第2話「私/彼女/この子 は人間。」
やっぱり彼女は、人間だった。
彼女も、僕らが人間じゃないことを察していたようだった。ただ静かに僕らを見つめていた。
「すっごーい!本物の人間の女の子だ!」
ウェルは、人間を恐れるどころか、会えたことに喜んでいるようだ。
「ウェル、声が大きいですよ。外に聞こえたらどうなるか…」
そう。外に聞こえたら彼女の体が危ない。彼女も、僕が得たものの1つなのだ。今まで沢山のものを失った僕には分かる。人を、仲間を、家族を失う辛さが、どれだけのものなのか。もう、失いたくなかった。
「あの、本当に何も覚えてないんですか?」
彼女は一瞬困った顔をした。
「あ…… ひとつだけなら」
「私は確か… 魔法陣に吸い込まれた、ような…」
僕とウェルは、同じものを感じたようだった。最近、よくオレカ界で起こっている事件だった。魔王たちが勢力を上げようと、人間にまで手を出し、人間を部下につける魔王がいる。彼女は、きっと狙われたのだろう。
「じゃあ、尚更危険です!何とかしてとけこめるようにしないと…」
「でも、名前がないんじゃ、何も出来ないよ。人間には人間らしい名前があるらしいからさ、本名を使ったらいつかばれちゃうよ!」
魔王には、渡したくない。父上が奪われたあの瞬間は、今でもはっきり覚えている。魔王の部下に殺されたのを、目の前で見たんだ。魔王は本当に恐ろしい。パッと、頭に浮かんだ名前があった。
「"セクト"……」
彼女も失いたくも、僕の方に顔を向けた。
「理由は、ないんですけど…。なんか、いいなって。思ったんです。」
きっと、彼女を守りたい思いが生んだ名前でだろう。本当に理由が見当たらない。
「いいんじゃない?ピッタリだと思うよ、私は!」
同時に彼女も顔を明るくした。次の瞬間。
「っははっ…」
笑った。彼女が、初めて笑顔を見せて笑っていた。
「"セクト" いい名前…!」
気に入ってもらえたようだった。
「じゃあセクト!私の部屋においでよ!まだ1人分空いてるんだよね!騎士団にも入ろう!」
彼女… いや、セクトも、次第に笑顔が増えてきた。僕は、すごくホッとしていた。
********************
名前をつけてもらった。名前を教えてもらった。"フロウ"。 "ウェル"。敵じゃ、なかった。私は心のどこかで怖がっていたのだろう。胸がものすごく熱くなった気がした。
明日から、私は騎士なんだ。戦うんだ。国のために。仲間のために。目の前にいる、王子のために。フロウはとても優しかった。自分は王子なのに、「フロウでいいですから」と王子として呼ぶことを断った。ウェルも、「私が教えるから」と言ってくれた。後悔はいらなかった。気づけば私は、もうその環に入っていた。嬉しかった。ありがとうって、いつか言えるだろうか。
ハッピーエンドは、味方してくれるだろうか。
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