第7話 はじめての理解者
ACT-7 『はじめての理解者』
「きゃああッ!」
私の叫び声で、市役所の人が慌てて外へ飛び出してきた。
「さっきのおふたりさん!どうしたんだね!?」
「じゅ、ジュンくんが刺されたの!」
「落ち着きなさい!誰にだね?」
「それは、祐・・・い、いえ、誰か知らない人が・・・」
「とにかく救急車だ!おーい!救急車を呼んでくれ!」
あたり一面に飛び散った鮮血。
それは、この田舎町の市役所の前で起きた惨事だった。
幸いにして病院はすぐ近くだったので、苦しむ顔のジュンくんは、救急車に乗せられ病院へと運ばれた。
病院の待合室で、呆然としながらソファーに座り込む私。
私は見た。ジュンくんを刺した男の顔が、祐二そっくりだったことを。
いや、まぎれもなくあれは祐二そのものだった。
私が三年も付き合った男だもの、間違えるハズがない。
でも何故、祐二がこんなところまで?
まさか、私とジュンくんの後を追ってここまでつけて来たと言うの?
バカな。いくら私とジュンくんが浮気していると勘違いしていても、そこまで執念深い行動をするだろうか?そんな感情的な祐二を見たことはない。
いや、今まで見せたことがないぐらい、祐二は感情的になってしまったのだろうか?
とにかく今は、あれこれ考えても思考がまとまらない。
ジュンくんが無事でいてくれることが一番大事だと思った。
だって、ジュンくんは無関係なのに、それなのに祐二に刺されてしまう理由はない。
悪いのは私だ。私が全て悪いのだ。
ああ、何故に、こうも不幸の雨が降り続いてしまうのだろうか?
私はそれを払い除ける傘が欲しい。もっと強い運気に包まれた傘を。
神頼みほど滑稽なことはないと思っていた私だが、知らず知らずのうちに、私は手を合わせて天に祈っていた。ジュンくんが無事でいますように、と。
「おーい、何してんだい?レイクミ」
「何ってお祈りしてるのよ・・・って、ジュンくん!大丈夫?!」
「ああ、どうやら動脈は切られずに済んだからね。思ったよりケガは浅いらしい」
左腕に包帯を巻いたジュンくんが、元気をみせつけようとガッツポーズをしていた。
「もう、バカ!心配したんだよ・・・」
私は気が抜けて、廊下にペタリと座り込んでしまった。
「ごめんよレイクミ、心配かけたみたいで」
するとジュンくんは、私の頭をそっと撫でてくれた。
「ふ、ふんっ、ちょっとビックリしただけよ。別に心配なんかしていないんだから!」
ジュンくんは、そんな私を見てにこりと笑ってくれた。
「な、何よその笑いは?」
私は、心を見透かされたようで、恥ずかしくて顔が赤くなった。
「それより、いよいよこれで確信に近づいてきたね・・」
ジュンくんの真面目な顔が、何を言わんとしているかが伝わってきた。
「そうね・・もうこうなったら正直に言うわね。祐二の本当の名は相沢祐二じゃない、阿久津祐二なの」
「・・・そうだったんだ」
「私も最初に、ジュンくんのメモを見た時は驚いたわ。でも、これはもう偶然じゃないって思ったの。相沢祐二の名は指名手配で知れ渡ったけど、阿久津の苗字は知られてないハズだから」
「レイクミはいつ知っていたの、その苗字を?」
「そう・・私が祐二と付き合ってから2年ほど、今から1年ほど前にね、祐二の実家に遊びにいったことがあったの。その時に家の名札を見て、それが『阿久津』だって知ったの。親が離婚か何かしたんだなぁって事ぐらいしか思わなかったし、どういう経由でその苗字になったか特別に聞かなかったわ」
「・・・・・」
ジュンくんは少し黙り込んだ後、言い辛そうに口を開こうとした。
「わかっているわ。私の彼氏、いや、元彼氏だった阿久津祐二は、天栖小学校同級生殺人事件と、何か関係がある気がするの」
「・・・うん、どうやらそうらしい」
ジュンくんの顔が曇る。悲痛なる事実。私のことを同情してくれているようだ。
「いいのよ、同情してくれなくても。私は乗り越える、この何かしら仕組まれた運命に、私も乗り越えなくちゃいけないと思ったのよ!だから、だから・・同情しなくて・・いいのよ・・・・」
口ではそう言い切ったつもりだった。
