漫才グランプリへの戦略と「笑う空気」

 お笑いが好きなんですよ。テレビで漫才を見て、カセットテープで落語を聴いて、ラジオにリスナーとして投稿して、喜劇を観に行って。


 そんな感じで小学校くらいから体の一部になっているお笑いが、いつしかやる側になって、それが今も続いてるってのは面白いですよね。やばい、この文章自体は全然面白くない。



 さて、中学1年から漫才の台本を書き始め、人前で披露してきたのえるさんですから、高校のときに始まった某漫才コンテストに興味を示さないはずがないわけで。


 大学生のときに初めて予選に参加し、今年は都合により参加できなかったものの、去年は5年ぶりに復活した大会にちゃんとエントリーしました。趣味ですけどね、ええ。そこで勝ち抜けるほどの才能はない。


 でね、予選って2分なんですよ。漫才で2分って。「いやあ、ホントにね、名前だけでも覚えて帰ってもらえれば……」なんてやってたら前口上ですぐ終わるわ。

 いや、実際120秒ってかなり短い。このエッセイ読むのよりは長いかもしれないけどさ。おい待て、もう少し書くぞ。


 そして、審査員もお客さんも「そのコンビがプロかアマチュアか」という情報は事前に紙で見ているわけで、のえるさん達なんかは「アマチュアね、ふんふん」くらいにしか思われてないわけです。


 別に名前の知られてる人が出ているわけじゃない。たまに「あ、この人『ネクストブレイク芸人特集』で見たな」くらいの人は見ますけど、およそ有名な芸人さんなんかは小さい新宿の会場の予選になんか出ないわけですよ。


 それでも「プロだ」ということが、審査員にもお客さんにも安心を与える。

 実際に舞台近くにいると分かるんですけど、プロの人が「はいどーも!」と入っていくだけで、そこは「笑っていい空気」になるんです。


 その人達は「売れているかは別として、プロとしてやっている人だ」というラベルが貼られる。それが、一発目のボケへの笑いに繋がり、一気にギアを上げる原動力になるわけですよ。その空気にさえなれば、2分だって十分結果を残せる。



 さて、翻ってのえるさん達ですよ。「ただのアマチュア」「趣味で来た人」のままのラベルでは笑いは取れない。何か、分かりやすいラベル=キャラを作って客席の空気を掴む必要がある。

 他のアマチュアの人でも、歌ネタがあり、踊りネタがあり、片方が一言も喋らないネタがあり、方言があり。つまり、「漫才の見せ方」そのものをラベルとしているということですね。


 そこで去年、つまり2015年、オリジナリティーも踏まえて考えたのが、「社会人」というラベル。

 のえるさんも相方も、どっちも会社員。相方は漫才をやりたがるけど、ついつい会社員のクセが出てしまう、というのが基本形。



「優勝したら1千万ですよ。もしそんな金持ちになったら何に使おうかね?」

「柏あたりで賃貸経営だな」

「地味すぎるよ! ホントに芸人志してるのかよ!」


「もっと普通のさ、『昔は良かった』みたいな漫才やろうよ」

「確かに。いやあ、昔は良かったよね。今は部長の席も課長の席も埋まりきってるから出世が途中で止まる――」

「そういうんじゃねぇよ! もっとこう、俺達が若いときの話だよ!」

「入社したときはさ、何もできなくても怒られなかったけど今は――」

「学生時代の話だよ! なんで毎回仕事の愚痴になるんだよ!」



「漫才をやりたい、芸人になりたい」という理想と「でも会社員のクセが出てしまう」という現実にギャップが出来て、そこに笑いが生まれる。 


 これだ、これで行こう! 他の芸人さんには出せない色じゃないか!



 こうして舞台に立ったのえるさん達ですが、結果は残念ながら1回戦敗退。

 俺らの貴重な休日を返せ。嘘、練習不足&研鑽不足ですね。もっと時間かければ、いいツッコミが浮かんだかもしれない。


 でも、アマチュアの僕らでも、お客さんにちゃんと笑ってもらえました。

 うへへ、やっぱり楽しいよ、お笑いってのは。ジャンル関係無しにさ。


 笑いは嘘をつかない。アマチュアの僕らがボケにツッコミ入れて、クスクスと笑いが起きれば「わざと笑ってる」なんて思わない。そんなことをしてもらう義理がないから。だから、ウケたのもウケなかったのも正直な反応だと思って、また出たいなあと素直に思います。


 ああいう笑いをずっとやっていたくて、プレーヤーだけではなく作家側にも回り、今はコメディー作家として、なんとか本の1冊くらい出せそうになっている、と。

 お、人生の方は結構良い感じにオチがついたんじゃない?

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