じゃんけん、ぽん。
出席番号26番 矢田瞳
出席番号27番 吉田未玖
◆◆◆
「わーー、見て! 月きれーー!!」
「ほんとだ。お山の上ならもっときれいに見えるんだろうな。」
「お山? ああ、八坂神社?」
「そう。あそこ星もきれいに見えるんだよね。まぁ今日は月が明るくてそうでもないだろうけど。」
私と矢田瞳はカラオケから出てきたところだった。
普段わりと捕まらない矢田っちを連行して、3時間ほどみっちり楽しんで、外で背伸びしたらきれいな月に気がついた。
「ふーーん……。じゃあ行ってみる?」
「え、今から!? あたしはいいけど、吉田あの階段登る気ある?」
「うーーん。ダイエットだと思えば!」
「はぁ……。ま、じゃ行くか。こういうのはタイミングだ。」
私たちは、今来た道を戻り始める。
八坂神社は学校からの帰り道の途中にある。
学校から心臓破りの坂を下ってしばらく行くと鳥居があって、いつ見ても暗い森がぽっかりそこだけ口を開けている。
学校よりは低いところにあるんだけど……とにかく長い階段を登らないといけないので、結局神社のほうが高い場所にあるんじゃないかと思う。詳しくは知らないけど。
「矢田っちあの神社よく行くんでしょ?」
「うん、悠理に会いにね。」
「仲いいよねーー。意外さしかないけど。」
「なんだろね、長いから悠理とは。」
矢田っちがわりと捕まらない理由はずばりそれだ。どう考えても私たちと同じ人種なのに、絶対私たちと違う人種のゆーりちゃんとよく遊んでいる。
遊んでいる? 何してるのかは聞いたことないけど。そう言えば神社で何してるんだろう。鬼ごっことか?
「矢田っちって、ゆーりちゃんといっつも何してるの?」
「何って?」
「え、どんな遊びしてるのかなって。」
「いやーー? 話してるだけだよ。」
「わざわざあの階段登って!? 何かすっごい楽しい遊びでもあるんだと思った!」
「ああ……。そういう意味で言うなら、
悠理は相当変な子だから話してるだけでも楽しいよ。」
「そういうもん?」
「そういうもん。」
街を横断する橋を渡っていく。だんだん山に近づいていて、音や光が変わっていく感じ。
この街は、わりといいとこどりしてるなって思う。
駅前に行けば遊ぶ場所も買い物するところもあるし、電車に乗ればすぐ都内に出れる。
でも少し歩くと、自然がたくさん。別に特別好きなわけじゃないけど、やっぱりこういうのって本能的にいいなーって思う。
そう、本能的に。矢田っちの言葉で山の上の月が急に見たくなったりするような感覚。
「学校までの道、きついよねー。」
「だね。なんでこの学校選んだんだろうって夏本気で思う。」
「でも友達と話してると結構あっという間じゃない?」
「わかる。逆に一人だと本気で苦行だから、誰か捕まえないと登校する気にならない。」
「いつも誰と来てるのー?」
「あー、日によってだけど結構悠理と?」
「え、ゆーりちゃんってお家神社じゃないの!?」
「うーん、簡単な住居はあるっぽいんだけど、実家ってか、家は普通に街中だよ。」
「うそーー知らなかった。学校近くていいなって思ってたのに。」
気づくと結構坂道を登っていた。街灯はあるけど真っ暗。右も左も森なんだから当然なんだろうけど。
さっきまで駅前にいたのが嘘みたいだ。
「……大丈夫? 若干後悔とかし始めてない?」
「いや! わりと元気! なんか私テンション変かも。」
「たしかに。なんでいきなり山登ろうとか思ったわけ?」
「えーー、だって矢田っちが月きれいとかいうから。」
「ほんとそれだけ? まあやっぱ気まぐれってことか。」
神社はもうすぐだ。どんどん辺りは暗くなっていく。幽霊とか別に信じてないけど、これ一人だったら無理かも。
横を見て矢田っちの顔を確認する。ちょっと安心する。
「さてと。とーちゃく。」
「今日はゆーりちゃん帰ったのかな?」
「さすがに帰ってるよ。神社って日が暮れたらお仕事終わりらしいし。」
「あ、そうなんだ。ホワイトだね。」
そういえば最近パパの顔見てないな。ブラック社員の鏡みたいな人。
「登ります?」
「登りますか。」
森が大きな口を空けていた。こわ。
でも矢田っちがいるから大丈夫だった。
矢田っちはなれた感じで、鳥居の前でお辞儀している。きっと礼儀的なやつ? 私も真似してから、鳥居をくぐる。
「後悔しない?」
「いえーすダイエット!」
私たちは勢いよく階段を昇り始めた。なんとなく空を見上げると、さっきよりずっと星が綺麗に見える。
両サイドの森に阻まれて、少し小さくなった空だけど。
「なんか私たち、青春してない?」
「なによいきなり。うける。」
「なんかいいなー。今日のこの感じ。」
登りきったら、きっときれいな月が見えて。スマフォだとうまく撮れなくて。しかたない、目に焼き付けろー! とか言って、しばらく見たらやることもなくなって。あっさりもう一度この階段を降ることになるんだろうな。
それでも、とても楽しみだった。
どうしようもなくどうてもいいことをしている感じが、私はとても好きだった。
「なんかね、楽しみはとっておくもんなんだなってのがちょっとわかった。」
「この階段? 急に悟らないでよ。」
矢田っちが私にツッコんで笑っている。いいな、いいな。
一週間後には忘れてるんだろうな、この時間のこと。そんなことばっかり。覚えていられるようなことは、全然起きない。今日カラオケで歌った曲だって、先週とおんなじだった気がする。
私たちには時間がないのに、もっと意味があることきっとあるのに。
それでも。
「ね、ここからグリコしない?」
「おっけ。じゃあ負けたほうが降りよっか。」
「えーー永遠につかないって矢田っちおにちく!」
じゃんけん、ぽん。
永遠につかないのも、ちょっとありなのかもな。
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