21.今宵、飼う
「──つーワケだからコイツの指導任せたぞ
「はぁーーーー!?」
と、
「な、なんでワタシがんなことしなきゃなんないんですか! まだワタシ入局一年目ですよ!?」
「そのポンコツ──
「いや、やる気は出しましょうよ!
「オレは感覚派だから人にもの教えたりとかは無理なんだよ」
そんな父を見かねてか、娘の
「そーだよねー。実の娘もほっぽりだして他人に押し付けちゃう位だもんねー」
「うるせぇ嫌みか」
「嫌みだよこんの
極めて真っ当な意見を飛ばす愛娘にも、まるで
「別に師匠とかいらねーだろって。オレそんなのいなかったし。同僚とバチバチ競い合ってりゃそれで強くなれんだろ」
「そりゃあんたの新人時代っつったら対
「しちめんどくせー理屈だの堅苦しいだけの論法だのは
「はー! でましたよ『身体で覚えろ』だの『自分で盗め』だの! 老害の常套句! 自分の教導能力のなさを誤魔化すために新米に負担を押し付けて恥ずかしくないのかなーまったくあーみっともない自分の無能を証明してるだけだっていつになったら気付いてくれるんだろねつくづく!」
「おう言ったな小娘良い度胸だひよっこ吐いた唾ぁ飲めんぞコラ父親兼上司に向かってよくもまあそんなクチ利けたもんだな灸を据えてやるよ覚悟しろ!!」
「スミマセンねぇクチが悪くて何しろ碌な育ち方してませんもんでいやぁまったくもって親の育て方が悪かったからなぁ我が身が不憫だわこんちきしょう!」
「あー言った言ったな言いやがったな誰に育てられたと思ってんのかな自分一人で育ったと勘違いしてんのかな覚悟しろ尻叩きじゃ済まさねぇからなオイ!」
「上等だいい加減私も親離れの時期だって身を以て思い知らせてあげんよいつまでも一緒にお風呂入って貰えると思うなやエロ親父! 丁度いいよこれから訓練室に行くところだったし一緒に、ついて、こ、い…………」
と、そこで
講堂内。
立っているのは
「「…………って誰もいねーーーー!?」」
仲はともかく、息は合っているらしかった。
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
「…………なぁんで先行っちゃってんのよみんなー! 私が案内役の筈なのに!」
猛ダッシュで講堂から駆け出し、訓練室まで辿り着いた
ちなみに
「いやほら…………
やれやれといった口調で答える
「お、面白醜態…………そ、それはわかるしありがたいけども一言かけてくれればそれでいいじゃん!」
「時間押してるんだって。
「ふぐ、わ、わかってるって! あわわわ…………」
あたふたとした口調と足取りで、
その背中を眺めつつ、ふ、と
「相っ変わらずそそっかしいなー
「お前に言われたらいよいよあいつも形無しだよな……」
「んん"? なんか言ったかな
「イイエ。メッソーモナイデス」
「…………
「
その答えを聞いた
「雑魚中の雑魚の相手をさせて何になるんです? 即戦力が求められていると全隊長も仰っていたでしょうに」
「そうは言っても、殆どの人間は段階を踏んで少しずつ学んでいくしか強くなる道がないからな。誰もがお前みたいな才能を持ってるワケじゃないぞ。
「…………わたしは才能なんてもってません。そんな便利なものをもってたなら、今頃…………」
そんな風に若者たち──
「おいおーい
背後から成熟した大人の女性の声が投げ掛けられる。
「こちらの新入りちゃんの相手もしてあげたまえよ。
プードルを思わせる乱雑な癖毛の女性は、赤毛の少女の肩に手を置いてそう述べた。
「…………いえ、それに関しては断じて了承してませんよワタシ。アレは
この上なく真っ当な弁舌を以て異を唱える
それを聞いて女性はスマフォを
「んーむ。それは通んないんじゃないかなー。ほら、LINEの幹部グループでもうやり取り終わってるから。
「………………」
画面を眺め。
一拍置き。
「なんんんんでお偉方の業務連絡がSNSで行われてんですかああああああいっっっっ!!
常識に則った理路整然なツッコミを叫んだ。
「だよねー。わかるわかる。いやいやちゃんと言ったんだよ? 私もね? LINEよりDiscordの方が便利だからそっち使おうよって。だというのにみーんな使い慣れてるLINEの方が良いって言うのさ。惰性で利便性に背を向けるなんて現代人にあるまじき怠慢だと私はちゃーんとみんなに…………」
「ツールの問題じゃねええええええ!! どんな情報リテラシーしてんですかウチの上役さんがたは!! 今日日冴えない町工場だってその辺には気を配り始めてますよこのご時世!!」
「なんだいなんだい溌剌と声荒げちゃって。カルシウム足りてないんじゃないかい? 生まれつきのスタイルの良さに胡座をかいているんじゃないだろうね
「………………ッ!!!! …………もういいや。
「うむうむ。戦闘員の体力はなるたけ戦闘方面へのベクトルで消費してもらいたいと私も常々思っているとも」
天然なのか計算なのか。
なんだかんだで根は真面目な
肩書きは【
とどのつまりは、【
「…………それにしたって何でワタシなんですか。何度も言いますがまだ入局一年目ですよ?
「あっはっは。それは私に言われてもどうしようもないよねぇ。けどまあ
「…………あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
たまらず頭をガシガシと掻きむしる
その様子を同情のこもった横目で眺めつつ、
「あー…………とにかく。なんにせよ
「は、はい。あ、いや、違います、違いました。
みるからにオドオドとした口調、あたふたとした態度で応答する紅緋色の髪の少女──
なんとなく、ウマが合わなさそうだなぁ。なんて思いながら、
──白百合を思わせる純白の軍服風ワンピースの女性局員服に身を包み、所在無さげに佇んでいた。身長や体格は
「えっと…………ワタシは
「はい。あ、いえ、アタシも入学式は出てないです。さ、サボりじゃないんですけどね?
「んー…………苦労してるんだね。や、わかるよ、うん。
あのまるでダメなオッサンに振り回されてる乙女同士──とまでは流石に口には出さない
「ど、同級生かもしれませんが、あ、学校、学校ではの話ですけども。えと、けども【
…………何か粘着質な愛想笑いを溢しながら、何処か継ぎ接ぎめいた口調のままに、
「…………ん"~~~~…………納得はいってないんだけど…………あーくそしゃーないか。わかった。まあ程々によろしくね。
観念したとばかりに肩を竦め、
「べ、別にいいですよ。あ、名、名前、名前です。名字じゃなくて。名字じゃない名前の話ですえっとその、あれです。
どうにも卑屈気味な態度は崩れないまま、ひきつったようにも見える笑顔を浮かべつつ、
…………うわ、手汗スゴッ。
との感想は、
良い子なのである。
「…………で、あ、えっと、いきなりといいますか早速といいますか、あの、質問があるんですけれども、
「ん、ワタシも
「えぇっと、ですね。ほら。他の新局員の皆さんとか。今訓練してる、みたいですけど。アタシは行かなくてだいじょぶなのでしょうか?」
「ん。まぁ別にいんじゃない? やってんのどーせ初歩の初歩の
「…………は、はぁ。いや、それなら、いいんですれけども。うん。はい。………………あ、あの、も一つ、質問、いいですか」
「ん、なに?」
意外と積極的に質問してくるな。良いことだな。
なんて思っていた
「えぇえっとですね、うへ。いやその。あれですよ。…………
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