第16話 初対魔法戦
6回戦7回戦とキールは順調に勝ち抜き8回戦にコマを進めた。残り8人。
「キール。今日の対戦相手の情報が入った」
「はい」
「どうやら火魔法を使うらしい」
「ついに魔法使いとの対戦ですか。火魔法。どのくらいの威力があるのですか?」
「当然に大人の魔法使いのような大火力の魔法は使えないだろう。おそらく直撃しても少々焼けどをするくらいだ。が、それでも例えば顔面に食らえば。わかるな」
キールは頷いて意味を理解した事を伝える。
この試しにおいて初めて観客が入った会場でキールと対戦相手は対峙していた。
「はじめ」
キールはこの試しに於いて初めて先制攻撃を試みる。もはやここまでくれば体捌き程度の情報は収集されてもやむを得ないという判断もあった。それよりも対魔法戦ということで第一案としての速攻を行ってみたのだ。そしてそれはこの世界で、この試しにおいて少なくとも初心者は掴み掛かるのが基本であり、捕まえてからどうにかしようとするらしいという事だ。しかし、これは実はこの世界に限らない、元の世界に於いても例えば小学生の喧嘩で拳や蹴りを使うのは少数派なのだ。捕まえて押し付け押しつぶすのが知識の無い人間の戦いである。そこでキールは初撃から手による頭部への攻撃を行った。ただし前にもあったように頭骨は硬い、まともに防具なしの拳で殴れば相手へのダメージと同時に自らの手を負傷するのは避けられない。そこで手のひらによるいわゆるビンタのような攻撃を行う。拳を握るより与えるダメージこそ少ないがスピードのある攻撃が相手の顔面に向かう。本能的に目を閉じ頭を振り後退し攻撃を避けようとする対戦者。しかし、目を瞑った段階でキールの次の攻撃を無条件で受けることになる。蹴りである。モーションの小さい前蹴りが対戦相手の股間をえぐる。急所に打撃を受け悶絶し膝を屈する相手のその頭部に今度は膝蹴りを合わせる。頭を腕で抱え下から突き上げる膝をまともに受けた相手は人体の急所2箇所への攻撃により大きなダメージを受け既に意識が朦朧としている。集中力を失った魔法使いなどキールの敵ではなかった。こっそりと表面硬化を行った足で蹴り、ふらついている相手を捕まえスープレックスのように抱え上げ頭から落とす。既に相手は立ち上がろうとすらしない。それでもまだ終了の合図が無い以上続けるしかない。表面を強化した足で頭部を蹴る。ボディを蹴るとうっかり意識が戻る可能性がある。そうしたら更に酷い攻撃を加える必要が出てくる。だから非情に見えても頭部中心に攻撃を続けるしかない。今回の相手はあくまでも火魔法の使い手のはずだ。回復魔法の使い手で無い以上どこかで止められるはず。止められるまでは攻撃を止めるわけにはいかない。それは自分の命を差し出す愚行でしかないから。頭部への加撃を続けること数分。相手の体から完全に力が抜けたのが感じられた。これ以上はマズイが、まだ止めないのか?やむを得ない、最後の1撃のつもりで蹴り足を上げると
「そこまで」
やっとか。今の1撃を入れていたらこいつの命はなかっただろう。
そこまで考えてフと気づく。そうか止められたのは最後に殺すつもりの1撃を構えた時だな。最初に殺してしまった時はそういう境目が分からなかった。
だからか・・・行くところまで行かないと止められなかったのは。ある意味オレの能力が不足だったのと覚悟が不足だったからだ。それゆえ、境界を感じ取れるそして、そこで覚悟を決めた一撃を放てるオレを見て審判が止めたのだろう。今更ではあるが、不幸な事故を多数起こす前に気づけてよかった。
勝利宣言を受け控え室に引き上げながらホッと息をついた。
「よくやった、次は明日だ。十分に体をやすめておけ」
クーフェン様の言葉に小さく頷き体を横たえる。恐らくはこの勝利で正式な幼戦奴への昇格は確保できただろう。それでもそれをより確実にし、自由に近づくためには出来るだけ上位に入るのに越した事は無い。今回移行は体術系は基本解禁。魔法も表面強化は解禁。そして勝つ。ふと思い出し、右腕全体の強化を行ってみる。ものすごい勢いで何かのエネルギーが消費される感覚がある。どこまで耐えられるか自前でカウントを行う。36を数えたところで意識が落ちた。
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