第4話 粛清の炎


ACT4 『粛清の炎』



ジジ・・

吸いかけのタバコが灰になり、机の上に落ちた。

男が眉間にシワをよせ、肩肘をついて額に手をあてた。

手にした報告書に目を通し、険しい表情のまま、またタバコに火を

つけた。


「・・・・」

「何かおっしゃって下さい、警部」

「・・・何を言えというのかね?」

「だから・・・この件についてのご意見です」


警部と呼ばれる男は、一気にタバコを吸い終わると、イスから立ち

上がり窓の外を向いた。

外の景色から見える山々は、すでに冬色に衣替えを終えていた。

ビュウビュウと風に混じって降る雪が、外の寒波を物語る。

「今年は寒くなるのが早いな・・・去年もこうだったかな?」

警部は話をはぐらかすように言った。

「・・存じません。私がここに来たのは半年前ですので・・」

その部下と思われる男が、弾みのない声で答えた。

「とりあえず会ってみよう、その奇跡的に助かったという女に」

窓の外の風は、いっそう強く吹き荒れていた。


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報告書 20XX年 11月30日


場所:東京都XX区XX町 駅付近タクシー乗り場にて


状況:死者18名、負傷者9名


詳細:

現場一帯の広範囲が炎に包まれ、タクシーの運転手及び乗り場に並

んでいた人間が、爆風のようなもので激しい火傷を負った。

その爆風の跡は、丸い円のような形で残り、その中心が爆発したと

思われる。尚、その中心にいた人物は、一切の外傷がなく奇跡的に

無事であった。車のガソリンが何かの拍子で発火し、爆発したもの

と予想される。


備考:その中心にいた人物 香取瀞裸 (かとり せいら)


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「カツ丼食うか?」

そんなドラマのような掛け合いなど皆無だった。

ここは取り調べ室かなにか。まぁ、十中八九、取調べ室だ。

私は椅子に座らされ、二人の刑事に詰め寄られていた。

「おまえが何かしたんだろ!さぁ白状しろ!」

そんな言葉を、耳にタコができるほど聞かされ、私はうんざりして

いた。

「だからオマエがやったんだろ!正直に白状しろ!」

ため息を吐き尽くしてしまった私は、目線を上に上げ、刑事の顔を

通過して天井を仰いだ。

バン!

そんな態度に業を煮やした刑事は、目の前の机が大きく揺れるほど

叩いた。

「・・・・・・・・・・・」

黙秘権。この現状で、この権利が適用されるのか知らないが、私は

何も喋る気はなかった。

私は肩で溜息をもうひとつつくと、目線を正面から外した。

その行為に、しびれをきらせたもうひとりの刑事が、私の正面に顔

を近づけ睨んできた。

「あのなぁ・・しらばっくれても無駄だぞ?いいか、香取、オマエ

があの現場で奇跡的にひとりだけ生きていたという事が、言い逃れ

できない証拠なんだ!」

バァン!

またしてもこの刑事も机を叩いた。何度もうるさいヤツらだと私は

思った。野暮な男は好きではない。

「あの事件で死んでいった人間を見て、オマエは何も思わないの

か?え?どうなんだ!」

またも刑事が机を叩こうとしたので、私は右手を上げて注意をこち

らに向けさせた。

「お!ふふ、やっと喋る気になったんだな。よし、話してみろ!」

刑事は、さも嬉しそうな顔で私に見入った。自分の脅しが効果あっ

たと勘違いして喜んでいるらしい。

そんな子供みたいな表情を見て、私はイジワルしてみたい心境にな

った。

「私が何故、こんなところで尋問を受けているのか、あなたにわか

るかしら?」

「ど、どういう意味だ?」

私は口元を吊り上げてニヤリと笑った。

「事件の真相を、証明できない無能な警察のせいなのよ。だから私

はこんなところで、いつまでも脅迫めいた尋問を受けていなければ

ならないのよ」

ババァン!

