45.供養
──ふざけるな。
黒白の刃にその身を裂かれる中、【
その怒りの矛先は自らを今まさに討ち果たそうとする
どうにも納得しがたい一つの現実に対してだった。
目前に立つ二名の剣士──問題ない。想像を超える実力者だった。それに対しては称賛こそすれ怒りは湧かない。後方に控える【
だが。
だが。だが。だが。
あの少女。
あの、紅緋色の髪の、楯持つ少女に関しては──一切合切納得出来ない。
理不尽しか感じない。
何故、生きている?
否、その答えは揺るぎなく出ている。
死んでいなかったからだろう。
死んでいなかったから、生きていたのだろう。
だが、それだけでは、納得、出来ない。
この会場に足を踏み入れた時点で、生存している
ならば、死神である自分が。
ありえない。断じて、認められない。
ありえない事が起こった──つまり。つまりつまりつまりつまり。
謀られた、と、いうことか?
そこまで考え、【
誰だ。
あの少女を死なせた──否、死んでいたように見せかけたのは。
我々がここに来る前に、ここに立っていた
答えは、瞭然。
黒白の刃に、躯を十字に断ち斬られながら。
それでも【
「────っっっ!! 【
▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶
◀◀◀◀◀◀◀◀◀◀◀◀◀◀◀◀
「────
施設裏口。
スマートフォンの画面を眺めながら、紫苑の髪を靡かせた眼帯の
「あ、あっひゃ、あーひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! あ、あっそこまで見事にハマるかね!? ビックリ箱程度の思い付きな置き土産で! ち、ちっち、致命傷っ! あひゃ、あーーひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 無理! 無理無理!! お腹痛いお腹痛い腹筋クラッシャー! わーらーえーるんですけどーー!」
笑う、嗤う、笑う、嗤う。
腹底から、心底から。
無邪気に無邪気に、幼子のような稚気を撒き散らし。【
「獲物が思った通りに罠にド嵌まりするのを見るのは、つくづく狩人冥利につきますなぁー♡ …………ふ、ふくっ。だ……駄目だもう笑うな……こらえるんだ……し……しかし……」
口元を抑えながら、しかし堪えきれぬ笑みを零しながらに【
──やがて大の字になって倒れている何者かを発見した。
「………………」
その倒れている人物から施設までには、引き摺った痕のようなものが残されている。
まるで、施設からここまで吹き飛ばされてきたかのように──
「…………はぁ」
【
そして。
「起きれや」
その人物の腹部を思い切り踏みつけた。
「げぶぅーーーーーーはぁっ!?」
奇怪な呻き声を上げ、その人物は堪らず飛び上がる。
「何ふっつーーーーに負けてんのさ、【
「っう、ふ、あ、へぇえ?」
飛び起きた少女──【
「あっ、え、ええっと、あっ、【
「…………んー、丁度日付変わったトコだけど」
その返答を聞いた【
「んっっっっっぎゃああああああ! ヤバいヤバいヤバいヤバいもうレイド始まってるぅギルマスにこーろーさーれーるーぅぅぅぅ! 違うんですわたしは戦場から逃げてませんでぇすううううっっ!」
「ここが今まさにガチの戦場の真っ只中な筈なんだけどねー。平常運転だなぁ頼もしー。あっひゃあっひゃ」
泡を食う【
「まぁあくまでもしもの時の保険に呼びつけただけだしねー。もう帰っていいよ。おつかれー」
「帰るよ! 言われなくても帰るよ! 廃課金のわたしが抜けたらどんだけギルドの損害になると思ってんの! こっから最低五日はオールしなければっ! 遅れた分取り戻さなきゃだから約束の報酬よろしく!」
「報酬は三日前に振り込んだでしょ。ソッコーガチャで溶かしたんだろうけどさ」
「はぁ!? あれは前金でしょ!」
「前払金だね。うん。で、後払い金は本気で闘った場合だけ払うって契約だったよね。ちゃんと音声も録音してるからね」
「…………あう。くっそー金持ちの癖にケチ臭い」
「いや、オレ確かにお金持ちではあるけど別にお金は湧いて来てるワケじゃないからねー。色々金策してるからだからねー」
「はーいはい了解了解。そんならさっさと帰らなきゃだから、バーイ!」
そう言って彼女はつったかつったか走り出した。
「あーい。ご苦労様ー。またよろしくねー【
【
「舐めプもそろそろ終いにしとかなくちゃ、そのうち大火傷しちゃうかもだよー? ──【
──【GRIM NOTE】 【
無所属、
状況終了、戦線離脱。
●◆●◆●◆●◆●◆●◆●◆●◆
◆●◆●◆●◆●◆●◆●◆●◆●
「っつ──終わった、よな」
意識を取り戻したのは、
「隊長! まだ動かないで下さい。【
「っく…………他の隊員は──」
「無事です。
「…………そうだ、
「………………」
手当てをする
「…………ったく、無駄な心配させやがって。
「ち、ぢが、
顔をクシャクシャにして、滂沱の涙を流しながら。
「み"な"っ、さんを。ほ、他のっ。だ、第三班のっ、人達をっ。み、見捨てで、自分だげっ…………みんっ、な。みんな、死んじゃっ…………!」
「………………そうか」
そのまま数秒、宙空を見つめて。起き上がると。
ボカ。
と、一発
「あっう、ご、ごっごごめ、ごめんなさいごめんなさいごめんな──」
そして、そのまま手を
静かに、その髪を撫でた。
「…………ず、
