31.戦友・断
20XX年 五月五日 PM 10:20
宮城県仙台市 複合文化施設「イルミティ29」にて。
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『施設内の偏在反応、増加を続けています──中でも、90%を越える偏在反応が、三つ!』
「
「民間人の保護はどーすんすか
「当然、民間人の保護は最優先だ──ま、人質なんて取る
「わー胸糞悪ぃ話」
作戦開始直後。
今回の作戦における主力にして扇の要、
『偏在反応照会、終わりました──グリムコード、【
「想定通りですね──どうしますか、隊長」
局地的な戦闘とはワケが違う──大規模な集団戦。全ての鍵を担うのは、情報だ。
オペレーターの報告を受け、
「当然、
「是非ともそうであって欲しいところっすけどねー。…………ま、こんな袋小路にわざわざ自分から入ってくれて、『煮るなり焼くなり好きにしてー』って具合にはいかないっしょ」
「…………噂をすれば影ですね」
瞬間。
──ヲオオオオオオオオォォォォォン!
その作戦範囲内に轟き渡る、寒気のする遠吠えが聴こえてきた。
「…………そーら来た」
鬱陶しそうな口調で、
『作戦域内を取り囲むように偏在反応発生! 膨大な数です!』
「──自身を餌にした囲い込み猟ですか。豪胆というか、傲慢というか…………」
「つっても、突発的な偏在ってことは例の
『作戦域を取り囲む偏在反応、以前増加中──っ!? そんなっ…………!』
「何があった? …………嫌な予感しかしないが」
『──周囲の偏在反応群の中に、飛び抜けて高い偏在反応が、複数体…………っ! 計七体! 全て90%前後の偏在率です──嘘、速いっ…………!? 一体、本隊、
風が啼く。
まるで空間を裂くが如くに、死を運ぶ
──ヲオオオオオオオオオォォォォォォンッッッ!!!!
轟々たる雄叫び、そして風切り音と共に──白き巨影が
──ヲオオオオオオオオオ!!
「──煩い。喚くな、犬コロ」
空を、そして生命を絶つその一撃を、
「
瞬間、
──ヴブァルブフグルルルルルゥ!
不快そうな唸り声を響かせ、その
「うお、なんすかこの
「…………なんか、服着てますけど。犬の癖に。二足歩行なんですけど。犬の癖に」
「………………
そう。
目前に現れた
「…………いっそ
『──はい! 残る六体は徐々に包囲を狭めながらホールに近づいて行きます!』
「…………こいつらがホール内に雪崩れ込んだら大惨事だな。
「どうしますか、隊長。各突入口にいる
「駄目だな。時間のロスが大きすぎる。時間が経てば経つほどこちらの損傷は増えるばかりだ…………下手を打てば
「となると──中の
「
目前の
「…………
「
「何にせよ、時間との闘いになるでしょう──
「戦力の拡散は下策──とは言え、この状況だと視野には入れるべきですね。賭けにはなるでしょうが」
隊員達はそう言って自らの隊長へと命令を求め、視線は向けぬまま、ただ待った。
「──
隊長の命令を受け──
ニヤリ。
と、不敵な笑みを浮かべる。
「隊長が三で私達が四です」
「
「いやいや俺らが四で隊長が三っすよ」
「「「「……………………」」」」
そして。
隊長、
「──早い者勝ちだ!!!!」
「「「応!!!!」」」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
△△△△△△△△△△△△△△△△
──施設東側入口、突入部隊。
計四名、
「【
先頭を往く
「【
最後尾の
「【
そして二人が撃ち漏らした残りを、
「……………………」
その中心で。
(ア、アタシ何もやってない…………いや、皆さんスゴいからやることないだけでそれはむしろ良いこととも言えるけれどだけどももしかすると怠けてるって思われてるかもいやいやだってアタシの
「おい、
「うっひゃぁあぁぁあぃ!!??」
「…………だ、大丈夫か?」
「だっだだだっただ大丈夫ですおーけーですアタシ大丈夫なので、えとその決してサボタージュでないというワケなので別に皆さんの命がけの闘いに水を差しにきたつもりはわわ」
「落ち着けよ…………そう固くなるな。お前の
「はっ…………はひっ! 了解しますた!」
(噛んだ…………)
(噛むなぁ…………)
(噛みすぎでは…………)
そこで、四人は開けた場所へと辿り着く。
そこは本館から少し離れた第二施設。
屋内
その、筈だった。
「………………っ!」
「ぐ、ぅ…………!」
「酷いっ…………!」
「……………………わぁ」
そこにあったのは人間の群れ。
否。
