第25話 女騎士は残さない

 トットへ。


 騎士昇任おめでとう。

 この手紙を金庫の中から見つけたということは、私はやはり君に真実を告げることができなかったのだろう。


 君に真実を告げずに居なくなったこと、本当にすまなく思っている。


 だが、勘違いをしないで欲しい。

 私は私の意志で、こうなることを選んだのだ。


 誰に言われたのでもない。

 強要されたものでもない。

 私の騎士としての本望に従っただけなのだ。


 今の君ならば、私のこの気持ちをきっと理解してくれると信じている。


 君と過ごした何年かは、本当に充実したものだった。

 はじめて会った日の事を覚えているだろうか。

 正直、恥ずかしい話なんだが、私はよくそのときのことを覚えていないんだ。


 ただ、どうしようもなく、君の事を放っておくことができなくて、気がついたら強引に私の従士なんかにしてしまっていた。

 恋というものを私はしたことがない。

 だから分からないのだが、たぶん、違う感情だと思う。


 君に感じた想いはもっと純粋なものだ。


 すまない、学がなくて上手く言葉にできない。

 こんなことならもう少し、語学を勉強しておくべきだった。

 最後の手紙だと言うのにこんなしまりのないことで申し訳ない。


 君との思い出を胸に、私はミミア姫と共に隣の国で頑張っていくとするよ。

 

 隣国とは長年に渡り国境で衝突を繰り返すという不幸な関係が続いている。

 ミミア姫と私が、両国の関係に良い影響を与えられると今は信じている。


 最後に。


 君は君が思っているほど強くはない。

 はやく、そんな君を支えてくれる、よき人を見つけるべきだ、と、老婆心ながら思うこのごろだ。


 決して私のような、気苦労の絶えない妻を娶らぬように。

 もっとも、私をよく知る君ならば、そんなヘマをすることはないだろう。

 

 最後といったが、言葉が尽きない。


 健康に気をつけるように。


 騎士としての誇りを忘れないように。


 君を気にかけてくれる先輩の女騎士たちを大切にするように。


 決して上司には逆らわず、時勢を見極めるように。


 君にかけたい言葉は山ほどあるんだ。

 けれども、もうそれはかなわない。

 残念だ。


 トット。


 本当は私も不安なのだ。

 誰も知る人の居ない隣国で、上手くやれるかなど分からない。君がよく知っているように、私は本当にどうしようもなくズボラな女で、そもそも騎士なんて柄があっている人間ではないのだ。


 けれども、やらなくてはいけない。

 私個人の考えはともかく、その前に、私は騎士なのだ。

 

 君もその私と同じ騎士になった。


 君ならばもう、私が居なくても、きっと一人で生きていけると、信じている。


 だから、どうか、どうか、お元気で。


 親愛なるトットへ



 追伸:


 この金庫はお前の好きに使ってくれて構わない。

 名義の方は私の方から言って変えてもらっておいた。

 この金庫は、私が君に残せた唯一の財産だ。


 もっとも、中に残せたのは、この手紙一枚だが。

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