しかし、心の中では、哀しみがいっぱいになって溢れていた。そして、涙も溢れていた。
「うん、うん」
ジュンくんはただそう言ってくれた。それ以上、優しい言葉をかけるでもなく、ただそう言ってくれた。
だけどそれは私にとって、とっても励みになる言葉だった。
その夜は、安静を兼ねて病院にて仮眠をとった。精神的に疲れきった私達はぐっすりと眠った。
そして一夜が過ぎた・・・
「おーい、いるかい?」
ジュンくんの病室に入って来たのは、昨日の市役所の男の人だった。
「どうしたんですか?」
「いやぁ、俺はあれから図書室にこもって調べてみたんだがね、ひょっとしたら役立つかと思って、ある資料を持ってきたんだよ」
「ある資料?」
まさかこの人が、事件の真相を調べるのを手伝ってくれるとは思ってもなかった。
ある意味、本当のヒマ人なのだろうか?それに市役所の仕事はどうしたのか?公務員様よ。
「それで、どんな資料なんですか?」
「これさ、ほら、天栖小学校の当時の詳細な資料だよ。当時、あまりにも小さな分校だったんで、よく市報にも載ったんだよな。それでさ、ここ見てみな」
紐でくくられたブ厚い資料。その真ん中あたりのページに、それは書かれていた。
「これは、当時の生徒の名簿ね?」
「そうみたいだね。生徒全員の名前が書かれている。えっと・・・
太田将太(おおたしょうた)
本間純一郎(ほんまじゅんいちろう)
小松崎宗次(こまつざきそうじ)
宮下智治(みやしたともじ)
川村香織(かわむらかおり)
高見沢麗久美(たかみざわれいくみ)
佐藤照信(さとうてるのぶ)
江藤あづみ(えとうあづみ)
春日井良子(かすがいよしこ)
島津紗江(しまずさえ)
沼田保(ぬまたたもつ)
阿久津祐二(あくつゆうじ)
・・・?阿久津祐二だって?!」
「どうして祐二が天栖小学校の生徒名簿に?・・・」
「どうだい?何か役にたったかい?」
「はい・・あってはならない名前が書いてあったんです。どういうことだろう・・・」
「ちょっとまって、それに天栖小学校の卒業生数は11人なのに、名簿には12人いるわよ?」
「へぇ、それはおかしな話だね。でもこういうのはどうだい?その生徒は途中で転校して行ったとかさ」
「あ!それはありえるかも」
「うん、なるほど。ボクたちの記憶にはないけれど、それなら辻褄が合うな」
「だろ?オジサンの推理も役に立ったかな!」
市役所の男の人は、自慢気に胸をエヘンと反らした。
「でも私達の記憶にないぐらいだから、よっぽど短期間しかいなかったのかな?それともサオちゃんみたいに病気がちで学校を休んでいたとか?」
「この資料からは、生徒の住所まではわからないな・・・他に誰かに聞ける人はいないかなぁ?」
「同級生はほとんどこの世を去っているからそれは難しいねぇ・・・あと残されたのは・・・」
「あの、おじさん、何で知っているんですか?天栖小学校の同級生がほとんど死んでいるのを」
「あ、あっははは。いやぁ、おじさんも好きなんだよ、そういった不可解な事件が。これは、天栖村はじまって以来の大事件だ!なんちゃってね。だからチェックしてたんだよ」
市役所のオジサンは、さも嬉しそうな顔で言った。
「とにかくこうしちゃいられない。ボクは退院手続きをしてくるよ」
「それでどうするね?あてはあるのかね?」
「う~ん、とにかく、昔の学校関係を調べてみるしかないと思うんです」
「それだッ!よっし、そうと決まったら膳は急げだ!俺の知っている教職関係に聞いてみてあげるよ。それが一番近道だろう」
「あ、ありがとうございます。でも、仕事のほうはいいんですか?今日は平日ですよ?」
「なぁに、仕事なんか代わりはいくらでもいるさ。有休でも使えばいいし。さ、行くぞ!準備、準備!」
私とジュンくんは顔を見合わせて苦笑いした。
いつの間にか、頼りがいのある仲間が増えたのは喜ばしいことだったが。
とにかく私たちは、市役所のオジサンとともに、天栖小学校の当時の先生を調べることになった。
「さ、とにかくここ座って!」
「あの・・ここって食堂ですよね?」
私達は、市役所のオジサンに連れられて、ある食堂へ入った。
