第9話 神の兄妹

 サレンがどうやって騎士団へと攻め込むかを考えていたその時、美しき金髪をした少女は、その光景をただただ、見守る事しかできなかった。

 朧が宇宙の様だと感じた例の空間に、金髪少女の神様はいた。


「あいつ……。生き返るためなら手段を択ばないな。あんな最低な行為するとは思わなかったよ」


 光る星々で作った光の環。その中に、サレンとクウカが映し出されていたのだ。


「……思わなかったではないっ!」


 瞬間的に現れた声に、ビクっ。と、体を震わせる少女ではあるが、その声の相手を確認した途端に、


「うう、お兄ちゃん」


と、抱き着いた。


「全く……。私が新しい世界を作っている間に、管理を任せたが――まさか、管理もせずに寝ていたとは思わなかったぞ。更には、世界を救う方法を試すも、人間如きに虚を突かれて失敗するとは……」


「……うう」


「情けない」


 少女の失敗を数える男。少女に、「お兄ちゃん」と、呼ばれているだけあり、兄妹なのだろう。美しい金髪をした爽やかな青年は、抱き着く妹に呆れて顔を片手で覆った。


「それで、私はどうすれば良いの?」


「……ふむ」


 少女の兄である男は、映し出されているサレンを冷たい視線で凝視する。何かを見据えるかのように、妹を裏切った男を憎むかのように。


「お前も感じるだろう?」


 兄から離れた少女は兄と並んで、サレンを見る。

 何回見ても感じるこの気持ち。


「うん、憎悪を感じるよ」


 私も力が完全なら今すぐにでも懲らしめに行きたいよと息を荒くする少女。そんな少女の頭を撫でながら、


「違う、奴の中に居る、椋木 朧の魂だ」


 と、自身が感じている朧の魂だと告げた。


「朧くんの魂? ……感じるかな?」


 そうは言われても少女には何も感じられない。

 少女も、もしかしたら朧が生き返れば、サレンの魂をこの場に戻せると、すぐにサレンの世界ウームを観察したが、目を覚ましたのはサレンだった。もう、自分に出来ることは何もないと諦めていたのだ。

そんなときに兄が助けに来てくれた。

自分だって忙しいだろうに。


「神の力を弱められているから、お前は感じられないかも知れないが。だが、俺は確かに感じている」


「本当!?」


 少女の顔に望みが強くにじみ出る。


「サレンの強い意志で、朧の魂が表にでれないようだ……。ならば、その支配から朧を解き放ち、逆転させればいい。だろ?」


 簡単な事だと少女へ笑いかける。


「なるほど。そうすれば、サレンの体には朧が入る!」


「その通りだ」


 妹が元気になったことに満足げに頷く男。


「でも……それじゃあ、朧の世界は?」


 しかし、二人とも一つの世界に居るのだ。このままでは、救えと言われていた二つのうちの一つの世界、朧が住んでいた《地球》は救えなくなってしまう。


「あっちは争いが続くと言っても比較的に平和。後からでも手はある。二つの世界を救う事がお前に与えられた使命。だが、同時に救えとは言われてないだろ?」


「そっか。なら、優先するのはサレンの世界ってことね」


 面倒くさいから同時に救おうとして、タイミングよく前提条件が満たされていたから、実行しただけ。

 自分で決めた方法に捕らわれすぎていた――と、少女は反省した。


「ああ、いざとなれば、サレンの世界を救った後に、褒美として、朧を生き返らしてもいいしな」


「おお!」


 頼りになる兄のアドバイスをしっかりと忘れない様に頭へと焼き付ける少女。


「その為には、まず、お前はサレンを見張っていろ」


「はい!」


「その間に、私の方でも対策は進めておく」


「えっ。でも……お兄ちゃんは私と違って忙しいのでは?」


「自分でも仕事を与えられていないと分かっていたんだな……」


「勿論!」


 喜々として頷く少女。

 戦力外の扱いされているのに、何故、嬉しそうなのだろう。

 だが、兄である男は、妹の嬉しそうな顔が見れるのは至福なのだ。神様である兄の唯一の癒しが妹。

神のくせに人間味が豊かだ――。朧ならばそう思うだろうが、サレンの中で眠ったまま。


「ただ、お前に課された使命である以上、私の手助けも限界がある。上手く目は盗むが、必要以上は期待するなよ?」


 流石の兄でも妹の使命を全部背負う事は出来ない。

 ふがいなさそうにするが、


「ううん。十分助かるよ。お兄ちゃん大好き!」


 再度抱き着く少女。


「はははは、もっと、褒めろ、妹よ!」


 妹に一日に二回も抱き着かれ、天にも召されそうな兄。

 ……こんな神様に管理され作られている世界は悲しいな。

 朧ならばそう抱くだろう。

 サレンならば無用で切り捨てたかも知れない。

 だが、どんな感情、思考を持とうとも、このふざけた兄妹が世界を作り管理している神である事は紛れもない事実。

 だからこそ――力を持つものは何をしても許される世界へと、どの世界も進んでいるのかも知れない。


「しかし、気を付けろよ?」


 至福に緩んだ頬を引き締め、少女に忠告をする。


「何を?」


「今回、お前が起こしたことは、我々にしても前例がない。つまり、どうなるか分からないのだ。最悪、奴らの世界の均衡は崩れるかもしれない……」

 世界そのものが神の失敗を受け付けないかもしれない。サレン一人を排除するために世界が自ら崩壊を行う可能性があると――男は言う。


「そんな……」


「まあ、人間どもの世界がどうなってもいいが、世界を滅ぼした原因がバレたら、きっと馬鹿にされるだろうな」


 ほかの神たちでも、世界を幾度も消滅へと導いている神もいるが、救おうとして滅ぼした神は皆、笑い者にされてきた。


「そんな……」


 その光景を思い浮かべるだけで少女の顔は青ざめる。


「お、お兄ちゃん」


 血の気のない顔で兄を見る少女。その視線に兄は優しく答えた。


「だけど、大丈夫だ」


「……!」


 クイッ。

 と、少女の顎に手をかける。

 朧たちの世界でこれをやれば女性は皆落ちると言う「顎クイ」。

(人間め。神には思いつかないテクニックを思いつきおって)

 しかし、それが本当ならば試す価値はある。


「普通なら、見捨てられるだろうが、幸いにもお前の兄はこの私」


「……お兄ちゃん!」


「そうだ、もっと甘えろ」


「お兄ちゃん最高!」


「ああ、そうだ」


「お兄ちゃん神!」


「そうだ! 私が神だ!」


 どうやら、神様は基本、おかしな連中が多いようだった。

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