第13話 女騎士は笑わない
「びぇええぇ!! びぇぇええぇぇ!!」
子供の泣き声が青空に響く。
ここは国境近くの街にある孤児院。
かつて、隣国との戦争で多くの戦災孤児が出たこの地。
それより十年以上の月日が経った現在でも、この地域にはまともな生活基盤となる職も少なく、今尚多くの孤児が産まれている有様である。
そんな孤児院に対して協力するのも、アレインたち騎士団の仕事の一つ。
老朽化した孤児院の修復という名目で街にやってきたアレインだったが、何故だか、彼女は腕の中に子供を抱いていた。
「うむ。いいか、娘よ、もう一度やるから、よく見ておくんだぞ」
そういって野良着の服の袖を、顔の前へと持って来たアレイン。
半分ほど顔を隠すと、彼女は少しぎこちない口調で唱えた。
「いないいない、いないいない」
顔を隠していた腕をどけるアレイン。
変顔――。
と、思いきや。
彼女はなぜかその場に膝を折ると、いつもの調子で顔を歪めた。
「くっ、殺せ!!」
「赤ちゃん相手になにやってるんですかアレインさま!!」
すかさず孤児院の屋根の上から飛んできたツッコミ。
屋根から顔を出したのは、高所恐怖症でとてもじゃないが屋根など上れないアレインに代わり、雨漏りを修理していた従士トットだ。
彼は眼下のアレインにいつものジト目を浴びせていた。
一方、アレインはいつもの調子だ。
「いやいや、私がこの台詞を言うとな、何故だか知らんが妙な笑いが起こると、前に小耳に挟んでな」
「メタなのか自虐なのかよく分からない行為はやめてください!!」
「しかしこの娘が笑わないのだから仕方ないだろう」
「そのために女騎士のプライドまで捨てなくっても」
というか普通に変顔すればいいじゃないか。
トットは口には出さなかったがそう思った。
しかしあらためて、彼は思い出した。
彼の仕える女騎士アレインが
アレインにとって、いないいないで変顔するくらいならば、それは、死んだ方がマシな事態なのだろう。
まぁ、笑われてること自覚してやってる時点で、大差ない気もするが。
「うむぅ、しかし、まったく泣きやまんな、この娘」
「オムツでも湿ってるんじゃないですか。取り替えてあげてくださいよ」
「やれやれ仕方ないな。おーい、
それでいて、意外。
子供のオムツを替えるのは、彼女にとって屈辱でもなんでもないらしい。
主人のおおらかさというかおおざっぱさに、妙な感心を覚えたトットは、再び屋根の中へと姿を消すと、とんてんかんと日曜大工を再開した。
「おーよちよち、だめでちゅよー、このくらいのことで泣いてたら、立派な女騎士にはなれないでちゅよ」
立派な女騎士は、お前のように名台詞を安売りしたりしない。
この女騎士、くっころのバーゲンセールしておいて今さらであった。
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