第4話 合流 2

 昔々あるところに偉い神様たちが居ました。


 私よりも偉い、私からしても途方もない神様です。


その神様たちの力はとてつもなく、宇宙を作り、次元を作り、世界を作りました。


 自分たちの《神》としての可能性。


 それを確かめるために自らの《子》を作りました。


 二人が居る世界を作ったのは私の一族です。


 《子》とは、この世に生きる全ての生き物。


 《子》達は、ある世界では魔力を持ち、ある世界では動物と交わり、ある世界では独自の発展を進めていきました。


 そんな世界を管理するのが私に与えられた仕事です。





「まあ、簡単だったけどどうだった? 因みに、君たち言葉とかの心配は大丈夫だからね」


 サレンと朧は互いに顔を見合わせる。言われてみれば、言葉が通じていることに、今、気付いた。当たり前に会話をしていたことに。


「これも《神》故にできるのだ。凄いだろう」


 金髪少女の語りは中々に引き込まれはしたけれど、二人が呼ばれたことにどう関係してくるのか、朧もサレンも先が見えてこない。


「はぁ……簡単すぎる割に、話が壮大過ぎて頭に入ってこなかったよ」


「ちなみに、先ほど朧くんが言っていた空想の異世界も何個かは実現してるんだ。本当はその辺もしっかり管理しなきゃいけないんだけどさ、ちょっと寝てたら、寝すぎちゃって」


 壮大だからこそ、管理が杜撰だった。

 神様のくせに管理も出来ないのか。出来ないものを作るなとサレン。


「……」


「それで怒られちゃって、今、争いが活発化してきている、この二つの世界を救えと、一族の長に宿題を出されちゃったんだ」


 ぺろりと舌を出す神様。


「宿題が世界を救うって」


「しかも、私本人が直接、下界へ降りるのは禁止されてしまいまして。それで、この方法を思い出したのです」


 それが――二人が呼ばれた理由なのだと。


「この方法――だと?」


「うーん。サレンくんは知らないと思うけど――。


勇者召喚


この言葉を、朧くんなら知ってるのではない?」


 サレンは意味が分からないようだが、朧には分かる。


「ええ。よく漫画やアニメで聞きますよね」


「それは実在して行われていた事なんだ」


「嘘!」


「本来は合ってはいけないのだけど、どっかの神様が寝てたからねぇ。終いにはそんな話がどんどん作られてくし」


 世界の干渉は禁止されている。

 それが神様たちが気を付けるべくルールなんだ。

 金髪の美少女は笑う。  


「慌てて対応したから何とかなったけど、このまま、行けば、世界丸ごと召喚されるところだったよ」


 それは君たちの世界とは関係がないんだけどね。

 感心している朧に比べ、話が飲み込めないのか、苛立がどんどんと溜まっていく。


「貴様の情報はいい。それよりも、その《勇者召喚》がどう関係ある」


「《勇者召喚》は、例えなんだけどね……」


 二人が呼ばれたのは《勇者召喚》とは違うようだ。


「例え?」


「そ。まあ、それと似たようなことだからさ」


「いいから、早く教えろ」


 気が早いな。と、肩を竦めながらも説明を進める。


「まあ、異世界への転移だよね。時空を世界を超えた人間が《勇者》として活躍できる。だから、《勇者》を私が疑似的に作ろうと思いまして」


 金髪少女が言う《勇者》とは、世界をも変える力を持った人間の事で、本来なら生まれることのない存在。


「……」


 どこかの世界で行われていた《勇者召喚》を参考にしたのが、今回、二人が呼ばれた理由だと、神様は言う。


「世界を救うと言っても、二つ同時にと言うのが大変なんだよね……。神の力もフルで使えない私だし、無理して二つも救おうとすると、下手したら関係ない世界まで滅んでしまうかも知れないしさ」


