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「そう。目撃者さんも記者さん達も丸ごと亡くなったのね……」
と多福さんが神妙な表情で呟き、澁谷さんが言っていた通りに深い考えに浸り始めたのは昨日の晩御飯を食べ終えた直後。そこから、藤谷さん曰く3時になるまでずっと考え込み、それをずっと見守っていた さんにある事を指示する。
そして、その指示の内容を聞いたのは昨日と同じようにすっきりと起きれた朝を迎えた時の事で、その内容に澁谷さんも驚き天を仰いだ。
「中止は……出来ませんか」
「ええ。既に頼みましたもの」
それは、常人ならば、そして権力を持つ者ならば決して許されない行為。敵に見つかったら、終わりを意味する行為だ。
「二ツ目家を代表して感謝申し上げます」
「無罪の若者を助けるため当然の事よ」
それが届くのは夜との事なので、私達はすべき事を果たすために、多福さんから教えてもらった住所に行くことにする。
それは、兄とドラゴンが落ちた所の最寄り駅から更に2つ宝塚方面に進んだ逆瀬川駅からタクシーで上がっていった所にあり、周りよりも広めの家がそこに
リンゴーン……と呼び鈴を鳴らすと、10秒以上経ってボサボサの白髪の男性が出てきた。
「アポも無しに誰か……」
「申し訳ございません。摂津で使う勇気がどうも沸かずに来させてもらいました、先生」
「二ツ目順二君……かね」
「はい。兄共々学校ではお世話になりました」
しばらく唖然としていた、私が途中まで通っていた高校の理科の先生であり、ある分野において有名な森町幸一先生は、我を取り戻して、そこで漸く澁谷さんに気付いた後、素性は聞かずに私達を中に入れてくれた。
先生に導かれるままに客間の長椅子に座らせてもらい、お茶を入れてくれるのを手伝う。
「あの事件の2日前の授業以来、かね」
「そうなると思います。事件後は迷惑をかけました」
「ややっ、大丈夫だよ。うちの先生達は、順一君があのような事件を起こすとは考えていなかったからね」
「ですが、遺族の方々が……」
「ああ、確かに五月蝿かったよ。だから、私も潮時だと思ったし責任を取る形で辞めさせてもらった」
「その事を聞いた時は驚きました。勝手に先生の研究分野と兄の魔法が結びつけられて……」
「まあ、警察も来たが、あちらさんにとっては無実の者を有罪にする悪魔の証明なんだから、肩を落として帰った後は笑ったよ。それよりも、だ。何処にいたんだい?」
「九州の方に3人で」
「九州っ! また遠い所だね」
そこからは互いの身の上話をするが、先生はある話題にはずっと触れず、私は思いきって聞いてみる事にした。
「澁谷さんの事は聞かないんですか?」
対する森町先生の答えは簡潔だった。
「君が連れてきたんだ。事件に関係している善人だろ? だったら疑う理由は無いよ」
と。
「ですが、少しだけでも私の事は知ってもらいたいので自己紹介しても良いですか?」
澁谷さんの言葉にも笑顔でうなずいた森町先生は、彼女の素性を聞いて驚いて「なるほどね~」と呟いたぐらいだった。
「特高だから順二君達を保護してくれたんだね」
「はい」
「そうか、君なら信用出来るね」
笑みを浮かべながら先生が呟いた事に、私達は興味をひかれた。
「どういう事、ですか?」
「君達の組織には知らされていないはずの情報を話せる、という事さ」
「……というと?」
「私の知り合いに武庫川に堕ちたドラゴンの解剖をした中の1人である教授がいてね。彼が、私とのお酒の席でドラゴンの体にあった大きな疑問を話してくれたのだよ」
「疑問?」
「うむ」
一瞬だけ私を見た先生は、次いで真っ白な自分の頭の後ろを右手で撫でる。
「この後頭部にね、火傷の跡があったんだ」
『火傷?』
「うむ。偶然ではすまないような集中的な火傷の跡がね。彼はどんな原因によるものかわからず、彼も を取り寄せる事が出来ないから詳細はわからないけどね。私はある仮説をたてた」
前にのめり、先生はジッと私を見る。
「君達2人が持っている魔法。そう電磁波魔法が、ドラゴンの頭の電気信号を操ったんじゃないかとね」
「…………やっぱりその可能性が」
