第2話 女騎士は数えない
女騎士寮。
そこは王国騎士団に所属する独身女騎士達が共同で住む屋敷。
いまここの食堂に、寮に住まう女騎士達が集まっていた。
中心に居るのは寮の最年長者――。
絶対に謝らない女騎士アレインだ。
後輩たちの冷たい視線から逃れるように俯いて膝を折ると、彼女は言った。
「くっ、殺せ!!」
その言葉に、後輩女騎士たちが一斉に顔色を変える。
――コミカルに。
「いやいやいや!! なに死んで逃げようとか考えてるんですか!! 自分が何したかわかってるんですか!!」
「親衛隊に栄転したミカーナからの差し入れのアイスクリーム、一人一個って約束だったのに、なに勝手に何個も食べてるんですか!!」
「アレインさん、昨日も、その一昨日もアイスクリーム食べてましたよね!! 見てるって娘が何人もいるんですよ!!」
口汚く先輩を罵る後輩たち。
アレインは苦渋に顔を歪める。
この言われようである。
最年長者なのに、この女騎士には威厳もなにもありはしなかった。
まぁ、アイスを盗み食いするような先輩には、威厳も何も抱かないだろう。
しかし、謝らない。
誇り高き女騎士アレインは謝らない。
「確かに、私は昨日も一昨日もアイスクリームを食べた。しかし、それは、一人一個という約束を私が知らなかったからだ。もし、そのことを知っていたら、私は」
「いやどう見ても人数分しかなかっただろ。数も数えられないのか、アンタ」
キレ気味に言うリーダー格の後輩女騎士。
謝らなかったアレインだが、彼女は言葉を詰まらせると、つい、と、逃げるように視線を横に逸らした。
「そのへんで許してもらえないですかね」
と、そんな時だ。
剣呑とした女騎士達の間に、アレインの従士トットがやって来た。
手にぶらさげているのは木編みの箱。
白い冷気が蓋の隙間から漏れ出ていた。
ご主人様と違って、何かと気の利くその従士の登場に、わぁと場が華やぐ。
「すみません、アレインさまがご迷惑を。これ、ミカーナさまから聞いて買ってきた、王都三軒茶屋の特製アイスクリームです」
きゃぁ。
黄色い声が女子寮の食堂に上がる。
それまでの険悪な雰囲気などどこへやら。
女騎士たちの盛り上がりに、少し、従士トットは気圧された。
「やだもう、ほんと気が利くんだから、トットったら」
「ご主人様とは大違いね」
「これで年上だったらなぁ。迷わず結婚しているのに」
女騎士糾弾の空気がすっかりと一転した。
眉を吊り上げていたリーダー格の女も、従士の献身を目にしては、ため息をついて肩を撫で下ろすしかなかった。
「まったく、どっかの誰かと違って気が利く従士ね」
「まぁ、もう慣れっこですので」
「嫁に困ったら相談しなさいね。いい娘紹介してあげるから。間違っても、こんな数も数えられないポンコツ騎士に、変な操を立てなくていいから」
まるでアレインが一生結婚できないような言い草であった。
そんな辛辣な後輩の言い草などどこ吹く風。
なぜかアレインは、気の利く従士が持ってきた、木編みの箱の中を覗いている。
「トット。せっかく買ってきてくれたところ悪いが、これでは数が足りないぞ。一人食べられないことになる」
「……アレインさま。それだけ食べておいて、まだ食べるきなんですか?」
絶対に謝らない女騎士は、数も数えられなければ、空気も読めなかった。
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