bread-1 駅ナカ

 いつものように仏壇に手を合わせて私は願った。


『うまくいきますように』


 私は小さい頃からお祖父ちゃんのお店の厨房が大好きだった。

 朝、まだ日が昇らないうちから真っ白なエプロンを付けて、たくさんの美味しそうなパンを作る。

 パンが焼ける香ばしい匂いと、カスタードクリームやシナモンシュガーの甘い香り。ベーコンやチーズの焦げた香りは鼻を擽る。


 お祖父ちゃんの手は魔法の手だった。


『坂を上って買いにこれない常連さんがいるから』


 後を継いだ父はそう言って、駅の中にある小さな売店に我が家のパンを並べることにした。

 それが今日、スタートする。

 私はその売店を任されたのだ。


「彩!これっ!」


 慌てる母に追いかけられ、渡されたお弁当。


「ありがとうっ!行ってきます!」


 そう言い、車をゆっくり発進させた。



 朝の匂いと後ろに積んだパンの匂い。

 キラキラと輝き始めた木々も私を応援してくれているようだった。


 開店準備を始めた近くのお花屋さん。店の前を掃く彼女に手を振ると『頑張って!』と口が動き、ガッツポーズも贈られた。


 この街が好きだ。


 お祖父ちゃんから続く、うちの味が好きだ。うちのパンを愛してくれるこの街の人が好きだ。


「頑張るぞー!」


 私はドキドキを押さえられずにアクセルを踏んだ。

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