school-1 イチ
「なぁ、先生。やっぱさ、牛乳いっぱい飲んだ?」
昼休みの中庭、白いベンチに腰かけて隣に座る担任に尋ねた。
俺には好きなやつがいる。
片想い歴、11年。
でもあいつは全然気がついていない。
始めて出会ったのが5才。
子供心に可愛いなと思ったんだ。
一旦、引っ越したあいつが小3の時にまたこの街に戻ってきた。
「牛乳飲んだぞ!かなり!」
「やっぱり!?」
俺は背が高くなりたかった。担任でもありバスケ部顧問のこいつくらいに。
なぜなら、あいつは大人っぽいのが好きみたいだから。
「イチー!!」
急に呼ばれて、慌てて振りかえる。
校舎の二階の窓から俺を呼ぶ声に、無意識にも顔が赤くなった気がした。
「――なんだよ!!」
そんな気持ちを隠すようにぶっきらぼうに答えると「町田くんが探してたよー!」と口元に手を当ててあいつは叫んだ。
今行く!と手をあげたあと、隣で一部始終見ていた先生が明らかにニヤニヤしているのが分かった。
「なぁ、修一。みんなお前のことシュウって呼ぶのに何でイチなんだ?」
あぁ、くそ。たちの悪いやつにバレたかも。根掘り葉掘り聞かれる前にこの場を去ろうと、持っていた牛乳を飲み干して右手でパックを潰した。
慌てる俺をからかうように先生はまた続ける。
「……あ、でもな、俺の弟、牛乳嫌いであんま飲んでなかったけど俺より高いぞ、身長」
――はぁ!?
「まっ頑張れよ、少年♪」
そしてニヤリと笑ってから俺の背中をポンっと叩き、職員室の方へと戻っていった。
……あぁ、くそ。
頭の後ろを左手で掻きながら二階の窓を見上げると、なぜだか小さい頃のあいつの声が頭に響いた。
『幼稚園の時同じだった?ごめん!全然覚えてないや!』
『紛らわしいから、イチでいい?!いいよね!』
『イチー!』
東高一年。
俺の願いは、背を伸ばすこと。
バスケがうまくなること。
そして――
あいつが憧れている
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