第7話 ジジイとJK

 ジジイは三年達をじっと見つめていた。水原達は若干動揺をしていたが、何故か微かに笑みをこぼしていた。すると、ピアスをしていた三年の一人が突然笑い始めた。そしてジジイと面と向かうと声を張り上げた。


「待ってたぜジジイ!!あの時の借りは返させてもらうからなあ!!!」


 ピアスの男のテンションが高まるのに対して、ジジイはきょとんとしていた。何の事か全く分かってない様子だった。それを感じてか、三年は言葉を続けた。


「忘れたとは言わせねえぞ…俺の城をぶっ壊した罪、償ってもらうぞ!」


 城…ジジイが壊したという城で思いつくもの、それは公園の砂場に築かれていた立派な城しかなかった。あれを作ったのは、なんとこのチャライ三年だった。


「まじ?」


 思わず私は近くにいた三年に確認していた。三年はしばらく目を泳がせて、小さく頷いた。人を見かけで判断するのはやめようと心に誓った。それから私は一応フォローしようとした。


「あれは事故で…」


「そんなの知ったこっちゃねえんだよ!まさか水原の思惑通りに現れてくれるとはな…」


 説得は無理だった。私は水原の方を振り返る。水原はニヤリと笑った。


「私の駒とアンタの駒…どっちが強いか決めましょ…?」


 これが狙いだったのか。水原はジジイにやられっぱなしだったのが、よっぽど悔しかったらしい。今回は罠にはまったと言ってもよかった。


「おい、その女は逃がすなよ。ジジイをブッ飛ばした後でじっくり楽しむからよぉ」


 それを聞いた三年の一人は私の体を拘束した。ジジイは納得できてない様子だったが、もはや闘いを避けることは出来なかった。三年の集団に対して、ジジイ一人。不利なのは一目瞭然だった。


 ジジイは空を飛び、前回同様、何かを投げつけようとした。しかし三年達は何処から出したのか分からないロープを取りだすと、ぶんぶん振り回し、ジジイに目がけて投げた。


「この時の為に練習したんだ、なめんじゃねえ!」


 ロープはジジイの足を捕らえ、ジジイは空へ飛ぶことも出来ず、地面に叩きつけられた。三年達はすかさずジジイを抑え込むと、間もなく殴る蹴るの応酬が始まった。何とかジジイは立ち上がるも、そこに勝機は無かった。あっという間に勝負はついた。


「よっわぁ~」


 後ろの女子達の歓喜の声が聞こえてきた。ジジイは一方的に殴られていたが、倒れようとはしなかった。フラフラになりながらも、三年達に掴みかかっていった。それをしては突き飛ばされ、この流れが繰り返された。私は唇を噛みしめ、一瞬たりとも、そこから目を離さなかった。


 私の後ろでは、水原達がやかましい歓声をあげていた。「終わったな」私を拘束していた三年が笑いながらボソッと呟いた。ジジイは必死に抵抗を試みていたが、力の差は歴然だった。もはや見ていられなかった。私は歯を食いしばり、涙を溜めていた。堪えていた……無理だった



「もうやめてよ!!」



 気付くと、私は出せる限りの大声で言っていた。涙は一気に溢れた。しかし尚も闘いは終わらない。水原達の笑い声が響く。私はさらに叫んだ。


「なんで来たのよ!?しばらく全然会いに来なかったくせに!損するだけじゃん…私のことなんか放っといてよ!!」


 ジジイは抵抗を止めない。


「私は大丈夫だから!!慣れてるから…だから…よ、余計なお世話なんだよ!!別に、頼んでなんかないし!」


 ジジイは抵抗を止めない。


「説教とか、本当に…もう…と、とにかく!本当に…」


 ジジイは抵抗を止めない。


「助けとかいらないから!!一人でも、大丈夫だから!!!!!」


「馬鹿野郎!!!」


 ジジイは殴られながら声を荒げた。かなりの大声だった。私は涙でぼやけた視界の中で、しっかりとジジイを捉えていた。ジジイは必死に私の方に顔を向けながら、言った。


「女子高生ごときが…強がんじゃねえ!!」


 殴られながらも、ジジイは叫ぶのを止めない。


「お前なんか、まだまだガキなんだよお!!一人で抱え込みやがって…もっと甘えろよ!思いっきり泣けよ!この…」


 殴られてもジジイは倒れない。


「前を見ろ…人を信じろ…」


 三年の渾身の一発が入ってもジジイは倒れない。


「一人で無茶なんかすんじゃねえ!!ちょっとは大人を……頼りやがれえええええ!!!」


 ジジイは叫び終わると、息を荒げて、私の方をじっと見据えていた。涙が次から次へと溢れ出た。首を思い切り振って、涙を振り払い、ジジイをしっかりと見る。私は一度目をぎゅっと閉じて、そして言い返した。


「でも、今は…今だけは…ちょっとは…無茶させろおおおおお!!!!」


 そう叫ぶと同時に、私は拘束していた三年の顎に思いっきり頭突きを喰らわせた。三年は私から手を放し、しかめっ面で顎を抑えだした。それと同時に私は上半身には下着しか身に着けていない事も忘れ、思い切り駆け出した。ジジイを助けなければ、と。誰かが追いかけてきたが、必死に走り、追いつかれることなく、わずかに人がいる大きな通りへと辿り着いた。息つく暇もなく私は叫んだ。


「誰か、誰でもいい!助けてください!!」


 私は無我夢中で助けを求めた。必死に声を荒げた。後ろからは前髪を上げた女が迫ってきてた。私は活気のない商店街を見回しながら、喉がつぶれそうになるくらい大声を出した。何度無視されようと止めなかった。


 その結果、私の周りには何人かが立ち止っていた。ジジイ、ジジイ、ジジイ、ジジイ、ジジイ、ジジイ、ジジイ…ジジイしかいなかった…そして、追いかけてきた前髪を上げた女が遂に私に追いついてしまい、私の腕を掴んだ。


「観念しろよ…」


 息を切らして彼女は言った。しかし私は妙な胸騒ぎを覚えていた。周りのジジイ達は私をじっと見ている。そして私は察した。それから前髪を上げた女の方を見て、ニコッと笑って見せた。その次の瞬間だった。



 周りのジジイが空を自由に飛んでった。



 空に目をやると、更に遠くの方から大量のジジイが空を飛んでやってきた。


 ジジイの集団は前髪を上げた女に頭から突撃した。


「ブヅォブぁ…!」


 ジジイの頭が彼女の頭にぶち当たった。彼女は相変わらず野太い声を上げると、仰向けにぶっ倒れた。ジジイの集団がさっきの通りの方へと飛んでいくと、その内の一人が私の手を取り、飛んで連れていってくれた。


 勝負はまだ終わらない。

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