第20話 感覚

 金色の錦糸のポニーテールを揺らしながら、ステージ上へと登る。少しだけうんざりしたように誠と葵を一瞥する。その姿はいつものパンスツスーツ姿ではない。白衣と純白の袴を身にまとい、足元は足袋と草履、胸元は掛襟の替わりにさらしがチラリとのぞいている。


「説明はもう済んだかしら?」


 ため息混じりにそう漏らす薫は、待ちくたびれた様子が伺えた。薫の登場にニカッと笑顔を浮かべる。


「――悪りぃな、待たしちまって。まだ説明の途中だが……。まあ、始めるか」

「——え?」


 予想外の薫の登場に驚く誠。彼が悟ったこの後の展開の予想は肯定される。


「ああ。お前には薫と模擬戦を行ってもらう。この刀の能力を試すにはうってつけだと思ってな。あとお前の魔力行使がどの程度の段階なのか知っておきたいからな」

「ま、待ってください! 地龍王を単独で撃退させた《雷姫》とですか?」

「お前が《勇者の力》を顕現させたっていうのは知ってんだよ。だが今は魔力行使出来立ても、蟻のクソみたいなレベルだ。お前があの時行使した魔力を思い出してもらうにはバッチリの相手だろ?」


 葵はジェラルミンケースから《龍核倉(コア・レビスタ)》全てを取り出し、誠へと乱暴に放り投げる。誠はお手玉のようにしてそれらを全てキャッチするが、葵は追加でベルトのようなものを誠の顔へと投げつけた。かなり派手な音をあげる。


 『イデッ!』と声をあげて、誠はベルトを顔から引き剥がす。『わざわざ顔に投げつけなくても』と、誠は渋々ベルトを腰へと巻きつける。

 特急で作ったとはいえ、凝った作りのベルトには、《龍核倉(コア・レビスタ)》のホルダーがしっかりとフィットする形に取り付けられており、この刀への葵の思い入れが伝わってくる。


 誠はその全てをホルダーへと収めた。


 葵は《龍核倉》を刀の柄へと填め込むようなジェスチャーをとった。 

 誠は《龍核倉》の一つを刀の柄に装填すると、鞘に収められた刀は一瞬、炎のように蒼い魔力をその刀身に宿す。誠は《荒波》を抜刀すると、薄い魔力の膜が刀身を覆っていた。


 その瞬間、誠の体の中から何かが吸い込まれていくような感覚が襲う。体の奥底にあるものが強制的吸い取られていく。その正体は誠の手からゆらゆら流れ出し、先ほど装填した《龍核倉》へと吸い込まれていく。微かな脱力感が誠の体を襲い初めた。


「こ、これって……?」

「ああ、気を抜くなよ。その刀は切ったやつの魔装を破壊するだけじゃないらしい。どうやら魔力を吸い上げるようだ。斬った相手も、使用者の魔力をもな。ま、お前にとっちゃ微々たる量だろう?」


 《荒波》を握る手を再び見やる。直接刃に触れるでもなく、誠の魔力を吸い続けていた。それはいわば呪いの剣のごとく、誠の魔力を蝕み続ける。


「準備は整ったようね。一ノ瀬、あなたの今の力、確かめさせてもらうわ」


 今まで薫が直接、誠と剣をまじあえる事はなかった。経過の確認と報告、それが主な彼女の『仕事』であった。だが彼女の双肩にかかる倭国女王からの期待。倭国人として。人類の生き残りの要を養成する責任者としてか。彼女をここまでやる気にさせるのはなんであれ、薫が《雷姫》がこうしてたった一人の生徒のために今まで動く事はなかった。

