38.融血
「ぃいったったったった、いったーいなぁもぅ。出会い頭におにゃのこの腕斬り飛ばすとかどーなのおにーさん? モテないよ?」
「……………」
揶揄する死神──【
ただ、弟子──
「シっ、カっ、トーーーー。うわつっまんね。オレ仏頂面の男って一番嫌いー。痛めつけても楽しくないし──」
「うるせえぞドブス」
その声の在りかは、【
「──っ!!」
その声が耳に落ちる一瞬前に、既に【
──
「んぎ、ぶぅああああああぁぁっ!?」
奇天烈な声を吐き、吹き飛ぶ【
「──大丈夫?
「
──【
『──通信、回復しました。 オペレーター
「了解した。──まず現況周知頼む」
『はい…………生体反応の観測も再開できています。…………
「──了解」
「………………」
死地に立ち、
「施設内の偏在観測はほぼ出来ていなかった──話せるか、
「は、い──【GRIM NOTE】のメンバー、【
「──そうか」
ゆっくりと、
「しばらく頭冷やしてろ。あいつは
「っ、まだ、わたしも、戦えます……! あいつは、わたし、がっ──ガッ!」
ゴツン。
と、
「頭を冷やしてろとおれはいった。命令だ、
「っ…………」
その言葉に、
「お前は何の為に
「……………は、い」
項垂れながらも。
しっかりと、
「……………
「ま、そゆこと。さて──やりますか」
「み、皆さん……っ! 相手の【
皆の視線の先で──【
「おおおおぉぉ乙女えぇぇぇの秘密をぅ、ペラペラしゃあべっちゃあダメだあああぁぁああぁぁぁぁよぅ、むっすっびぃ、ちゃあああぁぁぁぁぁぁんんンぅぁあっっっひゃあっひゃ、あひゃーーーひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ──」
片腕は斬り飛ばされ。
首が曲がってはいけない方向にへし折れたまま。
それでもなお、【
「…………初めてみる顔だが、【
「そおおおおおぅでえええええぇすよおおおおおおヲヲヲうぅ。
ヨタ、ヨタ、ヨタ、と。
千鳥足でフラフラとゆらつきながら、【
「びっくりしたぁ──いっやあああああびっくりしたなぁああああぁぁああぁ。
瞬間。
カキャコッ、と奇妙な音を立てて。
【
「……………ふいぃ。あー痛たたたた。首へし折られたのとか久しぶりぃ。あとは、腕っと──」
【
ズ、
ゾ、
ゾ、
ゾ、
ゾ、
ゾ。
と。
【
「あ、ひゃあ──とまぁこんな具合にぃ。ちょっとぐらいの手傷はすーぐ治っちゃう、ってコトぐらいは知ってるでしょ、【
自らの身体に残された刀傷を指差しながら、【
「…………十分だ。部下は救えた。お前の回帰の速さも知れた」
「あぁーーーっそ。舐めてるのかなぁ? それとも過信かなぁ? いやいやさっきの不意打ちから考えれば、あながち自信過剰とも言いがたいのかなー? ──うん。うんうん、そーだったそーだった。さっきのアレ、なによ?」
「何がだ」
「さーっきの不意打ちだってぇ。いや、不意打ちなのかなアレ? そもそもオレに不意打ち出来る──オレの反応しきれない速度で不意打ちが出来る
「随分な自信じゃない──舐めてるのはそっちの方じゃないの?」
「いやいや厳然たる絶対値の話よ。F1カーより速い自転車があるわけないっしょ? それと同じ。
【
「………………」
「
その隻眼を、猫のように細めて。
【
「ひ、と、り、たーりなーいにゃー? いち、にぃ、三人。しかいないなー? なーんでーだろーなー?」
ニヤニヤとした笑みを隠そうともせずに【
「その平静が教えてくれることもある、よねぇ? 図星かぁ。…………隠れた一人が手品のタネだな? それがわかったら、もう興醒めだね」
ゴソゴソ、とポケットを探り、取り出したのは──駄菓子屋で10円で売ってそうな、安っぽいガムだった。
包み紙を乱雑に破りその場にポイ捨てしつつ、そのガムを口に放り込む。
「んー、もうちょい
──おしまいの鐘だ。鴉の鳴き声が響いてる」
『──
そのオペレーターの声が響き終わるより早く。
コツコツコツコツ。
と、乾いた靴音が聴こえてきた。
「おや──有象無象が、雁首揃えて」
「ホントだねぇ。そんなにあたしに
「っ…………クソが」
「うわー、笑えないなぁ…………
緊張感のない声色で【
「さてな。あの女王の考えなど、所詮は端末でしかない
「あたしは後者に一票入れるねぇ。どーせ思いつきとその場のノリだけだと思うよぉ。どう考えたって戦力過剰過ぎだもんねーこの布陣」
砂色の髪の青年と、ウサミミパーカーの少女が、そこに立っていた。
「自己紹介は必要か? コードは【
「んあー、すんのかい自己紹介…………めんど。【
「あひゃひゃひゃ、どーもどーも、【
「わざわざ訊くことか? お前を処理しろとさ。【
「うっはー。おっとなげなー。オレ単独に数でゴリ押しとか形振り構わなすぎじゃねー? いっそ光栄に思うべきなのかねー?」
「ま、別にあんたの為だけにってワケでもないんじゃないのー? いつも通りの
「ふーんふんふん。そっかそっか。ま、何にせよ──あんたら二人がかりを相手にする気はないよん。面倒臭いもんね。オレってば面倒臭いのが一番嫌いだから。だってほら、面倒臭いからね」
焦りも強がりも一切感じられない態度のまま──【
「っ──【
「人任せかーい」
文句を言いつつ即座に【
──一瞬、遅い。
パぁン。
気の抜けるような、しかし大きな破裂音が轟いた。
割れたガム風船からは──膨大な量のどす黒い色の
「っ!
