第19話

 「よくやった」

勝ち残ったキールにクーフェンは一言のみ労いの言葉を掛けた

「あの衣を取りあげられた時点で負けたと思ったがな」

「ありがとうございます。ひとえにルフト様のご威光の賜物です」

この世界の奴隷がどの程度の教育レベルにあるかは分からないが、この程度のおべっかは使っておくべきだろう。

「雷魔法を受けたようだが身体に異常はないか」

決勝まで残ったからかキールの扱いが多少よくなっている。

「そうですね、まだ少しダルさがあります。初めて雷魔法を受けたのでどのくらいでよくなるのかわかりませんが、それほど動きに影響はなさそうです」

答えるキールに

「無理をするな。回復魔法を受けにいくぞ」

前回治療を受けた部屋に行くと。入口に女性が立っていた。ブルネットの髪をミディアムのウルフにした細身で整ってはいるが鋭い感じの美人だった。女性はクーフェンを見ると

「まだ、うちの小戦奴が治療中よ。近づくのは遠慮してもらいたいわね」

クーフェンは特に気分を害した風もなく頷くと

「わかった」

事務的な返事をし、隣の部屋の前で止まった。

「その子が、あなたのところの小戦奴かしら」

「お前には関係ないだろう」

「ふふふ、関係あるわよ。次の10回戦うちの子と戦うのだもの」

「そうか、しかしそれではなおさら情報を渡すわけにはいかんな」

そんな二人の会話が途切れ、居心地のよくない空気が流れ

部屋のドアが開いた。出てきたのは腰までのエメラルドグリーンの髪に幼いながら目鼻立ちの整った可愛らしい小戦奴だった。年齢が年齢なので確実ではないが幼女だろう。『あの子が次の対戦者か』キールの心が疼く。

「フェリス行くわよ。さっさとしなさい」

フェリスと呼ばれた幼女がビクッと身体を強張らせ

「はい、シャルトッタ様」

返事のあと、ブツブツと何かを呟きながら女の後をついていく。そのつぶやきの中にキールは聞き逃してはいけない言葉を耳で捕らえた

「あたしはフェリスなんかじゃない、石館優菜。石館優菜だもん」

それは間違いなくこの世界の言葉ではなく日本語だった。

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