 右手に持つ十文字鎌槍を優雅に振り回す。その洗練された動きは一種の舞。右半身を前に、堂に入ったその構えは全くの隙がない。


「ま、待ってください! まだ刀の説明が終わってないって……」

「あん? 別にそんなの戦いながらでもいいだろ? お前耳いいからな」

「いや、《雷姫》相手にそんな器用なことできませんよ!」

「いいから始めるぞ!」

「ええ~」


 不満をもらしつつも、抜いた刀を両手に持ち、渋々中段の構えをとる。

 額に一筋の汗。その雫は対峙する者がどれだけの強者かを表すのに十分だった。

 さらには付け焼き刃のような刀、まだまだ自分の手足のように新たな刀を使いこなすのに十分慣らしていない。だが、その刀の感じは先ほど振り回したことで大体つかめている。

 さすがに誠の戦闘情報を元に鍛えられた刀は馴染む事はそう長い時間はかかりそうにない。とりあえずこの長さに慣れろということだろう。


 そうならば――自らの手足のごとく扱うために《荒波》を短時間で完全に把握する。

 その重さ、その長さ。柄を握る手から伝わる《荒波》の性格を知ろうと集中する。そして魔力を吸い続けられることによって発生する脱力感。それによって自分の体がどう変化するのか、その全てを知ろうと誠は目をつぶる。

 

 先ほどまで見せていた浮き足立つような感じは一切見えない。誰もが見とれるような美しい構え。

 その様子から誠の気持ちが切り替わったのを確認し、葵は薫の方を見やるが、彼女の瞳はすでに誠を中心に捉えていた。


「薫! 手加減するなよ! 早速勇者様の力の拝見と行こうぜ」


 ニヤリと口角をあげ、葵は手を上げる。そして――


「はじめぇ!」


 開始の合図が闘技場へと響き渡った。


 だが二人は動かない。


 薫は戦闘データで、その目で、誠の単純な戦闘能力の高さを知っている。それから、誠を試すというおこがましい事はできない事はわかっている。ある意味、誠のその戦闘能力を加味し、または全力で向かうため、無垢な白衣、袴姿では誠へのある種の敬意の表れだろう。思わず十文字鎌槍を握る手にも力がこもる。そして、薫は誠の真の力を知っているが故に動かない。


 対して誠は目をつぶったまま、中段に《荒波》を構えたまま微動だにしない。額に滲む汗は薫から受けるプレッシャーのためか、顔に少しばかり焦りの表情が浮かび上がっている。


 二人の間を埋め尽くす静寂が打ち破られる。


 初手は誠だった。


 深く踏み込み、駆け出し、《荒波》を下段後方へと構える。


 薫は待ち構え、槍の切っ先を誠の顔面へと向ける。


 だが薫は眉をひそめる。


 眼前の誠は忽然と姿を消した。


 背後から聞こえる風を切る音。

 

 迫る刃。


 だが、薫は背後を見向きもしない。


 それどころか前を向き、槍を構えたまま微動だにしない。


 振り下ろされる《荒波》、だが、そこには薫の姿はなかった。


 あるのは薫の放った放電の残滓。彼女の影は、誠の立っていたその場所から伸びていた。誠は薫を追いかけ切りつける。時折二人の刃が重なりあうが、剣戟の音は聞こえてこない。聞こえるのは、放電からなるバチバチという音だけ。薫の姿が消える度、誠はそれを追いかけるという構図が繰り返されていた。

 

 葵はいつの間にか装着した眼鏡型ウェアリングデバイスを通して、二人が繰り広げる剣戟を観察していたが不満を漏らした。


「このデバイス全然役にたたねぇな。薫の動きが全然追えねぇじゃねぇか。あとでテオフィールのエンジニアに言っておかないとな。それにしても、一ノ瀬のやつ人間離れした動きしやがって。あれで身体強化魔法なしでの動きってのはチートだぜ」


 だが、途端に誠は足を止める。


 単純な身体能力だけでは薫を捉えることはできない。一瞬で姿を消してしまう彼女のスピードにはついていくことは不可能である。


 誠は刀を握る手に思わず力がこもる。


 わかってはいた。魔法の使用の有無によるアドバンテージ。《雷姫》の実力も聞き及んでいた。だがここまで圧倒的な差を見せつけられては、誠は自分の力不足を思い知らされる。