「オバちゃん!サバ味噌定食みっつね!大盛り!」
「あいよ~……」
食堂の奥から、頼りなさそうな声が聞こえてきた。
「あの・・あんまりのんびりしている暇はないんです」
「そうよ、こうしている間に、阿久津祐二はどうしているかと思うと・・」
「わかる!気持ちはわかる!だがまずは腹ごしらえも大事だ。それに、頼りになる人物を呼んである」
「頼りになる人物?誰なんですか、それ?」
「まぁメシでも食って待て。ここのサバ味噌定食は絶品だぞぅ!」
このオジサンの言うことも一理あると思い、私たちはとりあえず腹ごしらえすることにした。
「おいしいですね、このサバ味噌!」
「そうだろう、この店のオバちゃんは、この道40年だからね」
「ふぇ、40年ですか、スゴイな」
「以前は天栖村でも商売してたって聞いたぞ。そうだ、オバちゃんに天栖小学校のこと聞いてみようか?」
「それいいかも。オバちゃーん!すいませーん!」
すると、店の奥からヨボヨボしたおばあちゃんが出てきた。腰も曲がって歩くのもやっとそうだ。
「あの、すいません。天栖小学校って知ってますか?」
「・・・え?甘雑煮?そんなのないよ」
「いや、そうじゃなくって、天栖、あ・ま・す・です」
「・・・え?そうかい、結婚なさったんかい」
「ち、ちが!そうじゃないです!あーまーすーッ!ですッ!」
「・・・え?そうかい、幸せに暮らしているんかい、ええのぉ若いもんは」
「だめだ・・このおばあちゃん・・・」
「もうかれこれ80歳ぐらいだから、耳が遠くても仕方ないさ。あきらめよう」
「そうね、でも、おばあちゃんには美味しいサバ味噌食べさせてもらったしね。感謝しなきゃ」
「それじゃ、出るとするか。オバちゃんお勘定いくら?」
「へい!650円がみっつで1950円かけることの1.08で2106円だよ! はいお釣り894円!」
「計算はやっ!」
「さ、さっきとは全然態度がちがう・・・さすがプロだね」
おばあちゃんの変貌ぶりに軽く驚きつつも、私達は定食屋を後にした。
しばらく歩いて広場へ場所を移した私達。
「それでオジサン、頼りになる人って誰ですか?」
「おいおい、オジサンはないだろう。こう見えてもまだ独身、花の39歳だ」
「えー!39?私はてっきり・・・」
そう言いかけて、私は慌てて口を塞いだ。
「ふん、いいもんねー。どうせ老けて見えるよ、俺は、ふんだ」
オジサンは、顔を背けてすねてしまった。なんだか子供のような性格だ。
「あ、で、でも、どこかシブい感じがするわ。けっこうウケがいいんですよ、そういう男性って」
私はすかさずフォローを入れた。もちろん、心にもないことを言ってしまったが。
「そ、そう?シブい?そうなんだよ、最近よく言われるんだよなぁ!特にスナックでさ、がはは!」
途端に機嫌のよくなったオジサン。どうやら単純な性格のようだ。
「あの、それで、その人はいつ・・・」
「もうすぐここに来るよ。それまでここで待ってくれ」
「でも、協力して頂けるのはありがたいですけど、この事件に首を突っ込むのはとても危険な事だと思います。現に昨日、ボクは阿久津祐二にナイフで切られたし、こうしている間もヤツはいつ襲ってくるか・・・」
「わかっている。だからこその助っ人だと思ってくれ」
私とジュンくんは顔を見合わせ、しばらく待つことにした。
サバ味噌定食をおごってもらった以上、申し訳ない気持ちが少々あったのかもしれない。
しかしその人物はなかなか現れない。寒空の中、空っ風が吹く。ただ突っ立っているのは苦痛だ。
ジュンくんは暇を持て余し、広場のベンチに腰を下ろした。すると突然。
「手をあげろ!」
ゴリッ
「ひえっ!」
ジュンくんが何かに驚いて声をあげた。
「どうしたのジュンくん?!」
「・・・声を出すな。手を上げたまま、そのまま歩け・・・」
すると、ベンチの下の落ち葉の中から、大きな人影がヌゥっと現れた。
「だ、誰だ?!なにをする?!」
「・・喋ると殺す・・」
その男は、ジュンくんの背中に銃のようなものを突きつけている。
一体だれであろうか?まさか、祐二の放った刺客が、私達を狙っていたのだろうか?
