第6話…焦っても仕方ないさ

「新垣君だよね」

ヒロの最大の武器はフットワークの軽さだった、興味を抱いたその日の夕方にはさっそく新垣正樹に声をかけていた

「ウォルターウルフ好きなんだって?」

「まぁ…ぼちぼち…」

「ギターも弾けるんだろ?」

「趣味程度ですよ、それじゃあ帰るんで」

面倒そうに言うと正樹は去っていった


「新垣君?私もあんまり話した事ないな、なんで?」

夕食を食べながら友里亜は答えた

「ウォルターウルフの名前は中々出て来ないからな」

「ふーん…ヒロは音楽やりたいんだ?」

「いや、バンドとかは別に…」

「いいんじゃない?ヒロ友達居ないし」

友里亜は箸をテーブルに置いた

「噂だと川崎駅前の「ジュークボックス」ってお店によく居るらしいよ」

友里亜はヒロの食べ終わった食器を片付けた


「新垣君、川崎のジュークボックスいつ行くんだよ、名前からしてライブバーだろ、俺にも君のギター聴かせてくれよ」

「いいですよ、どうせ趣味なんでお聞かせするレベルじゃ…」

「いいなら聴かせてくれよ、決まりな、金曜日の夜行くからよ」

「ちょ…古谷さん…」



金曜日の夜、ジュークボックスに友里亜と着くとタバコの煙の向こうにレスポールを持った正樹がいた


「下手だ…リズム感もない、強弱も曖昧だけど…音が良い」


ヒロは誰に聞かれるでもなく呟いた


「本当に来たんですか?物好きですね」

正樹は苦笑いをした

「下手だな、でも音が良いよ」

「マーシャルとレスポールですからね」

「いや、音が良い」


この夜が、この後長く続く新垣正樹との出会いの夜だった

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