今度は両手を机に叩きつけ、さらに大きな音を立てた。この刑事

は、ドラマかなんかの見過ぎではないかと私は思った。

「か、香取ぃ~・・・それは我々有能なる警察全てを、敵にまわし

た言葉だと受け取っていいんだな~!よしッ!いい度胸だッ!」

刑事の顔は、真っ赤になって血管がプツプツと浮き出ていた。よほ

ど私の言葉に激怒したに違いない。

自分の事を有能だという人間ほど無能な人間はいない。

「あら、でも私の言ったことは間違ってないわよ。あの爆発のあっ

た時、私の所持していたものは皆無。身につけていた物はボロボロ

の衣服だけ。それにタクシー待ちの人達と口論になり暴行を受け、

爆発物を発火させる間などなかったのは、まわりの証言で明らかで

すわ。さて、どんな方法で私が爆発させたか教えて欲しいわね」

「ぐむむ・・!」

言い返す事のできない刑事の顔は、湯気でも出そうなほど真っ赤に

煮え繰り返っていた。

「すなわち、私が爆発物を使って、あの場で爆発させるなど不可能

という事になりますわ」

「だ、だが!何故オマエが、あの広範囲の爆発の中で唯一生き残っ

たんだ?!」

「あ~ら、それが何故かを調べるのが警察の仕事じゃないかしら?

万能である警察のわからない事が、私にわかる訳ありませんから」

私は、皮肉に嫌味をたっぷりミックスさせて言ってやった。

「ぐむむむむ~!いいかげんにしろ!香取ッ!やったのはオマエな

んだ!オマエには動機がある!」

「・・・動機?私に人を殺す動機があったとでも言うのかしら?」

「そうだ!オマエはもとナンバーワンのホステスだった!だが、何

者かに監禁され屈辱を味わい、全身に酷い火傷を負わされた!そし

て醜い顔となったオマエは、世の幸せな人々を恨み、一般市民を巻

き添えにして爆破心中をしたんだ!絶対そうに決まっている!」

刑事の口調は益々ヒートアップし、私の両肩を強く掴み、ガクガク

と揺らした。これではまるで、私自身に、個人的な恨みでも持って

いるかのような剣幕であった。

そして口元からは、つばが泡のようになって垂れていた。

汚い。そして醜い男。下衆以外の何者でもない。

それを見かねたもうひとりの刑事が、なだめようと必死で抑える。

「ちょ、ちょっと、落ち着いてくださいよ!」

やっとのことで、私の肩から手が離れた。

「はぁ・・・結局男って、自分の思いどうりにいかないと、こうや

って暴力でなんとかしようとするものね。あなたみたいなマナーの

悪い客が、店に来なくて良かったわ」


その時、私はハッとして思い出した。

以前、自分がホステスをしていた時の、豪華絢爛な毎日。

そして男どもの熱い視線と賞賛と賛美。

それが今ではどう?