その男は、深緑色のヘルメットに迷彩服を着込んでいた。まるで軍隊のような井出達だ。
そして、その男は迷彩服のジッパーを下げ、服を脱いだ。すると、なんとその下には・・・
制服だった。警察官の制服を着ていたのだった。
「え?え?・・どういうこと」
私はその状況が理解できなかった。
男は突きつけた銃を下げ、にこりと笑った。日焼けした顔に、まっ白い歯がとても印象的だった。
「突然の無礼、失礼しました!自分は、今回の天栖小学校同級生連続殺人事件を担当することになりました、小林であります!以後よろしくお願いします!」
ぽか~ん・・・
私もジュンくんも呆気に取られてしまった。それもそのハズ。
何故、この警官は、迷彩服を着てベンチの枯葉の下に隠れていたのだろうか?
「さすがだな小林!まさか、あんな所に隠れているとは思わなかったぞ、腕を上げたな」
「はッ!ありがとうございます!先輩ッ!」
「先輩・・?あの、ひょっとしてこの人が・・・」
「そうだ。驚かしてすまなかったな。こいつは俺の後輩の小林だ。よろしくな」
「これからご同行させて頂きます、小林国重(くにしげ)であります!よろしくお願いしますッ!」
「よろしくって、オジサン・・・」
「おっと、オジサンはもうよしてくれ、俺達はもう仲間なんだからな。ついでに自己紹介しとくが、俺の名前は鈴木裕(すずき ゆたか)。どうだ、男前な名前だろ」
「ボクは本間純一です。ジュンでいいです」
「私は高見沢麗久美です、よろしく」
「ジュンくんにれいちゃんだね、こちらこそよろしく」
オジサンは深々と頭を下げた。
「あの、オジ・・あ、いや鈴木さん。この小林さんって警察の方なんですか?」
「そうだ、もと自衛隊にいたこともある。今回の事件に興味を持って、調査に協力してくれる頼もしいヤツだ」
「あの、警察の人がこうした形で協力してくれるのは、事件の調査命令が出たからですよね?」
「いえッ!自分は個人的に参加させて頂きました!」
「でも、その制服は警察官のですよね?警察の人が個人的に調査して・・その、大丈夫なんですか?」
「ははは!心配するな!これはこいつの趣味なんだよ。なっ?」
「はいッ!知り合いの服飾店に、本物そっくりに制服を作ってもらいました!」
「作ってもらったって・・じゃぁ、それはニセモノ・・・そんなことしてバレません?」
「はは、大丈夫さ。それにこいつは今日は非番でヒマしてたんだ」
「はい!ヒマしていたので丁度良かったのであります!」
「そ、そうですか・・じゃ、じゃあ、よろしくお願いします・・」
(この人たち本当に大丈夫かしら?)・・・私は心の中でそう思った。
「それにしても小林さん、ボクらが来る前から、ずっとあのベンチの下に隠れていたんですか?」
「そうであります!いずれ誰かがあのベンチに座ると予想していました。本官は、忍術も体得していますから!」
「え、何て言いました?忍術って聞こえましたが・・・」
「はい、忍術であります!」
小林さんはそう言って、警察官の制服の上を脱いだ、すると、その下には忍者の忍び装束のようなものが着てあった。
「ははは、こいつはアーミーマニアでもあり、忍者マニアでもあるんだよ。ちょっと変わってるだろ?」
「そ、そうですか・・・」
(ちょっとというか、だいぶ変わってると思うけど・・・)
一抹の不安を抱え、私とジュンくんは新しい仲間とともに、事件を調べることになった。
ボボボボボ・・・
小林さんが、低い排気音の車を運転してきた。
「あ、ジープラングラーじゃないですか。それにスコップにジェリ缶ですか。いや、シブイなぁ」
ジュンくんは、その深緑色の車をまじまじと眺めていた。
「わかって頂けて光栄です!この車は我が闘争の根本が具現化したものであります!いわば命であります!」
「へ、へぇ・・そうなんですか・・」
私はこの人のことを、本当に大丈夫かともう一度疑った。
「とにかく出発だ!天栖村小学校同級生連続殺人事件捜査一課、行くぞ!」
「あの、なんですそれ?」
「いちいちうるさいなぁ、なにか名前つけた方が雰囲気出るじゃないか」
「はぁ、まぁ・・・それより今からどこへ行くんですか?」
「今朝渡した名簿に載っていた名前を、ここに来る前に、市役所の住民管理のパソコンで調べてきた」
「いいんですか?そんなことして」
「たぶんよし!それでその名簿に載っている、当時の学校関係者の家に行ってみようと思う」
「それはいいかもね、えっと、担任の先生って誰だっけ?」
「う~ん、なぜか毎年変わっていたよね?いや、半年ぐらいで変わっていなかった?」
「そういえばそうね。何故か担任の先生ってやたら多かった気がするわ」
「そう、そこなんだよ。田舎の小さな分校にしては、先生の数が圧倒的に多いんだな。この名簿に載っているのは、当時にして、れいちゃん達が2年生の頃の先生の名前だ」
「2年生かぁ・・・憶えてないなぁ・・・ジュンくんは憶えてる?」
「たしか・・松任谷先生じゃなかった?ひょろっとしてメガネかけてた男の先生」
「そうだったかなぁ、忘れちゃった、もう何年も前のことだから」
「レイクミは物覚えが悪いなぁ。担任ぐらい覚えておきなよ」
「何それ、あーはいはい、ジュンくんの記憶力は素晴らしゅうございますねぇ」
「そんな言い方しなくてもいいだろ。ぼくの記憶力は普通だと思うよ?」
「なにそれ! それって遠まわしに、私の頭が悪いって聞こえるんですけど!」
私は怒って、首をプイと曲げた。
「ははは! ケンカするほど仲がいいってね」
「そうであります! 羨ましい限りであります。自分も素敵なパートナーが欲しいです!」
「そうか小林。よし! 今度一緒に婚活パーティーに行こうな!」
「ハイ! お供するであります! 20回目の今度こそに賭けるであります!」
私とジュンくんは苦笑いした。
「そ……それで鈴木さん、その松任谷先生の家はわかったんですか?」
「ああ、隣町の湯張市(ゆばりし)に住んでいるらしい。あそこの町は今、財政難で大変らしいそうだ」
「あー、今多いですねぇ、そういう市。私はそんなところに住んでなくて良かったわ」
「何言ってんだよ、天栖村だって相当財政難だろ、人事じゃないよ」
「私はあんな村に戻るつもりはないわ。あんな家とは関係ないもん」
「だって、レイクミの家って昔から由緒ある名家だろ?跡継ぎはどうするのさ」
「知らないわ、あんな家!」
私は家の事を思い出し、少し不機嫌になった。
「れいちゃんの家ってそんな名家なんだ。ああ、高見沢ってここら辺では結構有名だからね」
「え、そうなんだ・・・全然そんなこと知らなかったわ。でも家庭内はぐちゃぐちゃよ」
「ふーん、ま、あまり突っ込んだ話はやめておくけど、お金のある家ほど問題も多いと聞くからな」
「そうよ、問題だらけ。もうこの話はやめましょ。家の話はあまりしたくないの」
「すまんすまん、余計なこと聞いてしまったね。ところで、その松任谷先生ってのはどんな先生なんだい?」
「そうですね、優しい先生だったなあ。それですごく真面目。そんなタイプでした」
「ふ~ん、先生としては立派っぽいな。それなら話は聞き易いかもな」
優しくて真面目な先生なら、当時の事を快く教えてくれるだろう。
そして、阿久津祐二とは誰だったのかも。
そう考えると、少しだけ事件解決の希望が見えてきた。これも鈴木さんと小林さんのおかげなのだ。
私達は、この人たちに感謝しなくちゃいけないなと思った。
ガタゴト、ガタゴト
小林さんの運転する車はとても乗り心地が悪かった。
屋根もなく、ビニールシートが張ってあるだけなので、冬は寒くて夏場は暑そうだ。
何故こんな車に乗っているのか、私には理解できなかった。
「話し辛いかもしれないが、ジュンくんを切りつけたその男、阿久津祐二。彼は何者なんだい?」
「はい、それは・・・」
私は全てを話した。祐二は自分の彼氏であったこと、そして旧姓が阿久津祐二だったこと。
それから、よし子とぷぅやんチョロ太との忌まわしい事件。すべてを話したつもりだった。
「そう・・・いろいろ大変だったんだね。まさか、きみたちがそんな経験をしていたとは・・・」
鈴木さんは重たい口調でそう言った。そして何かを思い出したようだ。
「そういえば今の話を聞いておかしなことがある。きみたちがヌーボーと呼ぶ同級生の沼田保の事だがね」
