次の就職先を探す気分に、灯里はどうしてもなれなかった。なにをやりたいのか、いや、こんな自分になにができるのか想像もつかなかった。

 この春休み終わったら、自分はとうとう無職になるのだな、と灯里は思った。いろいろなことの疲れが、一気に出たように気怠くやる気がしない。


 今夜も、柊の腕の中で、灯里はしどけなく肢体を投げ出していた。

「灯里、なんだか今日はいつもより感じやすくない?」

 柊がうなじに舌を這わせながら、そう囁く。

 不思議だ、と灯里は思った。もう何も考えたくない、そう思っているだけなのに。それがかえって、快楽に素直に心と躰と委ねさせているのだとしたら、なんだが自分が滑稽だ。

「なにも考えたくないの」

 その言葉を、柊は別の意味で受け取った。

「わかった。なにも考えられないようにしてあげるよ」

 首筋から耳朶へ、耳朶から鎖骨へ舌を這わせながら、柊の手が灯里の一回り小さくなった乳房を揉みしだく。

 もともとあまり大きくないのに、胸まで痩せちゃったと、灯里は少し悲しく思う。

「あたしの胸、小さくなったでしょ?」

 そんな灯里に柊は、ふっと笑うと言った。

「大きさなんて、僕は気にしない。だって、灯里の躰はどんどん感度を増して、それが僕を受け入れてくれているようで嬉しいんだ」

 柊の想いがどこか苦しくて、灯里は自分から柊の唇を奪う。

「もっと、もっと。もっと激しく、あたしを無茶苦茶にして」

「灯里、どれだけ僕を惑わすの。キミはほんとに…」


 足りない、足りないの、もっと滅茶苦茶に壊してほしい。

 心の中で、いや躰のどこかで、そう叫び声がする。

 聞こえるでしょ?聞えないの、柊ちゃん?


「灯里、望み通りに。僕がキミを滅茶苦茶に壊してあげるよ」

 そう言うと、柊は黒い目隠しを枕元から取り上げた。

「さあ、これをしたら灯里は何も見えなくなる。嫌なものも、辛い現実も。何も考えずに、快楽に溺れておいで、僕にすべてを任せて」


 視界が奪われると、五感が目覚める。

 灯里の感覚は、無心に柊の指や舌の愛撫を追い求める。その繊細で大胆な動きは映像となって、灯里の脳に浮かび上がり、現実に眼にするよりずっと淫らに怪しく、快楽の海に突き落としていく。

「あぁぁぁ」

 胸の頂と秘められた感じやすい部分に触れているのは、愛しい人の指?ああ、次は舌が躰中を艶めかしく這って、ぞわぞわとした快感が背中を駆け上がってくる。

 両足は柊の肩に乗せられて、灯里はいま自分が酷い格好をしているのだと自覚する。そうして柊の躰が離れてしまう刹那が淋しくて、見えない愛しい人に両腕を伸ばした。

「灯里、待ってて」

 そう言うと柊は、灯里のナカへ指をそろりと入れる。

「いや、早く」

「しょうがないだね、灯里は」

 そう言うのに、柊の躰の温もりは数本の指からしか伝わってこない。それがもどかしくて、灯里は身を捩る。

「誘ってるの?凄くいやらしい」

 柊は相変わらず意図的な指の刺激だけで、灯里を翻弄し続ける。ゆっくりでも確実に、快感は蓄積されて、でもそのスローな進度がいっそうもどかしくてたまらない。

「お願い、柊ちゃん…」

「お願いって、なにを?」

「っ!」

 意地悪にそう返されて、灯里の躰がひと際鮮やかに染まるのを柊は楽しむ。

 柊は灯里に覆いかぶさると、自身の先端で灯里のソコを軽く擦った。

「欲しいなら、自分で入れてごらん?」

 少し躊躇する灯里も可愛らしい。ほくそ笑むような自分の顔も、灯里はいま見えていないのだと思うと、嗜虐的な嗜好が満たされていく。

 おずおずと手を伸ばした灯里の手首を掴むと、柊は言った。

「まだだよ。灯里、まず舐めてからにしようか」

 お預けを食らった子犬は、少し頬を膨らませてから、でも素直に身を起こす。見えないままに、探すように目的のものに触れることができて、すぅと息を吸った。

 その仕草の一つ一つが、たまらなく可愛らしい。

「そう、灯里。上手だ」

 柊の分身に舌を這わす灯里の髪に両手を少し乱暴に突っ込むと、柊は自らの腰も動かした。ちょっとだけ、苦しい思いをさせてやりたい。目隠しの下から涙が滲むまで、柊は灯里の口内を蹂躙しながら楽しむ。

 それから頬を伝う涙を指で救って、優しく言った。

「次はサイドから全体を、そう下も、全部舐めろ」

 素直に従う灯里が愛おしい。急激に胸に湧き上がる狂おしいほどの愛しさと快感に、柊は灯里の動きを止めさせた。

「灯里、もういいよ」

 灯里を促すようにそぅと横たえると、柊は後ろに添うように自分も寝た。後ろから灯里の両胸を掴んで、頂を転がす。自身の高まりを灯里の大腿や尻に擦りつけながら。

 灯里の手が、それを探すように伸ばされる。その手を取って握らせてやると、自分も手を重ねてゆっくりと動かした。

「灯里、ほら、こんなにしたのはキミだよ。責任を取ってもらうよ」

 灯里がこくりと頷くのを胸に感じて、柊は灯里の柔らかな股関節を思い切り開かせる。 

 そして分身を、待ち望んで泣いている中へ一気に突き立てた。

「っん、あっ」

 ぞくぞくするような喘ぎをあげて、灯里の躰がしなる。その腰を抱くようにして、柊はゆっくりと動き出した。それに合わせるように灯里が動き出すのは、わかっていた。少しの狂いもなく、ふたりのスピードはぴったりで、その心地よさにしばし身を委ねる。

 焦る必要はないんだ。こうしてじっくりと気持ちよさを楽しんでから、快感の海へと漕ぎ出せばいい。やがて灯里はひと際深い快楽の淵に沈むだろう。そうしたら…。


 何度でも、何度でも、決して飽くことなく。

 灯里、僕はキミを抱き続けるだろう。

 この幸せをもう手放したりしない。

 そんな日は、もう永久にこないんだ。

 ねえ、灯里、そうだろう?

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