「勝ち目の無い闘いに臨む味方に背を向け、逃げ出す──生き残る為に」
静かに目を瞑り。
「長くこの仕事を続けてれば──誰もが通る道だ。気休めでも誇張でもなく、な。何も失わずにいるには…………
「………………」
「間違ってない、とは言わないし、言えないし、言いたくない。だがそれでも、これだけは言わせろ…………よく生き残った。そんで──守ってくれて、ありがとう」
「っ、ふ、ぐう…………! ぐ、づ、ぶぅえ"え"え"え"ええええぇぇぇぇ! ヴぐぉぇぇぇぇええええん…………」
両膝に顔を埋め、
「…………
「ほぼ収束してます──【
「…………チッ。またあいつに持っていかれたか」
「…………隊長。私達はともかく、他の隊員の前でそんな顔しないでくださいね。示しがつきませんから」
不服そうな顔で
「は? そんな顔ってどんな顔だよ」
「鏡でもご覧になったらどうかと。全く…………」
微かに口元を緩めた、
が、その表情も直ぐに改まる。
「そうだ。あいつ──
「大丈夫、無事です。他の隊員──
「…………! くそ」
あの、馬鹿が。
言葉にはしないまま、
あの弟子の向かう先、目的。
それが──容易に想像できたからだ。
──第一施設、
【
状況終了、戦線収束。
◁▷◁▷◁▷◁▷◁▷◁▷◁▷◁▷
▷◁▷◁▷◁▷◁▷◁▷◁▷◁▷◁
──施設、
「…………あっきれたー。三輪でさえギリギリ防御間に合ってやんの。まぁ──致命傷だけど」
黒衣を纏った【
床面に臥す
放っておけば、直に──轢死となる。
その、凄惨な現場に駆けつける者がいた。
彼女の、名前は──
「……………………………………………………………………………………………………」
彼女は、現場の状況を目にし。
暫しの沈黙の後。
追いかけ続けてきたその背中に──遂に、言葉を投げ掛けた。
「…………………………ミ、ヤ、コ?」
「………………」
死に損ないの、しがない死神は。
喪われた自らの名を呼んだ少女に対して、振り向いた。
「……………………」
「……………………」
両者の顔には、一切の感情が浮かんでいない。
ただただ、色のない表情で互いに互いを見つめ合う。
永遠のような、刹那のような、そんな時間が二人の間に満ちる。
が。
時は、どうしたって過ぎ去るものである。
先にその表情を崩したのは──
彼女は、自らの名を呼んだ親友を眺めながら。
困ったような、喜んだような。
呆れたような、驚いたような。
何ともいえない、薄い──けれど、どこか、暖かな。
微笑みだけを、湛えていた。
「………………………………………………」
その表情を見ても尚、彼女は──
そして──
「っっっ、父さん!?」
施設中庭へと続く通路から悲鳴じみた声が上がり、反射的に
そこには、
「──っ!」
即座に再び視線を元に戻す。
が。
もうそこには──
「父さんっ──父さん! 嫌ぁ!」
「っ、
瀕死の父と隊長に、
「……………………」
「おい! お前は無事か、
少し遅れて
「……………………うん。ワタシは、大丈夫。
「…………そうか。わかった。戦況は収束してる。お前ももう休んでろ」
「うん。ありがと」
「………………………………」
やがてその足元にポタポタと水滴が墜ち──小さな小さな、水溜まりが生まれたのだった。
──第一施設、
状況終了、戦線収束。
【
討滅
【
【
【
計三体。
また、隊員の戦果ではないものの、同じく
両個体共に
作戦の要を担った新世代の隊員達──
人類最後の砦とも謳われる【
数多の
□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇
◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□
「──ああああぁぁぁぁっっっっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ! あーひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! わーらーえーるー! 勝利!? 希望!? 日本語でおk! てなもんですよおっかしいわ勘弁してくれないかなぁものの見事にオレの期待通り、どころか期待以上に働いてくれちゃってさあああああぁぁぁぁ! マジありがとう! 超嬉しい! あーいーしーてーるー! 目の上のたんこぶな【
複合文化施設、「イルミティ29」よりしばらく離れた公園にて。
人っ子一人見当たらない夜闇の中、隻眼の死神──【
「施設の各所に仕込んどいた
下卑た笑い声を上げながら──手にした機器の観測データを検めた後、それら全てを握り潰す。
「証拠隠滅情報独占っと。抜け目ないんだからぁんオレって♡ さぁて、そんじゃこれにて後の祭りもお開きってことで──」
そうして、【
今回の一件、その黒幕は。
何の障害もなく。
何の失敗もなく。
全ての目論見を上首尾に終わらせ。
順風満帆に。
悠々自適に。
余裕綽々に。
意気揚々と────
「────帰れると思ってんのか、テメェ」
──公園、時計台の上。
夜闇に浮かぶ、皐月を背にし。
蒼褪めた駆り手が。
「────あっ、ひゃあ♡」
黒衣を纏いし【
この上なく愛しげに、【
「
【
【
「死に花咲かせろ」
「
本日今宵の
【
──最終戦、開始。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます