34.太陽
「【
──【
それに対する
「──最大出力だっ、どう足掻いたって死ぬしかないぞ…………!」
それを。
──人類全体から見て、偏在率が
偏在率とは【
つまり、【
そんな人々の偏在率を敢えて数値化するとするならば、それは0%以下──
だが。
あらゆる数値がそうであるように、偏在率もまた一定ではない。
人間も、修練を積んだ
戦闘の中では
だが。
肉体という枷により、個人認識──【
100%以上の偏在率に到達できるのは──最初から【
故に。
偏在率の数値で競い合う限り──人類が高位
……………………………………故に、アプローチを変える必要が
そして数多の試行錯誤の果てに──ある僥倖に
それは、とある
二つの
──偏在率の推移は、当然
偏在率を減衰させる、というアプローチ自体は、そこまで突飛なものではなく、早い段階から行われていた。
だが、その成果は惨憺たる有り様。
偏在率を0以下、
──【
少し視点が違うというだけで、少し認識が違うというだけで──その二つの在り方は表裏一体というよりは、渾然一体といった方が正解に近いものなのだ。
故に、偏在率が0以下の民間人相手だろうが数十の偏在率を持つ
──その現象が発生する頻度は、極めて低い。
『対象偏在率が80%以上から0%以下まで、0.4秒以下の時間で推移する事』。
それが、その
『いやいやいやいやダメですって…………無理ですってこれ…………絶対出来ないですって…………』
『出来る出来ないは訊いてねぇ。やれっつってんだ』
『横暴ですー…………パワハラです…………』
──その現象を利用した御業の習得の為の修練中の事。
『いやししょー…………これ、想像以上にしんどいですって…………頭痛と乗り物酔いと胸焼けと高山病が悪魔合体して襲いかかってくる感じの苦しさです…………』
『てか、既存のしんどさで表現出来るレベルじゃないですよぅ…………こんなの不可能でしょう流石に』
『さっきオレがやってみせただろうが。お前ら二人とも、呑み込みは悪くない。それはオレが保証してやる。必死こいて身体に覚えさせろ』
『ふへー、カラダに覚えさせるって、
『よし
『ひょぇああああぁぅぅ…………勘弁してくださいぃ…………』
『とか言いながら、ワタシより覚えがいいあたり、なんつーか天才肌だよね…………
『おら、
『無理無理無理むーーーり~~~でーーーす~~~…………』
『確かにしんどい…………けど、けど、これを使いこなせるようになれば──』
確固たる決意と共に。
『必ず、あの子の背中に、手が届く──』
──対象偏在率が80%以上から0%以下まで、0.4秒以下の時間で推移したとき。
その瞬間から、推移時間と同じ時間──0.4秒なら0.4秒間、対象の身体に異変が起こる。
対象は【
現象時間内で対象の身体、存在した空間、移動した軌跡においては【
……………もっと端的に表現するならば。
その現象の発生期間中は。
──この現象を応用し、対
まるで、
その現象、及びそれを応用した対
その
「……………………【
──両 断。
「……………は?」
【
自らの放った
そんな、極めて緊張感の無い声を上げた。
正中線に沿って真っ直ぐに引かれた赤い線。
やがて、その線から血が滲み始め。
ドバッ。
と、血飛沫が弾けた。
放たれた血潮はまるで雨のように舞い──舞台に降り注ぐ。
その赤い
十秒も過ぎたその後には、飛び散ったその血はあらかた消えてしまい。
血みどろで仰向けになっている【
──第一施設、
──
勝者、
○●○●○●○●○●○●○●○●
●○●○●○●○●○●○●○●○
純白の刃が振り下ろされ──ドスッ、という鈍い音が響く。
──アヲオオオオオオォォォ……ン。
──という、どこか切な気な断末魔が轟き。
「……………これで、三、か」
「──俺らが四、でしたねー、
「うるせえ…………くそ、やっぱ
そこに駆けつけた三人の部下達。
「隊長は私たちをみくびりすぎです。三人がかりで隊長以下の戦果しか上げられないようじゃ、足手まといにしかならないじゃないですか」
「馬鹿言うな、お前らの実力は知ってる。だが、だからこそ隊長として上を行きたいっつーかだな…………」
「……………その辺子供ですよね、隊長は」
「うひゃー、
そんな掛け合いの中、司令室のオペレーターから連絡が入る。
『──
「──クソっ。またろくでもない報告か、なんだ?」
『少し待って下さい、通信を繋ぎます──』
数瞬の合間の後、
『──おう、
「……………マジなトーンですね。何が有ったんすか──
──通話の相手は。
『ああ、最悪に近いニュースだ──
──
「……………………は?」
『念の為言っとくが、
「……………冗談じゃねぇぞ、くそ」
『あーあ、全く冗談じゃねぇ。
