プロムの後に ⑤


「私は、無茶なんてしないわ!」


ケルシーは怒ったように叫んだ。


「…君が、それに気づいてないだけだよ」


ジェイソンはどこか寂しそうな表情で呟いた。


「…僕は何度も見た」


「君が、ピアノで顔色が青白くなってフラフラするまで無茶してたのを」


ジェイソンは寂しそうな表情から、打って変わるように悲しげな表情になった。


ケルシーはジェイソンの表情を見て、口を噤んでしまった。


「…僕は、とても心配したよ」


「君が…いつか倒れるんじゃないか、って」


不意に、ジェイソンはケルシーの手を引いて自分の方に引き寄せ、優しく抱き締めた。


ケルシーは驚いて目を見開きつつ、ジェイソンの温もりに目を細めた。


「…もう、君には無茶はしないで欲しいな」


ジェイソンは優しい声で呟き、ケルシーの頭を優しく撫でた。


ケルシーはジェイソンの服を握り締め、大粒の涙を零して身体を震わせた。


「っ、ごめ、なさ、じぇいそ、ごめ、なさ、っい、っひ、っく」


ケルシーはわんわんと泣きじゃくりながら、何度も何度も謝罪の言葉を口にした。


「…ケルシー、謝らないで良いよ」


ジェイソンはケルシーを少し引き離すと、笑顔でしっかりと目を見つめた。


そして、指で優しくケルシーの涙を拭った。


「それと…ケルシーは泣いてる顔よりも、笑った顔の方が魅力的で素敵だよ」


ジェイソンは笑ってケルシーの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「…ありがと、ジェイソン」


「私の事、凄く心配してくれて」


ケルシーはふわりと笑った。

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