第6話 小国の挙兵

 ユキが魔法使いソーサラーとなり2ヶ月が経った。


 王が各師団長を集めた。

 4つの師団のなかで唯一兵を持たない師団、それがユキである。

 魔法使いソーサラーとは特殊な職位なのだ。


 ユキが広間に入ると、すでに他の3名の師団長は揃っていた。

 壁を背もたれにし腕組みをしている、騎士団長ナイトマスター『ハルト』

 王が座るであろう上座の右手に座る、魔石帝ハイウィザード『ナーツイヤ』

 窓から街を見下ろしている、魔法剣士長ルーンナイト『アキ』

 ユキを一瞥いちべつするだけで、とくに動く様子もない。


 少し遅れて大臣が入室し、師団長全員に席に着くよううながす。


 ナーツイヤが斜め前のユキに話しかける。

「ユキ殿、その仮面、王の御前では外された方がよいのでは?」

「この仮面は顔に埋め込んだ魔石の魔力を抑えるためのもの、ここで外すわけには……」

 ユキの顔は2/3ほど仮面に覆われている。

「道具に魔石を埋め込むような感覚で、身体に埋め込むとは、魔法使いソーサラー様の勇気には驚くばかり、正気の沙汰とは思えませんな。よほどツライことがあったのでしょうな~、ナーツイヤ殿」

 ハルトが正面のナーツイヤをニヤニヤしながら見る。

「ハルト殿、ナーツイヤ様に何がおっしゃりたいのか?」

 アキがわざとらしく聞く。

「アキ殿も魔石使いウィザードの頃、ご苦労なされたとか…ユキ殿も、さぞ思うところがあったのでは……と思ったまで」

 ハルトが答える。

「アキ殿も、ユキ殿も才気に溢れておったゆえ……厳しく育てたかも知れませんな」

 ナーツイヤが白く長い顎鬚を撫でながら答える。

「私は、ナーツイヤ様のご指導を受けた覚えはありません。司書でしたから」

 ユキが少々キツイ口調で返す。


 しばしの沈黙の後、王が姿を現した。

「余は予てより、隣国のシキ王には苦渋を飲まされておってな……」

 静かに話始めた。

「そこで…だ…隣国への挙兵を決めた」

「王…それは、あまりに急なお話、そもそも、シキ王の軍は我が国の5倍ですぞ」

 ハルトが王の言葉を遮る。

「ご心配なく」

 ユキが立ち上がる。

 王以外の4人がユキを見る。

「予てから、シキ王の強引な外交には思うところがありまして…王に挙兵を進言いたしました」

 ユキが王の後ろへ立つ。

「ユキ殿…失礼ながら貴公、師団長とはいえ1人ではないか、まさか我々の兵をあてにしての無謀な進言ではあるまいな」

 アキがユキをバカにしたように言う。

「ふっ…中庭へ移動しせんか?」

 ユキが促す。

「中庭に千の兵でも用意しましたかなホホホホホ」

 ナーツイヤが笑う。


 …………

 中庭に移動すると、土で作られた人型のオブジェが1体置いてある。

「これが兵です」

 ユキが言うと師団長が笑い出す。

「話にならん!」

 ハルトが怒鳴りだす。

「ハルト様、いかがですか?この土くれと戦ってみては…」

 ユキが怒るハルトを煽る。

「フハハハハ、俺がか…バカにしおって、おい!そこの、この土くれを壊して片づけろ」

 ハルトが手招きしたのは、警備していたタケである。

「はっ!」

 タケが走ってくる。

(ユキ…なのか…あの姿、もはや面影も無い)

「この騎士でよろしいか?ハルト様」

 ユキが土くれに粉を振りかける、すると、土くれがビクンと動き出す。

「その騎士を殺せ!ゴーレム」

(殺せ?なんのことだユキ)

 ゴーレムがタケに襲いかかる。

 タケが身構えるより早く、ゴーレムはタケを殴りつけた。

 地面に転がるタケ。

「なっ…」

 アキが驚いたようにユキを見る。

「貴様!」

 ハルトがユキの胸ぐらを掴み締め上げる。

「やめい!」

 王がハルトを制止する。

「ハルトよ、そのゴーレム倒せるか?」

 王が興奮しているハルトに問う。

 ハルトは無言で腰のロングソードを抜いてゴーレムを斬りつける。

 しかし、剣は土くれを裂くだけ、ボトリと落ちた腕もすぐに復元される。

「これは…」

 ハルトの動きが止まる。

「バカめが…」

 ゴーレムを炎が包んだ。

 ナーツイヤが杖に仕込んだ炎の魔石を発動させたのだ。

 だが、表面を焦がすだけでパラパラと剥がれては再生する。

「ちっ!」

 炎剣・氷剣を両手に構えたアキは斬りかかるのを止めた。


「これを1000体用意いたしますゆえ、皆様の兵は不要にございます」

 ユキが王にうやうやしくお辞儀する。

「うむ。挙兵を許そうユキ、師団長はユキのサポートを頼むぞ」


 そういうと王は自室へ戻った。

(これが…禁書から得た力…)

 ナーツイヤが睨むようにユキを見ていた。

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