第8話 軍事大国

『シュンカ』は急速に領土を拡大していく。

 ユキのゴーレムは、ユキの魔力の影響下であれば事実上無限に動かすことが可能である。

 つまり、ユキがいない場所ではゴーレムは無力、攻め込める国は1つに限られる。

 拡大するにつれ、軍事力の強化は必須であるのだが、ユキは他の師団の増強をさせなかった。

 他の3師団はあくまで本国シュンカの防衛にあて、前線にはほとんど出向させない。

 各師団5名程度を同行させるだけだ。

 ユキが使うのはゴーレムだけではない。

 戦争の犠牲となったものに、自らが生成した魔石の粉末を使いゾンビを生み出していた。

 戦争のたびに拡大していく戦力、自軍の兵はほとんど使わない、敵の兵は死んでからも利用する。

 ゾンビはゴーレムと違いコントロールが効かない、食欲だけを刺激するように作られているのだ。

 制圧方法は簡単である。

 ゴーレムで籠城まで追い込み、ゾンビを解き放つ。

 各師団の兵は主にゾンビの誘導が任務となる。

 制圧後は、転がっている死体をゾンビ化し引き上げ、次の領地に向かうのである。

 移動の度に兵が増え続ける。

 他国の兵にゴーレム・ゾンビの管理をさせる。


 この繰り返し。


 内政に関しては、大臣に指示をだしている。

『魔石で作られた魔道具を国民に提供せよ』

 魔石使いのほとんどは、この魔道具を生活用品として国民に分け与えた、それまでは武具に魔石を埋め込み使っていた技術を、魔法力を持たない国民にも提供する設備を作っていたユキ。

『魔法炉』に魔石使いが魔力を貯め込み、各家庭に魔力を供給することで魔道具を扱えるようになるというわけだ。

 国民の生活は格段に豊かになった。

 むしろ侵略というよりシュンカの介入は他国民にも受け入れられている。


 表向き、シュンカの侵略行為は、虐げられた国民を救うように受け止められているのだが……。

 ユキの進軍に志願して付いてきているタケは思うのである。

(このゾンビを見ても……そう言えるのだろうか?)

 高い石の壁に閉じ込められ、ときには共食いしながら腐臭を放ち続けるゾンビ。


 ゴーレムを造り、ゾンビを飼う騎士団。

 魔法炉に魔力を送り込むだけの魔石使い。

 魔道具を作り続ける魔法剣士。


 もはや軍隊と呼べるのは、このユキの人形たちだけだ……。

「おもちゃの兵隊……醜悪なおもちゃだ!」

 タケは石の壁に思い切り拳を叩きつけた。

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