「タイミング的に、それしかねぇっしょ──くそ、なんだってんだ? この現場に、何かあるのか?」
『それは今考えたってわかりゃしねぇさ。…………とにかく、状況をみて判断してくれ。迎撃するか、撤退するか。判断はお前に任せ──』
『緊急通達! 緊急通達! イルミティ29に接近中の
「………………」
『………………』
悲報とか訃報とか。
その次元では及びもつかない、絶望的な異常事態を知らせる通達が
──神話級死神が二体、徒党を組んで接近している。
それは例えるなら、地震と台風が同時に襲ってきたようなものだ。
『──
その言葉は、冷酷で──それ故にこの上なく現実的な代物だった。
『どう考えたってそこにいる人員でどうにかなる規模じゃねぇ。最低でも【
「……………ああ、全くもって正論だよ。
『…………そうかい。で、撤退するのか?』
その問いには。
深い諦観と、少しの羨望が込められているかのように聞こえた。
「──
『ハッ──お前のカッコつけは治らねぇなぁ、ガキの頃からよ』
「うっせーよ…………撤退はするさ。中の連中を回収してからだけどな。…………
『チッ───
──通信は、そこで切れた。
「……………つーワケだ。残りたいヤツはのこっ──」
「さて、んじゃー行きますかっ! いやーずびっさんと居るとホント碌な目に会わねっすねー」
「まったくです…………ついていく人間の身にもなってほしいですね」
「また時間との勝負になりそうです。遠慮してる暇は無いと思います、隊長」
「……………ホント、気ぃ遣うのがアホらしくなってくる、素敵な部下だなお前らは」
ボリボリと頭を掻いた後。
「──施設内へ突入する。中にいる隊員達を可能な限り回収し、即座に撤退だ。…………だが、二体もの
「「「──了解!」」」
──その言葉と共に、
──
施設内、突入。
◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□
□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇
「ったく…………【
「今更愚痴っても仕方あるまい。それに──個人的にはあの手の
日も落ち、月が輝き始めた仙台の夜闇の中。
宙を駆けながら二人の死神が言葉を交わしていた。
「相変わらずあなたはクソ真面目だねぇー…………【
ふう、と一度だけ嘆息し。
俗に言う、ウサミミ付きなフードのあるパーカーを着込んだ少女の
「で、やりかただけどさぁ──取り敢えず顔合わせた人間は全員死なせてく感じでいいよね?」
「構わんだろう」
「だよねー。りょーかーい」
──【
──参戦。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「っ、あ"ぁーーーー! やっぱりもうとっくに始まっちゃってるっぽいですよセンパイ!」
「わかってるっつーの…………大声出すな煩わしい」
仙台の街中。
街灯が灯り、街の光が明るく思え始めた頃合い。
白い少年と黒い少女が並んで小走りしながら言い合っていた。
…………
と、
「
「あいつはとっくに隠居した身だ、当てにするのが間違ってるさ。…………だいたい、だ。時間に遅れたのはお前が食い意地張ってごま摺り団子食いまくってたからだろうが」
「っ、あぁー! それ棚上げ、棚上げでしょセンパイ! センパイだって時間押してるのに、むかでやさんで領収書貰うんだって言ってきかなかったじゃないですか!」
「OWSONのコラボTシャツ買うんだってコンビニ巡りまくってただろ!」
「ミヤテレタワーで
──なんて風に、いつのまにやら二人は足を止め、
「…………あ"ーーーーっ! 時間の無駄だな!」
「えーぇ無駄ですね! 無駄無駄です! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄! 女の子にだけ責任押し付けたりして恥ずかしくないんですぅ!? 恥知らずな男は嫌われますよぉ!?」
「…………あぁそうかい、それじゃな」
パッ。
と、瞬き程の間に、
「に"ゃーーーーッ! まぁた【
ダンダンとその場で地団駄を踏んでブーたれる
…………周りの目等は気にかけないタイプらしかった。
「ホンット狡いんだからさ! 性格も! 【
プクー、と膨れ顔を一つし。
そこで
「…………うし! 気合い入れよう。今回も結構な激戦の予感がしてるしね。さぁて、それじゃ──」
ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り ぎ ゃ り 。
彼女の相棒。
「──
【
【
【
──参戦。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「──大丈夫なんですか?
