如月に謳え──⑤
「お、おかえりなさいなー」
トンネルの向こう側。
舗装が劣化しきった道路のど真ん中で寝そべりながら、【
「………………」
「……………………」
二人の表情は極めて固く、冷たい。
「シッッッケた
「…………別に。やることは変わらねぇ──いや、改めて、やりたいこととやるべきことがハッキリ確認出来た、って感じだな」
「…………ですね。そういう意味では、ありがたかったかもしれません──いや、それは流石にないですか」
「ないよ」
「ないですね」
そんな風に相槌を打ち合う二人だった。
「あ、そ。そいつは重畳」
この上なくどうでもよさげに【
「んで、残りの一人は?」
「…………んなこと俺達が訊きたいんだよ」
「その様子だと、まだ出てきてないんですね」
「せやね。ウチはなんも知らんよ。うんうん、ようやく不愉快な邪推は止めてくれたようで何より」
【
瞬間。
「はばなっ!?」
「マなふっ!」
頓狂な悲鳴が二つ響く。
「ん…………げぇっ! 【
「っっっっ!!!!」
空から降ってきた少女──
【
「────! ……………っっってなんやねんな
「いや、ワタシが訊きたいしこの格好は…………てかビビり過ぎでしょ、なんでそんな」
「アホか。ビビるに決まっとるやろ悪夢みたいな格好しよってからに。失禁せえへんかっただけマシと思わんか」
「いやマジで何でそんな怖いの…………? トラウマ?」
「うん」
【
底知れぬトラウマを感じさせる。
「まあええわ。ともあれお三方共に無事でここまで来られたっちゅうワケでなによりやで」
「結局何だったんだろアレ…………」
「どんな目にあったんかは知らんけど、深く考えん方がええのは間違いないな。こんないい加減な世界での出来事なんざ」
【
シャリィン。シャリィン。シャリィン。シャリィン。
鈴の音。
ドンドンドン。ドンドンドン。ドンドンドン。
太鼓の音。
祭囃子が、響きだす。
「――さてと。いよいよそろそろ本命やで。気張りや?」
そう言って【
妖しげな灯火が爛々と揺らめく石灯篭が立ち並ぶ、石階段。
『つづく』道行の終着点は、祭囃子が鳴り響く――山頂のようだった。
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
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響き渡るこの音色は、祭囃子ではなく神楽だったのかもしれない。
何処とも知れない妖しげな山の山頂。
そこにあった古びた神社の境内は、そう思わせるに値するだけの神秘性を漂わせていたと思う。
「いらっしゃい、
「はすみ…………さん」
そんな中でワタシ達を待ち構えていたのは──先刻会った正体不明の女性だった。
「
その姿を見た【
「…………そう。貴女ね、勝手にこの
「
冷徹な視線で【
はすみさんはそれを受けて、ちっとも楽しくなさそうな顔で笑みを溢した。
「あらそう。貴方達はあまり群れたがらないように思っていたんだけれど、存外に仲がいいのね」
「仲がええとか悪いとかの話とちゃうわ。元を糺せばウチら
「そう。そちらもそちらで複雑なのね──それで、わざわざこの
「いんや。おおよその全容を掴んでからは大人しく後ろの連中を待っとったで? まあ言うてウチは死神やから、死神らしく待たせてもらっとったけどな」
「──お前」
その言葉を聞き。
何かを察した
「おおっと喋りすぎてもたかなぁ? あかんあかん、せっかくここまで来て三つ巴はしょーもなさすぎや。はよ始めてしまおか」
そう言った【
「そう。まあ話が早くて助かるわ。この
そこまでいうと、はすみさんは空を仰ぎ。
唱え始めた。
「
ブクリ。
と、はすみさんの
「
ギョロリ。
と、膨れ上がったはすみさんの胴体に、目玉が浮き出て。
「
バクリ。
と、その眼球のすぐ下に裂け目が生まれて口となった。
「おいおいおいおいおい…………!」
と、顔を引き攣らせながらにワタシと
「あ"ーーーーそういう感じね。道理で乗っ取られるワケや。ふん…………
顔を顰めながらに【
その赤き刃からは鮮血が滲み出で、新たな刃を象り射出される。
「
その血の刃が届く前に、はすみだった
下半身が伸びた──否。毒々しい模様の蛇の姿に変化したのだ。
ドリュドリュ──と気味の悪い肉音と共に、更に胴体から腕が生え出て、三対六本の腕となってしまう。
もはやまともな人間の原型など、まるで留めてはいなかった。
「ったく盛りすぎやろ節操のない…………! おら色男。その顔色からして相手の
「ああそうかい了解だよクソッ! ──往くぞ【
吐き捨てながらに
「
「まだいくな。遠距離持っとるならそれ使え。無いならトドメまで手ぇ出すんやない」
冷たい声色で【
「何で!」
「察しろ。とにかくあんたら二人は近づくな。
「っ、【
「お、らぁ!」
「ギィっ!」
「ふぅん。流石にあんなバケモンにはフェミニズムは発揮せんようで何より──てか、あいつやるなぁ。ほぼ単騎やのに割と押し込めてるやんけ」
「当たり前でしょ、
率直な感嘆を浮かべる【
「うっさいなー、じきにわかるよ。ウチじゃアイツは──ホラ来た!」
「──
その言葉が響くとほぼ同時に。
「【
巨大な
「な──」
なにやってんだ、とワタシが言うより早く。
ド ン ッ !!!!