「ほほう」


 と、大仰に頷く朧だが、内心は、何で神様が、自ら作った《子》の行いを参考にしてるんだよと、言いたくなるが、しかし、言う度胸もなく胸に留めた。


「そこで思いついたのが、二人の意識だけを転移させる方法です。全く同時で意識を入れ替えれば、世界に及ぶ影響は少ない……はず」


 神様のルールは知らないが、神様も神様で相当苦労しているようだ。それは神頼みなんて聞いてる余裕ないんだな。

 しみじみと朧は少し、神に同情する。


「そうなんですね……」


「そう。さらには、死者の魂を使えば、私の今の力でも十分可能。思い立ったときに起こるからもう、私最高についてます」


 神様ありがとう。

 両手を上げて天に掲げる美少女。


「いや、あなたが神じゃないの……?」


 流石の朧も口に出してしまった。

 神が神に頼むな。


「む。ともかく、あなた達はこれから互いの世界を救ってもらいます」


 朧くんの意識はサレンの元へ。

 サレンの意識は朧の元へ。

 二人は既に魂の存在。その世界から消える筈の魂を、違う世界へと誘導するだけ。結果はそれぞれの世界から魂は消える。

 肉体は互いの体を使うから、無駄なやり取りも無し!


「しかも、そうすることで、二人には素晴らしい力が宿ると覆います」


 神の加護とでも思ってください。

 良いとこだけですね。

 そんな、神の申し出に、少しだけ朧は心が躍っていた。

 異世界での《勇者》。

 それこそ――死んで良かったと思えてしまう……。


「ふざけるな!」


 誘惑にのる朧は自分が怒られたのかと思った。それほどに鬼気迫る声がこの空間に響いたのだ。


「え?」


 サレンは、ランスを抜き――神に突きつける。


「何かな?」


 神様は動じない。既に攻撃が通じないことは十分に理解しているだろうと、目で語る。


「ようするに、俺にこいつとして生き返れってことだろう?」


 こいつと、朧を顎で指す。


「まあそうだね……」


「それのどこが『生き返る』だ? 俺は俺の体で生き返る。そんな人の体、ましてや異世界など俺は許さん」


 確かに――違う人間になることが生き返ると、そう定義していいのだろうか?

 人とは何をして人なのか?

 肉体か。

 記憶か。

 思いか。

 その一つでもあれば個なのか。

 全部がそろって一人の人間なのか。

 朧には――分からないし、サレンは全部そろってこその自分だと、言いたいのだろう。


「でも、死ぬよりはいいでしょ? ましてや、朧くんの世界はあなたの世界よりも平和だよ? もう、比べられないくらい平和」


「え?」


 朧の踊っていた心に、一瞬、迷いが生まれる。


「……下らん。平和だか何だか知らないが、俺の世界は俺の世界だけ。他の世界など――どうでもいい!」


 朧の世界では、それこそ朧の知る小説や漫画では《勇者》が絶対に言わないであろう台詞を、サレンは平然と神様に向かって吠える。


「え……」


「俺は、俺の道を行く!」


「へー。でも、朧くんはどうかな……?」


「君は元の世界に戻りたい?」


「そ、それは……」


 自ら命を絶った朧にそれを聞くのは反則だろうが、しかし、命を絶ったからこそ、神様の言う違う人間と、サレンとして生きると言う提案に、心を揺らされていた。


「貴様……」


 ランスの切っ先を神から朧へと構え直す。


「あ、じゃあ、こんなのはどう。君たちに願いを叶えさせてげよう?」


 願いと引き換えならサレンも分かってくれるだろうと、ナイスアシスト神様と、心であがめた所で、(願いを叶えさせてあげよう? くれるんじゃなくて)と、崇めた金髪の少女へと疑惑の目を向ける。


「僕達の願いを叶えてくれるんじゃないの?」


「何で、私が君たちの願いを叶えなきゃいけないの?」


「神様でしょう」


 そんな朧と神様のやり取りに、ランスがヒュンと空を切る。


「下らない話はいい」


 神様、もう余計な事を言わないで……。救いも何も求めないから、兎に角黙ってくれと神様に祈ったことで、


「うるさいなー。もう、始める!」


 と、強引に、神様は自分の策を実行させたのだった。

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