「ヌーボーのことで何かあるんですか?」
「うん、実は、沼田保の母親が市役所に転出届を出していたんだよ。たしか2ヶ月くらい前かな」
「転出届け・・・引越ししたってことですか?」
「息子が自分を新しい家に呼んでくれるって、嬉しそうに職員に話していたのを覚えているよ。どうやら母親は、ずっとひとりで天栖村に住んでいたそうだから」
「するとヌーボーの家は、それからずっと空き家だった・・・じゃあ、あの怪しい人影は誰なのだろうか・・・」
「だから、きみ達が家で何者かを見たのは母親ではなく、間違いなく不審者だった事になるな」
「何かを探していたのかしら?それとも私達を監視しに来たとか?」
「いや、監視するなら家の外からで十分だろう。僕達が家に来たから怪しい人影も家を覗きに来たのではなく、僕達が来る以前からあの家にいたというのが自然だろうな」
「だったら、あそこで一体何をしていたのかしら?探し物とか?」
「ひょっとしたら、怪しい人影は二人いたのかもしれないね。ひとりが家の裏に、そしてもうひとりがジュンくんの車にハガキを入れたとか考えられる」
「そうかもしれませんが、例えふたりがかりでも、ボクの車にハガキを入れたトリックは説明できませんよ」
「確かにそれはそうだが・・・」
「ちょっと混乱してきたな・・・今までの話をまとめてみよう」
「そうね」
「沼田保、ヌーボーは母親を自分の住んでいる家に一緒に住もうと呼びつけ、母親の住んでいた家は空き家になった。その2ヶ月後、新幹線の中でヌーボーは原因不明の死を遂げた。その第一発見者がレイクミだった・・・」
私はコクンとうなずいた。
「東京で阿久津祐二と再会したレイクミ。そしてボクとレイクミがファミレスにいるところを襲ってきた・・・」
私はもう一度、コクンとうなずいた。
「そして、ヌーボーの家を訪れたボクらに気づいた不審者は慌てて逃げた。しかも、この事件にはかかわるなという脅しのハガキまで置いていった・・・」
「その後ね、祐二がジュンくんをナイフで切りつけて逃げた・・・」
「ふぅむ、何か一連の関係があるようには思えるが、その動機というか、核となる部分が全然見えてこない。れいちゃんの彼氏だった相沢祐二が、どうして豹変して阿久津祐二としてきみらを襲うのか?ジュンくんを浮気相手として恨んでいるだけとはとても思えないな」
「そりゃそうですよ、もしそうだったら、それは阿久津祐二の完全な誤解ですから」
「あったり前じゃない、私とジュンくんが浮気するなんて、天地がひっくり返ってもありえないわ!」
「む・・・それはちょっと言いすぎだろ?レイクミ」
「何よ、あんただって完全な誤解だって言ったでしょ!」
「まぁまぁ、痴話ゲンカはやめたまえ」
「ちょ・・!どこが痴話ゲンカなのよ!」
「見えてきたでありますッ!」
今まで黙って運転していた小林さんが口を開いた。そこには、ひっそりとしたアパートが一軒建っていた。
外観はかなり古そうなアパートだった。もっと的確に言えば、今にも崩れそうなボロアパート。
はたして、こんな所に松任谷先生は住んでいるのだろうか?
車を停めて私達は降りた。近くでみるとますます古くて汚いアパートだ。
「すごいところだな・・それに酷く臭い。こんなところに人が住んでいるのか?」
鈴木さんの言う様に、ここは人が住める環境ではない。私だったら絶対に住みたくない。
「とにかく行ってみるか・・・すいません!松任谷さんいらっしゃいますか!」
コンコン!
アパートの一階のドアを叩く。確かにその部屋の表札には松任谷と書いてあった。
「いないな・・・すいませーん!いませんかぁ!」
鈴木さんは、今度は大きな声で呼んでみた。すると・・
「だれじゃぁ!オマエらぁ!」
後ろから突然怒鳴り声が聞こえた。私達は振り返った。
そこにはひとりの老人がいた。白髪でボサボサの髪に、割れた黒縁のメガネをかけていた。
両手にビニール袋を提げて、ゴミか何かがいっぱい詰まっていた。臭ってきそうなほど不潔な男。
これではまるでルンペンのようだ。まさか、この人が松任谷先生なのか?