 誠は顔をしかめた。


 《勇者の力》、それも初代勇者と同等の力を顕現させたはずだった。そしてそれを使いこなしたはずだった。

 

 今も思い出すのは、初めて魔力を使った時の――痺れ、衝撃。


 それを忘れぬようにと、誰よりも努力したはずだった。


 自分の体からは魔力が――《荒波》から、魔力を吸い取られる感覚のみ。自分で使いこなすことも叶わないことは、まるで自由のきかない手足のようで、歯がゆさゆえに、誠の心は悔しさで溢れかえる。


 《勇者の力》はこの身の内に秘めているはずだ。


 自らが勇者であるということを証明するかのごとく、白雷が目の前に現れた。


 そして何よりも、もう一人の勇者――テラスの存在。


 彼女が、テラスの存在は、何よりも大きかった。


 諦めない心を、信じることの大切さを、再び彼女が教えてくれた。


 彼女の燃えるような瞳が、燻る炎に再び燃え上がらせてくれた。


 全ての事象が、自分のためにあるのではないかと錯覚……否、そう思わさせる。


 ――否、そう信じたい。


 心を新たに、この模擬戦の真の目的を自らに問いただす。


 無駄なものは一切ない。


 思考を止めるな。考え続けろ。この模擬戦の意味を!


 しかめた顔は次第に穏やかさを取り戻し、緩やかに口角が持ち上がる。


 何か狙いがあるはずだ。視線を葵へと向けると葵は、ニヤリと口の端を釣り上げる。そして葵は誠へと《荒波》の説明を始めた。


「いいか、よく聞け! 《龍核倉》装填によって魔装破壊は可能になったはずだ。ちょっとでもいい、刀で薫の魔装を削ぎ取ってやれ!」


 葵の《荒波》の説明が終わると、誠はその瞳に標的を再びおさめ、駆け出した。


 薫はその体に、輪郭のぼやけた魔力の鎧、《魔装》を身に纏い始める。それは時折、雷を放ち、近づき触れれば一瞬で身体中を駆け巡り、焼き焦がしてしまう。

 纏う雷は徐々にバチバチと激しく音をたて始める。薫は槍を体を軸に左右、縦に振り回し、槍を構え直しまっすぐ迫り来る誠を迎える。


 誠はまっすぐ向かう。そう、まっすぐだ。背後を取るなどという奇策は通じない、ならば正攻法で《雷姫》立ち向かうのみ。刀の切っ先を薫へと向け、側頭へ構える。槍の間合いへと構わず踏み込み、刀へと薫の正中線へと突き出そうとした。


 緩やかな駆け出しから、弾けたバネのようにして瞬間的にその足運びを加速させる。全身の筋肉を余すことなく突き出した刀は薫の顔側面をかすめようとするが、切らせたのは光る一筋の金髪のみ。


 薫は槍を持つその手首を回し、十文字鎌槍、その側部から張り出した刃が、迫り来る誠の刀の軌道を上向きへとそらしたのだ。それは優しく、そっと手と手が触れ合うかのようにして、刃と刃が交じり合う。


 誠は胴を防ぐ手段を失い、ガラ空きとなる。


 薫はそこへ刃と逆側先端、石突きを半身回転させ、誠の胴へと容赦無く叩き込み、振り抜いた


 鈍い音がステージ上に響く。誠の体は後方へと吹き飛ばされ、辛うじて両足で地面を踏ん張るが、打撃の勢いでステージ上を滑るようにして薫と距離が開いていく。


 薫は納得のいく一撃がクリーンヒットし、満足のいく表情を――していなかった。


 葵は、その理由を、刃が交わるその一瞬を見逃さなかった。


「ひゃ~、あんな体勢からよく防げたもんだな。まるで海老みたいだったぜ」


 胴へと容赦なく打ち込まれたはずの槍の石突きは、誠の超身体能力だからこそ防げたようなものだった。顕現した《勇者の力》のその一端、超身体能力の一部である千里眼のような視力による超反応。そして筋肉の収縮を利用し、足裏で迫り来る石突きを受け、その侵入を防いだのだ。