人間だったものの群れ、だった。
ソレらはの大半は黒焦げになり不快なオゾン臭を漂わせている。
中には脊髄反射か、ビクンビクンとその黒い躯体を跳ねさせているものさえあった。
「──なんだ、ようやく来たか。呑気なもんだな」
その中心。
感電死した屍体の山の上に、金髪の
「…………降りなさい」
「んぁ?」
「その人達から、降りなさいっつってんのよ!」
激昂した
「…………【
「見りゃ解る事を得意気に言ってんじゃねっつーの…………ほら、さっさと
「掃除、だと?」
「ほらまたいちいちキレるしよ…………こいつら
「共有、認知、構築…………」
そんな中、
ああ、やっぱそういうことか。
なんて風に。
そんな事はまるで露知らず──他の
「いくぞお前達──確実に仕留める」
年長である
「了解…………絶対に逃がさない」
「細切れにしてやるっての…………!」
「あ、はい」
と、他の三名も──温度差はあれど──応える。
「手加減の必要は無さそうだな──んじゃ、焦げろ」
電撃を統べる死神は、その手に黄色い
──第二施設、屋内競技場。
──開戦。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
──施設裏口、突入部隊。
計三名、
「──抜けたぁ!」
第二班。
彼らもまた、襲い来る
県内、どころか国内を見渡しても有数の大きさとされる施設である。
中庭もまた無駄にだだっ広い代物だった。
そんな中、大きな庭石の上に腰掛ける少女が一人。
「………………」
何も言わない。
やって来た第二班、宿敵である筈の
正確には。
…………スマートフォン向けソーシャルゲームに、没頭していた。
「………………」
「………………」
「………………」
リアクションに詰まり、一瞬固まる第二班の面々。
が、何とか気を取り直し──
「こらぁ! こっち見なさい!
「………………はぁ」
と、ため息を一つ。
そして
「タイミング悪いんだよねぇ……………
「なんの話しとんじゃあああああ!」
「あーはいはい、わかってるって…………後で相手したげるからもうちょい待って。あと五分あればデイリー消化出来るからさ」
「…………っ!」
頭に青筋を立てた
「落ち着け。挑発だ、乗るな──」
「あんた、あれが挑発に見えんの? ホントに? マジで?」
怒りに身震いしつつそう訊ねる
「………………」
言い淀む
正直に言えば、全然見えなかった。
「もういいぜ。取り敢えずぶん殴ろう」
ずい、と一歩前に出て、
「賛成。大賛成。流石
「…………それしかないすかね」
全力で同意する
「
「ハイっす…………」
三人で事前に構築した
「──【
瞬間。
残る二人が、同時に駆け出した。
「【
「【
両者ともに
そして。
そんな、どこか気の抜ける、しかし大きな音が響いた。
「──えっ」
その声は
どちらにせよ。
「あんたらさー。ガチャ宗教は何教?」
片手で【
しかしもう片方では絶えずスマートフォンを操作しつつ。
目前の
「わたしはね。理性的な現実主義だからね。ちゃんと数学的見地に基づいたのを信奉してるんだよねー。ほら、言うでしょ。確率は収束する──正しくは確率変数の収束だっけ? まぁあれだ。ようするに。ガチャは引けば引くほど当たりやすくなるってヤツだよね。(※違います) 逆を言えばさ。爆死すればするほど爆死は遠ざかるんだよ。(※遠ざかりません) 神引きするやつが少なくなればわたしが神引きする確率は上がり、(※上がりません) 爆死するやつが多くなればわたしが爆死する確率は下がるんだ。(※下がりません)」
ワケのわからない妄言を吐く少女──すると、彼女が掴み取った矢が。
と、爆ぜた。
「爆死させれば爆死させるほど引きが良くなる──即ち、爆死教。これぞわたしが開いたさいきょーなガチャ宗教なのであーる。…………んなワケであのバカっぽいアホには早々に爆死してもらったのでしたー。単細胞ー。
つい数秒前まで、
爆心地。
そこには。少量の焦げ跡。
それだけだった。
彼の生きた足跡は。
彼が死んだ痕跡は。
本当にそれだけしか、残っていなかった。
「
「…………ほい、デイリーミッションおーわりっと。さて、約束通り相手したげるよー。って、その前にもう、一人死んじゃったけどね。ウケるー」
スマフォをポケットに押し込み。
「さてさて、わたしのより良いガチャの為。わたしが爆死しない為──」
【爆死】の【
「換わりに爆ぜろ。人間」
──第一施設、中庭。
──開戦。
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