「了解!」
隊長の言葉に反応し、瞬時に
『煙に巻くのは得意だよーん! 勝ち残った人はまた会いましょー! あ、特に
「クソガキがっ…………!」
【
刃は毒煙を引き裂き、【
◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■
■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ──いやーっ、割と危なかったかもー? 流石にあの人ら二人がかりはキツいしね。キツいのはきらーいめんどいのきらーい」
軽口を叩きながら、【
足を止めないまま、ポケットからスマフォを取り出し、画面を操作し始めた。
「…………うん、ひとまずデータ収集は完了。【
【
白い人影が、立っていた。
「………………」
【
相手も同様だった。
両者、互いに互いがいないかのように、何事もなくスレ違う──
──瞬間に。
「いちおー訊くけど、止めなくていいんだ?」
そう、【
「──邪魔するなら刈る。しないなら失せろ」
「あひゃ、こっわ。そういうことなら大人しく退散しまーっす。いやービクッたぁ。こんな偶然でゲームオーバーとか萎えるしね。ま、理不尽ゲーはそんなに嫌いじゃなかったりなんだけどー」
「よく喋るなお前…………失せろと言ったんだが」
「あーはいはい、あーはいはい、失せます消えますトンズラこきまーす。…………あぁそれと一応教えとくんですけどー」
「消える気ゼロだろお前」
「まあまあそう言わずー。…………
「………………だからなんだ?」
「いや別に、どうも? ではでは、ありがたくお情けを頂戴して退散しますよー。アラホレサッサー」
そう言ってそそくさと歩き出す【
が。
最後に一瞬、背後を振り返ると。
そこには、誰の姿も在りはしなかった。
「………………」
しばらく【
げんなりした顔で、一言溢した。
「………………男のツンデレって、キモいよね」
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
「はあぁぁぁーー? 逃げられてんじゃん。なにこれめんどっ。またあいつ追いかけんの? 嫌なんだけどー。もうあとは【
「怠惰の化身か貴様は。くそ、ヤツの
「うひぇえええええ…………めんどっ。…………ひとまず【
「ふむ…………些か消極的だがな。しかし確かに、二人がかりなら手間もかからんか。いいだろう」
そうして。
二体の
「──っ!」
さっきの毒煙は目眩ましが優先で、大した毒効は無かったらしい。
だが、だとしても。
「…………【
「
眼前の敵との戦力差は──絶対的にして絶望的だった。
「…………ししょー。わたし、もう動けます」
「あいつの思い通りっぽくてムカつきますけど、【
「…………いけるのか」
「はい…………もう、大丈夫です。信じてください」
「…………わかった、頼む」
チャキリ、と音を立てて。
改めて、
「…………『死ぬ気で戦う』はナシだ。わかってるな?」
「はい!」
「もちろんです」
「百も承知っすよ」
眼前に佇む二体の
人間達は、前を向く。
その先に勝利という結果が無いと──絶無だと、理解しながらも。
「その意気やよし、と言っておこうか」
「そだね。言うのはタダだしね。褒めて欲しいならいくらでも言うよ? まあ──死ぬんだけど」
【
二体の
「三分で終わらせるぞ」
「長いし。一分でいける」
そして、二体の
「──来るぞ!」
「はい!」
そして──
「
──葬送の禍唄が、響く。
「【
白光が、
「ぐぅっ──!」
「ふびゃっ!?」
そして。
まるで、自身の存在を表すかのように。
白き死神は。
【
【
──
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