監禁され、預金も取られ、爆破殺人の犯人として疑いをかけられ、

むさ苦しい刑事に尋問を受けている。

納得がいかない・・いや、そんな言葉では言い表せられないほどの

不快な扱いに、私の感情が弾けた。


「だいたい、私を一年も監禁した犯人も見つけられないような無能

な警察が、何で私を爆破の犯人にしたてようとしているワケ?!そ

れって、監禁犯を捕まえられないから、いっそのこと被害者の狂言

にして丸く治めてしまおうという魂胆がミエミエだわ!」

「香取!キサマは警察を侮辱するのかぁッ!」

「侮辱ですって?冗談じゃないわ!人を侮辱するという行為は、三

流の人間同士のする行為よ!私はこんな姿になっても、そこまで落

ちぶれていないわ!」

「香取ぃ~・・キサマぁ~・・!」

刑事が拳を握り締め、両肩をブルブルと震わせていた。よほど痛い

所を突かれ激怒していると見える。

「オレは・・オレはなぁ・・!!」

そう言いかけた時、取調べ室のドアが開き、もうひとりの刑事が入

ってきた。

「香取瀞裸・・・釈放だ」

「しっ、しかし、この女は・・!」

「証拠が全くないのに、これ以上尋問は出来ないのだよ・・・」

その言葉は、どこか悔しげに聞こえた。

私はスッと立ち上がると、取調べ室の出口へとツカツカと歩んだ。

そして背を向けたままひと言。

「断罪する前に、罪をなくさせるのが警察の仕事だと覚えておくこ

とね」

そう言い残して、私はこの不快な空間を出た。


天下の警察に、ここまで屈辱的な言葉を叩きつけるとは、香取瀞

裸、おそるべし女。それにしても、今回の爆破事件の一件で、セイ

ラの魂は高揚とし始めていた。

正体不明の犯人に監禁され、絶望のドン底に落とされたセイラの心

境に、どんな変化があったのだだろうか?それはどこか、以前の誇

り高い性格にもどったようにも見えた。

今回の事件が、セイラの何かを変えていったのかもしれない。



それから数時間後の、ここはとある居酒屋。(安いチェーン店)