 だが、薫の不満な表情を作った理由はそれだけではなかった。


「こんなに削り取られなんて……」

 

 薫はすぐに自らが纏う《魔装》に異変に気がつく。刀の触れたその部分は、顔側面だけではなかった。その右半身の大部分の《魔装》が乱暴に削り取られていたのだった。いつもクールに装っている薫にも焦りの色を隠せないでいた。

 

「――損傷率28%だと!? 思った以上の数字だぞ!」

 

 誠の刀が触れたのは顔側面の《魔装》だけではない。誠は石突きを防ぐために体を収縮させたと同時に、刀を薫の魔装に触れさせていたのだった。

 防御と同時に攻撃を怠らない。刀の効果を最大限に生かす誠の応用力もさることだ。――だが使用者が意図せずとも、触れるだけで魔力を削り取る《荒波》の攻撃特性に、薫だけでなく、ステージ外側で見ていた葵も驚嘆の声を上げた。


「あれ? 魔力が……」


 変化があったのは薫だけではなかった。


 誠の手元で亀裂音が響く。柄から魔力が放出され、大気中へと霧散していく。魔力が吸い取られていく感覚が突如としてなくなり、誠は柄から《龍核倉》を取り出すと、はめ込まれていた魔石が砕け散り、誠の手から砂のようにサラサラとこぼれていく。

 

「――やっぱりな。魔石が持つ魔力保持の許容量を超えたんだろう。通常兵装にするには改善点が多すぎるな。全く……まあ、そのための予備の《龍核倉》なんだけどな」


 その様子から冷静に判断する薫は、誠へと新しい《龍核倉》装填の指示を出す。誠はホルダーから新たに《龍核倉》を取り出し、刀の柄へと装填する。刃から青い炎の揺めきのような魔力を放出させ、薄い膜に覆われる。

 

 再び誠に訪れる脱力感。まるで刀が魔力を『食っている』かのような感覚に襲われる。その感覚はどこかで味わったことのあるかのような感覚を想起させた。

 次第に刀を握る手も、意識的に力を込めなければならないくなってきた。思った以上に吸収されていく魔力の量は多いらしい。ならば早めにこの模擬戦の真意を見極める必要がある。


 葵がつけた眼鏡型ウェアリングデバイス。瞬時に記録された戦闘データを仮想ディスプレイに表示させ、分析するその姿は、いつにも増して真剣な眼差しだった。この刀、《荒波》の性能チェックの他にも《勇者の力》の何かに関係することも同時に行われているはずだ。


 誠は薫へと向き直り駆け出し、斬りかかる。


 迫り来る誠の刃を、手の平を裏返すかのように巧みに軌道を変えては、十文字の刃で切りつける。だが誠も最小限の体捌きで、薫の槍の攻撃をかわしていく。


 模擬戦だと言うのに、いつの間にか、当の二人はスイッチが入ってしまい、攻防一体を繰り広げていた。


 誠から吸収される魔力と、薫の《魔装》によって、《龍核倉》の魔石は、の魔力の保有量の限界を迎える。剣戟の最中、その度に誠はホルダーから《龍核倉》を装填し、応戦する。初見の得物、不慣れなはずの《龍核倉》の交換を、この短時間でいとも簡単にこなしてしまう。


 ——今だ!


