Office-8 たこやき

『麻生、送ってく。荷物取ってくるから待ってて!』


 裏口で待っていると、彼はいつも使っているものよりも、一回り大きなビジネスバッグを肩から下げて戻ってきた。


 大阪から直行してくれたことが嘘じゃないって、またわかった。


「送るって言っても、車じゃないから駅までな」


 そう言って笑い、歩き出した彼の隣に戸惑いながら並ぶ。


 いつもなら何も気にしないで話せるのに。

 さっきから私は変だ。


 何か、何か話さなきゃ……


「……あ!倉科さん!」

「ん?」

「さっき、吉田さんがお菓子すいませんって、倉科さんに伝えてくださいって!」

「あーぁ」

「……お菓子まで買ってきてくれたんですか?」

「いやぁ、買ったっていうか」

「買ったっていうか?」


 目が合った彼は少しだけ言いたくなさそうにした。


「企画室用に買ったお土産、渡しただけ」

「え?!」

「思いっきり大阪!!って書いてあるやつ」


 そこまで言うと、彼は大きな声で笑った。


 また私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 歩みが遅れた私に気がついて、彼はゆっくり振り返る。


「……倉科さん!私、本当に」


 これで今日、何度目だろう。

 倉科さんに感謝したの。



 すみません。

 ありがとうございます。



 何度言ってもやっぱり足りなくて。

 もう一度、同じ言葉を繰り返そうとしていた。



「あ、ありが」

「あっ!!忘れてた!!」

「……?」



 突然、彼はスーツの胸ポケットを探り出す。


 呆気にとられていると、すぐに彼の手が伸びてきて、それが目の前でユラユラと揺れた。


「……たこやき?」


 私の顔の前で、揺れているそれは、たこ焼きに顔がついた何だか憎めないキャラクターのキーホルダーだった。


「はい」

「……これ」

「お土産」

「……わ……わたしに?」

「いつも頑張ってるから、特別!」


 今朝のアナウンサーの声が急にリピートされた気がした。


『今日は努力が認められる日です。ラッキーアイテムは、たこ焼きです!』



 ――当たった。


 声にならない私の言葉。


 ――倉科さん。


 こんなの、ちょっとズルいです。



「ほら、なんか麻生に似てるだろ?」

「に、似てないですよ!」

「いや、結構似てるだろ」

「私こんなに丸くないです!」



 また並んで歩き出した駅までの道。

 私はお酒も入っていないのに、何だかフワフワする足と、少し熱い頬に戸惑いながら思った。


 明日から、あの占いだけは欠かさずチェックしよう。


 それから……


 駅に、まだ着かなきゃいい。


 ……って。

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