第3話「夢現」

気づいたら、立っていた。見渡す限り真っ黒で、私だけが青白く、かすかに光を放っているようだった。夢か現実か分からない。夢からも現実からも隔離されたかのような、不思議な空間だ。

少し、手を開いたり閉じたりしてみる。体は動くようだ。少し肌寒い。仮に夢だったとしても、驚くくらい静かだ。私の呼吸だけが静かに耳に通る。

少しだけ、何かが見えた。

目をよくこらして見てみる。どうやらそれは人のように思えた。こんな空間にもまだ人がいたのか。私は小走りでそれに駆け寄ってみると同時に足を止めてしまった。ここならはっきり見える。

「ッ…………!!」

濃淡様々な灰色の鎧に赤いマント。茶髪のポニーテール。間違いない。これは私だ。

自分でいうのも難だが、私に本当にそっくりだ。目の前に私がいるようだ。生きているようには見えない。猫背になることなくスッと立ち、顔はうつむいていて見えない。マントすらも揺れることなく、ピクリとも動かない。

なんだろう。 怖い。

「私はここにいるのに、完全に私にしか見えない。 同じところに、なんで私がいるの?」

ねえ、なんで?

「あなたは、一体誰なの………?」

その瞬間だった。聞いた事に答えるように、「フ……ッ」と言い、にやりと笑った気がした。そしてゆっくりと顔を上げて………


本当にそっくりだ。右目は真っ赤に充血したように赤く、左目は本来白いはずが黒く、黒いはずが赤い。さらに気づかなかったが、真っ黒な羽ももっていた。

「………誰って………?」

なにも、言えない。

「……フッハハッ………」

低い笑い声が響きわたる。

次の言葉に、私は固まってしまう。

「……………セクトだよ…………?」


「ッッハァッ!!」

「うぅわあぁ!」

ちょうど朝の6時。実はかなり早起きなウェルはもうすでに目はパッチリ開いていたようで、その声は大きいものだった。それを自分でも自覚したようで、次の瞬間パッと手で口を押さえた。それと同時に、私も人差し指をたてて「しーっ」とジェスチャーした。

とはいえ、大声を出した原因は私か……。

「また、見たんだ?」

ウェルは、私が言う前に察したようだった。

そう。これで何度目だ。

今月に入って3週間が過ぎようとしていた。あれはただの夢なのか、悪夢と呼ばれる夢なのか。

あの夢が、私は本当に嫌い。

『自分が目の前にいる』なんて、人間の世界じゃあり得ないから。

この世界に来た数週間目以降、ずっとこの夢を見るのだ。

でも今日は少し違った。

まさか話すとは思わなかった。

そして、私も話しかけた(?)のは初めてだった。

想像するだけで、体がざわざわする。

隣でウェルが行き場を無くしたように手を出したり引っ込めたりしている。

「ごめんなさい、やたらとあの夢を見るものだから… さ、訓練に行こう」

近くのクローゼットからスーツを取り出して、部屋から出た。


あの夢を、忘れようとした。

もうすぐ競技大会だ。訓練には集中しなきゃ。



なにか起こらないといいけど。

********************

「セクト」

競技大会の優勝の証を手にしたセクトに話しかけた。

「セクトって大会初めてだよね!すごいよ!!」

決勝はセクトとウェルの接戦だった。

互角すぎて、1日かかっても終わらなそうな戦いだった。

僕は王子だから、観覧側だったけど。

「やっぱり王女様は強いね」

「一生かかっても勝てないよ」

皆がセクトに感心している。

時折手を振る子供たちに、セクトは優しく手を振り替えしていた。

…と突然。

「…ッ!!」

セクトが急に耳を塞いだ。

「どうしたの?」「どうしたんですか」


具合の悪そうなセクトを、二人で支えた…

********************


変な声がした。

「もうすぐ」


聞いたことのある声がした。

「もう少しで」


私が嫌いな、この声と、この感覚。

「壊しに行くさ」


嫌だ、嫌だ、止めて、


「自分を捨てろ」









ああ、











体が熱い。

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