「あの、お尋ねしますが、あなたは松任谷先生ですか?」
「うん?先生じゃと?・・・ひさしくその言葉を聞いたな・・・誰じゃオマエラは?何しに来た?」
「あの、実は、松任谷先生が以前お勤めしていた天栖小学校の事でお聞きしたいのですが・・・」
「あ、あますぅ~?あ!天栖小学校じゃと?!・・・しっ、知らん!ワシは何も知らんぞ!」
あきらかに動揺した態度だった。
「そう言わずに教えてください!重大な事件に関係しているんです!」
鈴木さんは真剣な態度で老人に頼んだ。それを見て、この人は遊び半分じゃなくて、本気で事件を調べてくれているのだなと思った。だから、私も老人に頭を下げた。
「ふん、仕方ないな。じゃが条件がある!ワシは最近、酒をきらしておってのぅ・・不景気で酒が一本も落ちとりゃせんのじゃ」
お酒が道に落ちている訳ない。この人はゴミを漁って生活しているんだなと思った。
「わかった。小林!そこの酒屋でワンカップを買ってきてくれ、ほら!」
鈴木さんはサイフから小銭を出すと、それを若林さんに渡した。
「それではダメじゃ。小銭で買えるほどの酒じゃぁ、ワシの口は開かんのぉ」
「くっ!じゃあ、これで買って来い!」
鈴木さんはサイフから三千円を出し、それをバン!と小林さんに渡した。
しばらくして、ワンカップでいっぱいになったビニール袋を、ガチャガチャ鳴らして小林さんが走ってきた。
「よし、これでどうだ!これだけあれば話して頂けるでしょ?天栖小学校の当時の事を!」
その老人は小林さんの手から酒をひったくるようにして取ると、震える手つきでそれを飲み始めた。
まるで、砂漠を数日さまよっていた老人が、水を欲するような飲み方だった。これがアルコール中毒なのだと私は思った。
「ぷじゃぁ!うめぇ!生き返るのぉ!」
老人は一杯目を飲み干すと、二杯目を開けてそれをすすった。
「そろそろ教えてくださいよ、松任谷先生」
「よし!わかった・・・」
その老人はすたすたと部屋の前で止まり、窓から手を入れて何やら探っていた。
「あの・・何をしているんですか?そこはあなたの部屋じゃ・・・」
「ほれ、開いたぞい。ここが松任谷の家じゃ!ワシはこいつとは古くからの知り合いでな、よく一緒にゴミ漁りにいったもんじゃ。何でも昔は先生をしとったらしいが、そういう落ちぶれた奴は沢山見てきたよ」
「じゃ、じゃあ、あなたは松任谷先生じゃないんですか?だったら返して下さいよ、そのお酒!」
「いやじゃよ~、しかし、これでヤツに会えることができたじゃろう?ほれ、開いとるぞ」
確かに、この老人がカギを開けてくれなければ、このドアを開ける事ができなかった。
「鈴木さん、とにかく松任谷先生に話を聞きましょう」
「ち、仕方ないな、覚えてろよ、ジジィ!」
鈴木さんはぶつぶつ言いながら、松任谷先生の部屋のドアを開けた。
「おじゃましますよ~・・・」
鈴木さんが先頭になり、ジュンくん、そして私と続く。小林さんは外で待っているようだ。
部屋のツンとした異臭がすぐに流れてきた。私は急いで鼻をつまんだ。
部屋の中は薄暗く、ふとんらしきものが敷いてあるのがやっとわかる。
ガサリと足元のゴミを踏んで、私はすぐに足を引っ込めた。
「ああッ!」
鈴木さんの声で私はビクリと驚いた。どうしたのだろうか?
私はジュンくんの背中の影から、前の様子をそっと覗いてみた。すると・・・
そこには、ミイラのようになった男が横たわっていた。
「きゃあぁッー!!」
私は金切り声を思いっきり出して叫んだ。ジュンくんが耳を塞ぐ。
「見るなレイクミ!きみは外へ出るんだ!」
ジュンくんの声に、私は部屋の外へ飛び出した。すると、さっきの老人が、悲しそうな顔で立っていた。
「・・・そうか、死んでいたか・・・」
老人の言葉から察すると、松任谷先生の状態がおかしなことに、前から気づいていたようだった。
「うっ、こりゃたまらん!」
口を押さえた鈴木さんが外へ飛び出してきた。そして道の排水溝に、と吐しゃ物を流していた。
なんということだろう!
