第10話 燻る野心

シュウ王主催の晩餐会。


従属の王を列席させた権力の鼓舞。

シュウ王の横に座る仮面の魔法使いソーサラーユキ。


和やかな晩餐会ではないにせよ、ユキの存在は異質であった。

ほとんど素肌を露出しない純白のローブの奥で光る紫の瞳。

眼球までもが魔石ではないかと思わせる。


この晩餐会を提案したのはユキである。

シュウ王に従属の王達と上下関係をハッキリと解らせるため、そしてシュンカの国力を見せつけることが目的、反乱の意思を早々に摘むためであるとして。


晩餐会は終始、和やかなムードを維持して終わるかに思えた。

従属となった国のひとつ、武で名を馳せたハサイ王。

「シュウ王!お覚悟!」

ハサイ王の懐の魔剣がシュウ王の胸を貫いた。

武器の持ち込みは禁止されている、なのになぜ?

近衛兵がハサイ王を取り囲むより早く、ユキの指先から放たれた氷の矢がハサイ王の頭部に突き刺さる。

「な…ぜ…」

何事か言いかけて、ユキを見るハサイ王。

ビキキキッと音が部屋に響くと、ハサイ王の身体は氷に覆われた。

「王の治療を急げ!」

ユキが命じる。


シュウ王が自室に運ばれると、ユキが各国の王に命じる。

「今日のことは他言無用に…ハサイ王のこと…混乱を招きますゆえ」

「ユキ殿…しかし…」

「ハサイ王は、帰路の途中に不幸な事故に遭われたのです…」

静かに、しかし圧力ある声でユキが威圧する。


…………

晩餐会が終了するとすぐに、ハサイ王の護衛に付いてきた騎士は、ユキの部下に始末された。


誰も居なくなった会場で、ユキが氷浸けのハサイ王に話しかける。

「打ち合わせどおりでしたな…ハサイ王、御役目。ご苦労さまでした」

ユキが薄く笑い、氷を指先でキンッと弾くと、カラカラと床に氷漬けのハサイ王が散らばる。

「お預けした魔剣、返してもらいますよ…インビジブルソード、視えぬ剣…便利な剣ですから、あなたには過ぎた魔剣だ」


そう、ハサイ王はユキにそそのかされたのである。

シュウ王を快く思ってなかったハサイ王。

軍門に降ったとはいえ、隙あらばと虎視眈眈こしたんたんだった心中をユキに見透かされたのだ。

ユキは視えぬ剣をハサイ王に渡し、自らがシュウ王を誘導するので刺せと。

「あなたのような覇王こそ、この時代を統べるべき器なのです、私の魔力を託すに相応しい王となっていただきたい」


すべてはユキのシナリオ。

「あとはシュウ王…あなたも…そろそろ袖に下がっていただきましょうか」

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