と、轟音を立ててさっきまで先輩が立っていた神社の境内に、穴が空いた。
「何いまのっ!?」
「【
そんな会話の最中にもその攻撃は止まらない。次々に石畳に穴が穿たれていく。
──いやちょっとまて。聞き捨てならないセリフを聞いたぞ今。
【
「よくわかんないけど! 今回は
「言うたよ! それは変わらん! この空間──敷衍境界そのものが今回の元凶や。んで、【
「んな──! つまり、自分らの後始末を
「まーさか。嫌ならやらんでええし。そしたらこの空間がどんどん膨張して犠牲者が際限無く増えるだけの事や」
「こんんんんのクソ
ぬけぬけとほざきやがってこの!
「そうカッカすんなっちゅうの…………出来る限りのサポートはしたるよ。防御面では、なと!」
「ふぐぇ!」
無造作な前蹴りがワタシの腹部に刺さり、吹き飛ぶ──一瞬後に、ワタシの立っていた場所が、【
グシャリ、と厭な音。
「っ、【
「あ"あ"あ"ああいったいなぁもぅ~! とっとと〆ろやぁ?」
「…………」
一瞬は煎餅の如くにぺしゃんこになった筈の【
人間じゃねぇ。
当然ながら。
「んー、この感じやと…………元の【
「あっそ…………」
「この
「…………わかった、了解」
不承不承ながらワタシも頷く──事ここに至ってグダグダやる気なんてない。
終わらせなくちゃ。
「
現在の自身の全霊を出しきるべく、相棒を第二の姿へと変え、ただワタシは待つ。
『ジャアアアアアア"ア"ア"!!』
「ホラーかよ、ったく…………!」
暴れ狂う異形を前にして、愚痴りながらにも華麗に跳び回り痛打を与える
「先輩、仕掛けます。動きを止めますので、
「アバウトな
その掛け合いの後、即座に
「
二対の翼から放たれる膨大な数の羽弾が、全方位から異形の化身に襲いかかる!
『ジィィィィイイイイ!!』
鬱陶しげに頭部を庇いにかかる怪物──が、何処かの防御を固めれば、他の何処かが手薄になる。人間離れした巨体なら尚更だ。
「もらった」
即座に腹部に突き刺さる
そして更なる追撃を加えようとした所に──
「寄るな離れろ!!」
【
直後。
『
化け物もろとも、境内の中心地が根刮ぎに
「
「だいじょぶ、ギリ躱した!」
ここからどう次に繋げるか──
「──充分や。落とし前つけたるわ」
鬼気迫る笑みを浮かべ。
【
「【
その叫びと共に、異形の
『ギッ──!』
それに跳ね上げられた異形は、巨体ながらに宙を舞う──無防備。
「広範囲での攻撃の後には【
「わかってる、っての!」
この隙を見過ごせるワケもない。
宙を舞う怪異目掛けて、ワタシは飛びかかり──抜刀。
冥き一閃を、その蛇体に叩き込む!
「──【
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