「ん、なんとかね。…………あいつ倒したら、毒も消えたっぽい。
「はい。鮎ヶ浜さんはまだ動けないようですけど、外傷自体は少なめですし、しばらく休めば大丈夫かと」
決着後。
しゃがみこむ
「そっか…………よい、しょっと」
「ガッ…………ぁ、っガッ…………」
ものの見事に一刀両断されておきながら。
未だに【
「…………トドメやります」
「いいよ、
【
「…………っ、ガ…………ガぅ……………ち、が、ゥ……………」
「…………?」
そこで
目前の
「ちが、ゥ…………こんなの、チガう…………まだ、ぼくワ、やレる…………だって、ぼくは、ボクなんだ…………よゥやく、ぼくに、なれたンだ、もドレたんだ…………だか、ら、だかっらっ…………!」
声にならない声を上げる【
その言葉は。
紛れもない、嘆願だった。
「やめ、テ、見スてないで、まだやれる、もっと、デキルんだよぼクはぁ…………! まっ、て。待ってまってマッテ待っテまッて! ぼくはボクハ僕わ! ────────【
ブチャリ。
と、厭な音をたて。
【
「………………」
「………………」
沈黙の帳が落ちる。
それを言語化することも出来ないまま。
●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●
──第二施設、屋内競技場。
勝者、
「ンなの──あり、か、よ」
負け惜しみじみた台詞が響く。
そうして、【
「──対象
班長を務める
「ふひぃ~~~。疲れましたぁ…………」
と、気の抜ける間の抜けた声色で、
「………………」
「………………」
「………………」
残る三人から、白い視線が投げ掛けられる。
「あ、いや、その。も、もち、もちろん皆さんの活躍あってこその勝利でしたよねー、的な! うんうん、てゆーかアタシ何にもしてなかったですよね! ごめんなさいゆるしてください全面的にアタシが悪ぅございました勘弁してくださいいいいぃぃっ!!」
「…………いや、謝られても困るぞ、
「とゆーか、嫌味? 嫌味ですか?
「い、いやー、ほら、あれですよ。アタシが倒したワケじゃないでしょう。倒したのは皆さんで…………」
「…………勝敗を決定づけたのは
「あー…………いやー…………あれは…………そのぅ…………え、えっとぉ! ほ、他の班の皆さんの戦局はどんな感じになっちゃんてるんでしょう!? 無事ですかね!?」
…………かなり強引だったが、
「それが、通信の類いは施設内に入った段階で上手く機能してない。ジャミングをかけられてるみたいだな…………」
「そ、そんな事、
「普通はまずやらないさ。そんな小細工。やはり、つくづく違和感とキナ臭さが増していくな。他の班も無事だといいが…………」
そんな。
会話の。
背後で。
──乱雑に床に転がっていた屍体の中の内の一つが、ムクリ、と無造作に起き上がった。
「…………え?」
と、そんな声を溢したのは誰だったのだろうか。
──その少女は、改めて見れば随分と奇抜な容姿をしていた。
不穏なまでに毒々しい紫苑色の髪をサイドテールに纏めている。翡翠色の不穏な形に感じる瞳孔。右目には医療用の眼帯を付けており、左右の耳には不揃いな形状のピアスが揺れていた。
フード付きのミニジャンパーを羽織り、その下には飾り気のないチューブトップだけがあり、軽くダメージの入ったデニムショートパンツを履いている。そんな軽装に相反して、足元だけが厳つい黒皮の厚底ブーツで覆われていた。
「えっ、と…………民間人の方ですよね? 大丈夫ですか…………」
と、慎重にその少女に歩み寄る
すると。
パン。
と、素っ気ない音が響き。
「……………………え?」
その不吉で毒々しい眼帯少女の片手には。
草刈り鎌を思わせる。
小さな、
「……………………………………………………………………………………………………………………なぁに負けてンの【
ガシガシガシガシガシガシガシガシバリボリバリボリバリボリバリボリ。
と、すっとんきょうな言葉を喚き散らしながら乱雑に頭を掻き毟る少女。
が、唐突にピタリ、と動きを止め。
「はああああああああぁぁぁぁぁぁ……………………」
と、バカデカいため息を一つ吐き。
気を取り直したように、顔を上げて。
言った。
「やっぱり
こうして。
史上最低最悪の
──参戦。
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