alcohol-6 ふたり
お休みの朝はダラダラするのが好きだった。いつもなら今頃は朝の打ち合わせ中だなとか、いつもなら子供たちを出迎えてる時間だなとか、そんなことを考えながら、とっくに覚めた体をわざと起こさずにゴロゴロする。そんな時間が心地よかった。
仕事を始めてあっという間に8年が過ぎた。誕生日が早いせいで、もう29歳になってしまった。
「アラサーってやつかぁ」
29には結婚してる、だなんて思っていなかったけれど、結婚を意識するような恋人くらいはいるんじゃないかと漠然と思っていた。
雪ちゃんに失恋したあと、私だって他の人と恋愛したことがある。
年のわりに人数は少ないのかもしれないけれど、短大の時に一人、働き始めてすぐにもう一人。
どちらの人も向こうから告白してきてくれた。楽しい人たちだったし、優しい人たちだった。
だけど……
別れ話をしてくるのも必ず向こうからで、さらに言うなら、理由はどちらも同じだった。
『ごめん、何か違った』
好きになった人に、それも二度も何か違うと言われた私。どのへんがどう違うのか、その答えを聞けなかった私。
恋愛に臆病なのは、雪ちゃんだけのせいじゃないことくらい、もうずっと前からわかってた。
ふと、枕元にある携帯が目に入る。
『眼鏡!弁償させて下さいっ!』
『本当に大丈夫ですよ』
『……でもそれじゃあ』
『じゃあ、僕とご飯でも行ってもらえませんか?』
『もちろん!じゃあ、私奢ります!』
『あ、いや、本当にそれは』
増えた電話帳一件目。
風間 保
『奢るって!』
『いい!あんたに借りは作りたくないもの!』
『まっ、いいや。電話番号も聞けたし!』
『あのねぇ、今日みたいに急に来られたら困るから教えたの!』
『……はいはい。酔ってる時キャラ変わりすぎ』
『はい?』
『いや、何でも!またね、高松せんせっ』
増えた電話帳二件目。
柏木 豊
偶然にも上下に並んだ二人の名前。
私は二人の名前を交互に見つめたあと、いつもとどこか違う自分に気が付いてしまいそうな気がしてならなくて、咄嗟に布団をかぶった。
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