第10話 職業

「この村の住人は畑を作って暮らしてたみたいだねー。自給自足!」

 

畑に作物は残っていなかったが、この家の中には保管されていたようで、この村で作られている農作物を加工した食料を、自身の懐へといくつか収めていくクウカ。

何故かここだけは周りと比べても綺麗なままで、家の中も何一つ荒らされていなかった。

 ほかの家は跡形もなく焼かれていたのにだ。


「……」


「どうしたの?」


「おかしいな」


 その事にサレンは違和感を覚えていた。


「何が?」


「なぜ、この家だけ明らかに違う……」


 木と植物で作られた脆い家が農民の住宅であり、先ほど外に出た時に、この村でもそうだったと確認はしている。

 その中に、煉瓦でできた家があるのはおかしいとサレンは言う。


「それはそうだけど」


 現に、今も目に入って来る、家具からしてもそうだ。


「うむ……」


 と、サレンは考える。


「どうしたの?」


 そのうちの一つに目を付けるサレン。普通の家は、枯れ木を積み上げて火を起こしていたようだが、この家にある《道具》は、薄い長方形をしているものだった。


「この道具……見たことがある」


「はにゃはは。当たりまえじゃん。何言ってるの?」


 農民は当然として、騎士達も買えるかどうか分からない高価なこの《道具》。しかし、目にしたことはサレンも何回かはあるはず。

 何をいまさらとクウカが呆れていた。


「そうだが……」


 調理場と思われる場所に置かれているこの《道具》は――。


「コンロ……?」


「え? なんだって?」


「あ、いや、あれはそんな名前では無かったか?」


「違うよ。あれはただの《調理用魔法具》。そんな変わった名前じゃないよー。どうしたの、さっきっから変な言葉いっちゃってさ?」


「あ、いや、何でもない」


 死んで神で在ったことで何か影響を受けたのか……。

 そのことを情けなく思うサレンの表情に気付いたのか、明るくクウカは言う。


「まあ、農民が持ってるのは珍しいよねー」


 クウカの言う通り、この世界には主に4つの職業が存在していた。

細かく分ければ多数存在するのだが、大きく分ければ4つになるだろう。

 《魔法》を使って道具や武器、人が使うべきモノを作る《魔工師》。

 同じく《魔法》を使い流通や商売を生業と知る《魔商人》。

 そして、サレンが敗れた《騎士団》達の様な戦闘を行う人間。

 最後が滅ぼされた村の様な《農民》たち。

 そのうち二つの《魔工師》と《魔商人》は《魔法使い》と呼ばれる人間が付く職業であり、最も人数の少ない職業だ。

 この世界――《ウーム》では人間は皆、《魔力》を持ってる。朧たちの世界では《体力》と称されている人が体を動かすのに使うエネルギー。

 ただ、《体力》と《魔力》が違っているのは――《魔力》は、火や水、風や土、木や雷を形成させることが出来るのだ。最も、《魔力》を具現化させることが可能な人間はほんの一握りしかいないのだが。

 その力を持った人間は《魔法使い》と呼ばれ《ウーム》では重宝されている。

《魔工人》はその能力を使って色々な物を作り上げていた。

 最近の発達は包まじく、《魔力》があれば、誰でも《魔法》を使える発明を施したのだった。


「とは、言ってもねぇ」


 誰でも使える《道具》であろうが――言葉の意味のままになることはない。最下層の農民達では――一生かかっても手にできる《道具》ではない。

 農民は4つの職業でも一番下の職業だ。辛い肉体労働、働いた成果のほとんどは強制的に王国へと納めなければならない。

 肉体労働の割に対価を貰えない。

 《魔法》も使えず、《騎士団》にも入れない弱い人間たちだ。


「それなのに……」


 この家には《調理用魔法具》の他にも、農民では持てない《道具》や衣服が無数に置かれていた。


「この村に住んでただけであって、ひょっとしたら《農民》じゃなかったのかもね!」


「そうなのか……」


 そんなクウカの言葉に、


(まあ、俺には関係ない。この家の住人が誰であろうと、どうでもいいだろう)


 何を真面目に考えているんだと、自分の胸に手を当てる。


 その時――勢いよく扉が開かれた。

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