大したことが無いように感じるのは仕方がないか。
「知るか」
「いや、だからさ、君に良い事を教えてあげようと思って」
やる事がなかった朧が見つけたこと。
「……なんだ? 手短にいえ」
「いや、ほら、言ってたじゃん? 神様が。入れ替わって生き返れば力が手に入るって」
「……そんな事言っていたな」
今の今まで神様のそんな発言を忘れていた。
それも仕方がないだろう。自分の体で生き返ったサレンには関係のない事なのだから。
しかし、精神だけであろうとも、異世界の体へと入っている事には変わりない朧は力の存在を――何かを感じているのか。
「いや、はっきりとは、まだ、僕も分かんないんだけどさ、ただ、なんかすごい力を感じるんだよね」
掌を握る朧。
「それで?」
「この力、もしかしたら、君に貸せそうな気がするんだけどどうかな?」
自由の代わりに力を――朧が持ちかける取引。
「いらんな」
だが、そんな力にサレンは頼る気はない。自らの力で、自らの道を進む。
「なんで?」
「そんな力に頼らなくても俺は生きて居られる」
自身の体を朧に明け渡すつもりは毛頭ない。
「けどさ、強くならないとダメなんじゃないの」
「……」
「今の戦いも見てたけどさ、《魔工師製》の武器も使ってないみたいだし」
「それは……」
しかし、聞かなくても朧には分かる。
「自分の力だけでって思ってるんでしょ?」
「当たり前だ」
人の力を使ったらそれは、自身の強さではない。力を借りた相手が強かっただけだ。それが真の強さだと言うのならば、それは強くはない。
「それじゃあ、君は弱いままだよ」
だが、朧はそんなサレンの意思を『弱い』と言い切る。
「何?」
少なくとも、朧の意識を押さえているのだから、弱いのはお前だと朧に言う。
「世界はね、一人じゃ生きて行けないんだよ。力を持った君には分からないけど」
一人で生きるのは僕には無理だった。
敵意もなく、相手にされない。
そんな生活を僕はしていた。
「でも、助けを求めることも出来なかった」
だから、僕は密かに嬉しかったんだよ。偶然なだけとはいえ――神様(だれか)に必要とされていたのが。
本当にうれしそうに眼を緩ませる。
「それは良かった」
「でしょ? だからこの力君に貸してあげてもいい」
君には僕が必要で、僕には君が必要になる。
故に取引だ。
「いらん」
しかし、再度取引を持ち帰る朧にやはり即答で答えるサレン。
「なんで」
「その隙に貴様が俺の体を乗っ取ろうとするかもしれないしな」
どんな理屈か知らないが、もしも精神がサレンの体に残っていて、支配することが可能なら――むやみやたらに関わらないほうがいい。
サレンは一瞬たりとも譲らない。
「ははは、バレタ……?」
「それに、そんな力などなくても、俺は強い」
「強いなら、僕の意識位簡単に消してみてよね」
暇で仕方がないんだからさ。
「……」
「ま、別に無理強いはしないけど。僕としても消されるよりは、取引したいしね。それは覚えておいてほしいかな」
朧の体が透けていく。それは朧の消失ではなくサレンが意識を取り戻しつつあるのだ。そんな朧に向けて、
「そうか。なら、貴様も覚えて置け。お前が俺の体を支配することは出来ないと」
宣戦布告をするのであった。
「はははは。じゃあ、君の意識も戻りそうだから今日はこの辺でね」
バイバーイと手を振り姿を消して言う。
「また会おうね!」
「俺は合いたくないけどな」
「そんなこと言わないでよ」
「ふん」
朧が完全に消え――サレンの意識は目覚めていく。
Never Surrender 誇高悠登 @kokou_yuto
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