取調べを終えた刑事とその部下が、焼き鳥をかじりながら安酒をす

すっていた。

「先輩、残念ですが香取瀞裸、今のところは証拠がありませんね」

「ああ、そうだな・・・」

「正直、悔しいですよ・・・だってあの状況で生き残ったって事

は、爆弾を爆発させて、自分だけ何かで防いだに決まってますよ」

「・・・でも証拠がなかった・・」

「それはわかってます!・・でも、でもあの女は、人が死んでも微

塵も詫びないふてぶてしさがあるんです!絶対に奴が犯人です!」

「ふてぶてしいか・・そうかもしれんな・・」

「ちょっとどうしたんですか?取調べの時は、あんなに先輩は熱く

なっていたのに・・・今は、まるでしぼんだ風船みたいですよ?」

「ふふ、しぼんだ風船か・・そうじゃない。オレは今、満足してい

るんだよ」

「もぉ~言ってる意味がわからないですよ!先輩はあの女を捕まえ

たくないんですか?それとも監禁されてあんなヒドイ顔になったか

らって同情してるんですか?それなら人を殺しても文句ないんです

か?え?どうなんですか!」

後輩の刑事は、酒を飲みすぎて熱く語りすぎていた。

「オレだってこれでいいとは思っちゃいないさ・・・」

セイラを取り調べていた刑事は、俯いたまま肩を震わせていた。

「あ・・す、すいません。あれほど熱心に取り調べした先輩なの

に、ちょっと言いすぎました。お気持ちはわかります・・・」

「・・・いや、そうじゃないんだ・・・」

「え?」

すると刑事は、涙と鼻水でグシャグシャにまみれて泣いていた。

「せ、先輩!ど、どうしたんですか!?」

「やっぱりあいつはセイラだった・・あの誇り高いセイラだった・・・」

「?」

部下は、何のことなのかサッパリわからないといった表情だった。

「あいつはさ、特別なんだよ・・ナンバーワンなんだよ・・だから

いつまでも誇り高いセイラでいて欲しかったんだよ・・・」

その言葉に、部下は目を丸くして驚いた。

「・・・ま、まさか先輩・・・その店に行ったことが・・・」

「ああ、目玉がブッ飛びそうな値段の店で、何度かセイラを指名し

たよ。しかし一度で、給料全部吹っ飛んでしまったがな。そんな貧

乏な客を、向こうが覚えているはずもない・・・」

「そういえば、お金にしっかりしている先輩が、以前、数回ほど金

を貸してくれって言ってきましたね」

「そうだ、その時だ。でも金が続かずに、結局二度と行けなくなっ

てしまったがな。その借金が、今では雪だるま式に利息を生み、俺

の借金地獄生活が始まってしまったんだ・・」

「!!・・・そ、それは初耳です・・・まさか先輩がサラ金で借り

ていたなんて・・・」

「フフ、でもな。オレは借金のことなんか何とも思っちゃいない

ぜ。あの世界にいたセイラは、間違いなくオレの女神だった・・・

オレは幸せ者だよ、だって本当の女神を見つける事が出来たんだか

らな・・」

遠くを見つめるその視線は、キラキラと輝いていた。

「よくわかりません・・自分はそういった場所に行ったことがない

ので・・」

「はは、そうか。だから落ちぶれてしまっても、セイラはオレの手

で引導を渡してやりたかったんだ」

「・・・そうだったんですか・・・・」

部下はそれ以上、口を閉ざしてしまった。


居酒屋の店内は大いに賑わっていた。

学生達が、男女の飲み会で嬉しそうに大声を出して騒いでいた。

社会人達は、肩肘をつきながら、会社の不平不満を漏らしていた。

酒の席はまさに二極化の空間である。

そんな空間で、この刑事は、まんじりとしない顔つきでタバコに火

をつけ、天井に向かってふぅっと吐いた。その煙は勢いがなく、ど

こか覇気のない気持ちを表しているようだった。


「あのな、オレ思うんだが・・・」

しばらく沈黙が続いていたが、先輩の刑事が口を開いた。

「な、なんです?」

「オレは今まで、社会という決められたルールの中で、そこからは

み出さずに生活することが、善良なる市民だと思っていた」

「まぁ、それはそうなんじゃないですか?」

「だがな、それは、はみだすことの出来ない人間の言い訳で、小さ

な枠でしか生きられない人間の作り出したエゴなんじゃないかと思

うんだよ」

「・・・おっしゃる意味がわかりませんが・・・」

刑事は日本酒をぐいっと飲み干して言った。

「あのセイラは・・そんな小さな枠の中で生きる人間じゃない・・

もっと大きな枠すらも飛び越えてしまうほどの、器を持った人間じ

ゃないかとオレは思うんだ」

「・・・じゃあ先輩は、そんな大きな人間だったら、いくら人を殺

してもかまわないって言うんですか?」

「俺は何もそこまで言っていない」

「いや、言っています。あなたは、完全に狂っています。あの女に

洗脳されているんです!」

「おい、どうしたんだ?今日はやけにからむな。飲みすぎだぞ?」

「ボクはあなたを尊敬していた・・それなのに、それなのにあなた

の頭の中にはあの女の影が付きまとっている・・・それを追い出し

てやりますよ!」

突然、部下は先輩に襲い掛かり、首を絞めてきた。

ガチャン!

料理の皿や、ビールの瓶がカウンターから落ちて割れた。

「うぐ・・!何をする!・・・や、やめろ!」

しかし、後輩はさらに強い力で首を絞めてきたのだった。

(いきなりどうしたと言うんだ、こいつは・・・それになんて力な

んだ・・・くそ、外れない・・・)

先輩の刑事は、まわりの人に助けを求めようと、辺りを見回した。

すると。

明らかに、周りの様子がおかしいことに気付いた。

コンパをしている学生の男が、女を押さえつけ、卑猥な行為をしよ

うとしている。

「うえへへ・・・勉強なんかやってられるか!遊ばなきゃ損なんだ

よ!ヤらなきゃ損なんだよ!ヤらせろ!ヤらせるんだぁぁッ!」

下になっていた女は、それを嫌がるでもなく、諦めたように無抵抗

であった。そればかりか、自ら男に覆いかぶさり、性器を咥えだす

女もいる始末だった。

一方、肩肘をつき、愚痴をこぼしていた中年のサラリーマンは、突

如、大声で叫びだした。

「うわぁー!もうこんな安月給でやってられるかぁ!仕事に追わ

れ、ローンに追われ、家庭では居場所がなくて、俺は一体どうした

らいいんだぁ!こうなったら潰す!全部ブッ潰してやるぅ!」

そう叫ぶと、イスを振り上げてガラスを割ったり、テーブルをひっ

くり返していた。

居酒屋の厨房の料理人は、食材を冷凍庫から撒き散らして叫んだ。

「こんな冷凍もんや中国産を、偽って日本産なんてウソつくのが俺

はたまらなくイヤなんだ!それに牛肉にしたって、間違いなくプリ

オンだらけなんだ!俺は死んでもそんなモン喰わねぇぞぉ!」


(ど、どうしちまったんだ・・・一体?!)

先輩の刑事は、店内の異常な騒ぎに恐怖を覚えた。

ボウッ!

突如、ひとりの学生の男の背中から、赤いモヤが立ち上った。

(なんだ、あれは・・?!)