 魔石の崩壊の兆しを、魔力の吸収の微弱な変化から読み取る。ホルダーから取り出し、放り投げ、装填する。その動きは一寸のブレもなく、武芸全般を極めた誠だからできることだった。


「――っ! 最後の……一つ」


 誠はホルダーから最後の《龍核倉》を取り出し、空中へと放り投げ、腕を振り、刀の柄へと装填する。刃から一際大きな青い魔力の揺めき放出させ、薄い膜に覆われる。だが、その膜は先ほどよりもさらに厚い層を成していた。


「――っ!!」


 一気に襲いかかる虚脱感。刀を握る手が、柄に吸い付くようにして指が離れない。4つの《龍核倉》による魔力吸収によって、誠の魔力はかなりの量を失っている。だが最後の一つは、先ほどとは桁違いの魔力の吸収力である。――まるで命を吸い取らんとしているかのように。


 試作段階のため、その性能にバラツキがあるのは理解できる。

 

 だが、ここまでの歴然の差は常軌を逸していた。


「なん、だ……これ? まるで……」


 葵の眼鏡型ウェアリングデバイスから表示される仮想ディスプレイからも、警告を知らせていた。


「おい、一ノ瀬! 今すぐ取り外せ!」


 誠は必死に手を伸ばし、《龍核倉》を取り出そうと掴み取る。まるで抵抗に抗うかのようにして掴んだ手は、刀を握ることでさらに魔力が吸い取られ始めてしまう。


「――くっ! うぅ……アァ!」


 誠は引き剥がすかのようにして《龍核倉》を取り外す。手からこぼれ落ちる刀は、音を立てて転がる。誠の体は生まれたばかりの子鹿のように震え、膝を支えるのがやっとの様子だった


「おい! 大丈夫か、一ノ瀬!」


 葵と薫は誠へと駆け寄り、声をかける。誠が肩を大きく上下させ呼吸する様に二人はことの異常さを思い知る。


「ハァ、ハァ、ハァ………ええ、なんとか……」


 葵は原因を探る中、ある一人の顔が思い浮かぶ。大きなため息とともに、その名前を呼んだ。

 

「カトリーナのやつ、間違えやがったな?」

「どういうこと?」


 肩で息をする誠に心配そうに見ていた薫が、怪訝そうに葵へと尋ねた。

 

「知っての通り、カトリーナはアラム国の龍族研究チームの中心メンバーの一人だ。おっとりしてはいるが、あいつが龍核研究の最先端を担っているのさ。《龍核倉》の基本概念提唱したのは私だが、それをカタチにするための基本設計はカトリーナがやったからな」

「……あの子、そんなにすごい子だったの?」


 『ああ』と、薫は相槌うち話を続けた。


「今回の試作段階のもので、カトリーナのやつが一つだけ龍核の能力を限界値上限ギリギリに設定した《龍核倉》を作ってしまってな……。あいつ多分寝ぼけてやがったな」

「……あなたがいつか、カトリーナを過労死させるんじゃないかって心配だわ。たまにはちゃんと休暇を出してあげなさいよ」

「いや〜、ちゃんと休んでるはずなんだがなぁ……」

「本当に? 彼女も龍族撃退の大事な一役を担っているのだから……。まあ、それはそれなのだけれど……」


 カトリーナの労働環境の最悪の結果を被った誠は、力なく地面に膝をついて、ただならぬ様子で置いてけぼりにされていた。呼吸もだいぶ落ち着いてきている様子に葵と薫は安堵の息をこぼした。


「この結果を見る限り、使用者の魔力も同時に吸収する効果を制御しなければ、使用者自体にも魔力枯渇の危機が及ぶってことだな。倭国の破龍士の通常兵装とするには、結構改善しなきゃな〜」

「私も最初の4つの《龍核倉》に《魔装》をかなり削られたわ。魔力を削り、吸収する量はかなりのものよ。今後兵装が大きく変革しそうね」


 《荒波》から得られた成果はひとまず狙い通りの結果を得られたようだった。その結果に対して言葉を交わし合う最中、誠は微かに震える手のひらを見つめながら、ある一つの感覚が思い出されていた。


「——これって……」


 体に残る魔力の源。そこから根こそぎ奪い取られるような感覚。


 魔力行使プロセスのその《道筋(パス)》には、《荒波》が乱雑に傷跡を残すかのようにして魔力を使った感覚が残っていた。


 そう、あの時の感覚を。


 《勇者の力》が顕現したあの感覚を。

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