第3話 四種類
私はパソコンの修理に来たんですけど…第一お話をするのは苦手で…まあ、インストールに時間がかかりますから、お時間ならありますけど…それにしても、調子悪くなるの多くないですか…えっ、電源落としてないんですか?駄目ですよ。そんな、明るいからって…パソコンを蛍光灯の代りに使うなんて。よくないですよ。
言っておきますけど、怖くなんかないですよ。ちなみに落ちもありませんから…。ああ、ビールはいいです。麦茶をください…車ですので。
うちの母方の祖母が言っていた話です。そっちの方のご先祖様って言うのが武士でして、お殿様に穀高を報告する仕事をしていたようで、お城に上がっていたんですね。それで、出勤途中で幽霊を見たらしいんですよ。それを供養したんです。竹やぶから、白い煙が上がっていたとかで、なんか、それが、お殿様にお手つきになって奥方に殺された女中の霊だとかで、鎮めるために祠を建てたんだそうです。
…すみません、お話ってこれで終わりなんですけど…。だから言ったじゃありませんか。怖くないって。昔話だから、実話かどうかもわかりませんし。
霊感ですか?ないですよ。そのご先祖様っていうのが何か見ていたにしても、霊感って遺伝するものかどうかわかりませんし。第一、怖いですよ、嫌ですね、私は。
皆さんはどうです、あるんですか?そういうの…はあ、無い。あったら怖いですよね。もし、あったら、こんな暇つぶしはできないでしょう。
霊感っていえば、こんな話を妹から聞いたことがありますよ。人間には四種類いるって。まず、見える、見えないで二種類なんですけど、それからまた二種類に分かれるんだそうです。見えるの方が、いい物と悪いものが見える人間と、悪いものしか見えない人間。それで、見えない人間の方が、いい物も悪いものもまったく見えない人間、それで、両方見えるんだけど、頭の中で置き換えされる人間っていうのがあって。
置き換えの意味ですか?そうですね…たとえば、血のついた包丁を持った、物騒な霊がいたとしますね。それを見た時に、そのまま見える人間と、そうは見えない人間がいるんです。後者の方は、草刈り鎌で農作業をしている人間に見えたり、何か、頭の中で、怖くないものに置き換えられたりするんですよ。気付いちゃうと憑いちゃいますけど、気付かなかったらセーフっていう…。
さっき言った先祖の話なんですけど、普通幽霊っていったら、こう手を前にして、ウラメシヤーって感じじゃないですか。でも、ご先祖様が見たのは、白く上がる煙なんですよね。それで、霊だと分かったっていうのも分からないんですけど、まあ、見えたんだけど、怖くないものに置き換えられたってことでしょうかね。
たき火じゃないかって?まあ、それでも良いんですけど…。祠ですか?話をしてくれた祖母も亡くなってますし、祠がどうなったのかは、分かりませんね…。
そう言えば、姉と妹が、婚期が遅れているのはその女中の呪いだって騒いでいたことがありました。なんで呪いなんだって聞いたら、上司の証拠隠滅を図ったからだって言うんです。祠を探しださなきゃって言ってた時期がありましたよ。普通、供養したって言ったら、いいイメージなんですけど、そう言われてみれば、そうだなって気も…。
婚期ですか?ああ、姉の方は結婚していますよ。妹の方はまだですけど。いやあ、まさか、呪いなんかじゃないですよ。結婚願望が薄いんだと思います。最近は頑張らないと駄目でしょう、就職と同じで。
落ちがない?だから落ちはありませんて。なければ作るっていうのも…それこそ呪いがかかりますよ。よく、この話を聞いたら、一週間以内にナントカって落ちがついたりしますけど、ああいうのは無理やりですね。それこそ失礼ですよ。失礼って、そりゃ、幽霊、仏様にですよ。呪わないものも呪うというものです。
ああ、インストールが終わったみたいですね。それじゃあ、私はこれで…。いやあ、もう帰らないと、野球が始まっちまう。
まあ、こういう遊びはほどほどにって言っても、今年は節電の夏ですし、猛暑の当たり年ですし、なさってる方は多いんでしょうね。
こんなものまで用意されて、本格的ですね…。そりゃあ、節電にはなりますけど、火事は起こされませんように。
それじゃあ、消しますよ。
フーウ。
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