それは火だった。そしてメラメラと燃え盛り炎となった。

今度は、サラリーマンのお腹から火が出た。次は料理人の右肩か

ら。そして店内にいる人間に、次から次へとその不思議な現象が起

こっていった。

「か・・火事?・・・いや、違うッ!」

それはどこからか自然に発火しているようだった。そして、まるで

強風にあおられているように、その炎の勢いは激しかった。だが、

よく見ると、その炎には個人差があるようで、大きい炎と小さな炎

があった。

これはおかしい・・・

燃えているのは建物ではなく、人間だけ・・・そしてその炎には個

人差がある・・・

刑事は、今までにこんな不思議な燃え方を見た事がなかった。

「うおわぁ!」

馬乗りでになり、首を絞めている後輩の体からも、炎が上がった。

当然、その炎は自分の体にも燃え移るものだと思っていた。だがし

かし、その炎は一切自分に燃え移ることなく、後輩の体をブスブス

と焦がしていったのであった。

「う・・ひいぃ!」

先輩の刑事は、火傷で苦しむ後輩の腹を蹴り飛ばして起き上がる。

「ごほっ、ごほっ・・・・だ、大丈夫か?!」

それでも後輩を心配する刑事。だが、もう時すでに遅し。真っ黒く

焼け焦げた体は、死体になっていた。

辺りの人間も、ほとんどがブスブスと黒く焼け焦げて倒れていた。

おそらく、いや間違いなく死んでいるのだろう。

「一体これは、どういうことなんだ?何故、いきなり炎が上がった

んだ?!」

居酒屋の店内には、焼け焦げた死体が数十体。そして先輩の刑事の

ように、無事な人間も数人いた。


ウーッ!ウーッ!


パトカーのサイレンが鳴り響き、刑事はそこで始めて我に返った。

そして、居酒屋の入り口に、見覚えのある人間を見た。

サングラスと帽子と長い髪で顔を隠してはいるが、火傷の跡が伺え

た。それは間違いなく香取セイラのようだった。


「せっ、セイラ?!やはりおまえが!」

そう叫ぶと、その人物はサッと姿を消してしまった。

「ま、まてッ!」

その人物を追いかけようとする刑事の前に、数人の警察官が突入し

てきた。

「どけっ!俺はあの女に用があるんだ!」

しかし、警察によって体を取り押さえられてしまった。

「この場にいたあなたは重要参考人です、どうかご協力下さい」

冷静な口調で淡々と話す警官は、与えられた業務を、ただ遂行して

いただけだった。

「はなせッー俺は貴様らなんかに捕まる理由なんてないんだぞ!」

「おいっ!こいつを取り押さえろ!」

その場から離れようと必死に暴れる刑事に、警察は疑いを持ったの

も仕方なかった。

「俺は!セイラを捕まえなければいけないんだ!やっぱりあいつが

犯人だったんだぁ!」

更に抵抗する刑事に、四人がかりの警察に取り押さえられてしまっ

た。皮肉にも、刑事の立場は逆転しまっていたのだった。

「くそ!離せ・・!セイラは・・セイラは俺が捕まえるんだッ!」

刑事の叫びは、居酒屋で虚しく木霊したのだった。



そこからだいぶ離れた高架橋に、先ほど居酒屋にいた女が立ってい

た。やはり、この女はセイラなのか?そして、居酒屋で火事騒動を

起こした犯人なのだろうか?

しかし、複数の人間を炎に包んだ方法とは、一体どんな手口なのだろうか?

高架橋の下を走る、自動車の群れを見下ろしながら、女は呟く。

「人の心の妬みを増長させれば、その相手を炎に包むことが出来

る・・・うふふ」

女の残した謎の言葉。やはり謎の炎は、この女が起こしたのか?


女は高架橋の下をしばらく見詰め。そして、ニヤリと軽く微笑し、

その場を去った。

ダガァン!ボオゥ!

そこから数十メートル離れた交差点で、車が衝突し爆発した。

まさかこれも、その女の仕業だというのだろうか?


顔の火傷を隠す仕草は、自分の心をも隠しているようであった。

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