「ああ。そもそも君達の魔法は、魔法業界での規定で一般では知らされていないから、巷ではそんな仮説はたてられていないけどね」
それでだ、と森町先生は前にのめったまま続ける。
「順二君の電磁波魔法を調べさせてもらっても良いかい? 明日からで良いから」
そりゃあ勿論ーー。
「今日からでも良いですよ?」
「準備が出来ないよ」
「残念です」
気を取り直して、森町先生と明日の事について詳細を詰める。その間に、多福さんがやってくれた事を名前を隠して言うと、乾いた笑いをしていた。
それで更に詳細が詰められる事になり、時間が延びて、ある先生が帰ってくる時にいる事が出来た。
ガチャガチャと音を鳴らしながら、リュックサックを背負ってやって来た男性。私達が自己紹介すると、兄と関わりを持っていて無実を信じているその男性は更に驚いた。
「二ツ目君の弟だったか。よく似ているな。……ああ、自己紹介がまだだったね。畿内の私立の大学で地質学の教授をさせてもらっている柳谷慶助だ」
そして、この人の言葉で大きく事態は動き始める。
「神戸……というより摂州に泊まっているなら逃げた方が良い。もうすぐ
と。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「山上の観光用の牧場の牛の様子がおかしい。
最近、鳥を見かけなくなった。
真夜中だというのに烏が大群になって鳴いていた。
畑から
その他諸々。
これらの
「4倍、ですか」
「ああ。それに、地下でも
「
「うむ。それじゃあ、地震の時系列は?」
「……前震、本震、余震ですか? 前震は本震が起きた後そうだったとわかると」
「正解。君は勤勉だったようだね。さて、
「…………東西に広がってますね」
「ああ。しかし、ほとんどは無感地震だから、一般人にはあまり話題にならない。宝塚から高槻まで伸びているにも関わらず、な」
「動物の異常現象と、無感地震の帯……」
「極めつけは今日完成したこれさ」
「……水、ですか?」
「ああ、場所場所の水の成分や温度だ。一昨日から水源や井戸をまわって、さっき逆瀬川の水源の結果が出た所だ」
「……平均値より暖かく、そして成分が違っているという具合になっていますね」
「その帯水層……地下水がたまる所さ……に近い井戸を中心に、普通なら影響を与えないはずの深さの土の成分が紛れ込んでだ」
「地下に亀裂が? それも各所で」
「澁谷くんの見解通りだろう」
「柳谷。君が調べている時に知り合いから、ここもおかしくなっていると報告が来たよ。わずかにだが、成分が違ってきている」
「Ikuta river……生田川ですか?」
「そう。生田川でも異変が起きているようだね」
「部屋に戻る。パソコンに送っておいてくれ」
「もう送ってるよ」
「Thank you」
そして、頭をガシガシとかきながら、柳谷教授は客間を出ていく。それを呆然と見送った私達に、森町先生は語りかける。
「現在進行形で神戸のみならず摂州に危機が迫っている可能性がある。これを、出来れば君達の協力者だろうお多福さんに伝えておいてくれ」
と。
それを言われた通りに多福さんに話すと、微笑みながら「柳谷君が」と呟いただけだ。
「お知り合いですか?」
「ええ。同じ窓から外を見つめた者同士ですし」
「「えっ!?」」
「あら、そんなに意外だったかしら?」
「ええ。失礼ですが柳谷教授があの学園の
「話しました?」
「森町先生が、ですが。高2の学園祭の時に、はっちゃっけていた親友の事を話していたのを思い出しまして」
「あらあら」
森町先生、柳谷教授、そして多福さん。その3人があの時期の学園の生徒だったのには驚いたが、今は置いとかなければならない。
「遅れましたが、取り寄せてくださいまして本当にありがとうございます」
「当然の事をしたまでよ」
「それでも、です」
そう。
あの事件の捜査資料のコピーを手にいれるなんて、感謝してもしきれないほどだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「多福加奈枝、か」
「はい。二ツ目順一と同じ所の者です」
「なぜ今更……。監視をつけろ」
「了解しました。」
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