せっかく何か重要な情報がわかりそうだったのに、その希望も消えてしまった。
当時の事を知るものは、他にいないものだろうか?
とにかく、人ひとりの死をこのままにしておく訳にはいかない。小林さんは携帯で警察に電話をしていた。
そして、また中に入っていった。ジュンくんは、ずっと部屋の中にいるようだ。よく、あんな中にいれるものだと私は思った。
しばらくして警察のパトカーが到着した。
非番だった小林さんも、緊急で警察の仕事を手伝っていた。あのニセモノの制服はバレないのだろうか?
私はあんなところに近づきたくなかったので遠く離れていた。
ジュンくんが警察の人と話しているのが見える。変わった事に興味を持つジュンくんらしい。そういえば、ジュンくんはエジプトの考古学者とか言っていたけど、あのようなミイラは見慣れているのだろうか?
やっと死体が運ばれていったので、私はジュンくんの側へ行ってみた。
「ジュンくん、あの・・・」
「うーむ・・・」
「ジュンくん!」
「あ、ちょっと待ってレイクミ。いま大事な考え事しているんだ。うーむ・・・」
こんな状況で一体何を考えるというのだろうか?
それよりも、か弱い女の私を少しでも心配しようとは思わないのだろうか。まったく無神経なんだから。
「れいちゃん、大変なことになったね」
「あ、鈴木さん、やっぱり松任谷先生は・・・」
「ああ、さっきの老人の証言で、あのミイラは間違いなく松任谷先生の死体らしい。死んでから一ヶ月以上は経過していると警察が言っていたよ」
「一ヶ月も・・・」
「それで警察にいろいろとうるさく聞かれたよ、何の用事でここに来たのかってね。だから、れいちゃん達がこの先生の教え子だったからって言っておいたけど、どこまで信用してくれるか・・・」
「そんな、でもそれって事実じゃないですか」
「事実が事実だけにね、余計怪しまれるかもしれないな。だってきみ達は、あまりにもいろいろな事件に巻き込まれ過ぎているからね。警察もバカじゃない」
「そりゃそうですけど・・・」
「とにかくこれ以上、ここにいてもしょうがない。他をあたろう」
「わかりました。でも、あいつがこっちに来てからにしましょう」
私はジュンくんの方に呆れた顔を向けた。
「・・・ジュンくんか。やっこさん、どうも夢中になるとまわりが見えなくなる性格のようだね。女の子のきみをちょっとはいたわってあげるべきだと思うがね」
「そうなんですよ!もう鈍感であったまきちゃう!ぜったいあんな人とは結婚したくないわ!」
「ははは。でもね、男と女って不思議なもので、大っ嫌いな相手ほど、意外と結婚してしまうものなんだよ」
「えぇ~?それはないと思いますよ・・」
私は、じっと腕を組みしながら考え事をしているジュンくんを見た。
万が一にも間違っても結婚するなんて、どうしてもイメージが浮かばない。
パッ
その時、急に電気が消えて暗くなった。
いや、外にいるのに電気が消えて暗くなる訳がない。
とにかく私の周りが突如、真っ暗になってしまったのだ。
(あれ?どうしたのかな、わたし・・・)
真っ暗な中でも、私の感覚は生きていた。自分の体があると実感できた。
(天栖小学校へくるのだ・・・)
突如、どこからか、そんな声が聞こえた。頭の中にすうっと響くような声だった。
そして、私の真っ暗闇は消えた。ふいに、明るい場所に戻った。
そして自分はここにいるという、肉体的実感がした。
「い、今のなに?!」
「どうしたんだいれい、ちゃん?声をかけてもボーッとして何も反応なかったけど」
鈴木さんが、心配そうな顔で私を見ている。
「え、あ・・・な、何でもないです。ちょっとめまいがして・・・」
それを聞いた鈴木さんは、私を心配してくれたのか、ジュンくんを連れてくると戻ってきた。
「とにかくここを離れて少し休もう。突然の出来事でパニックになっているんだよ」
小林さんも警察の手伝いを終え、こちらに戻ってきた。そして皆が車に乗り込むと、そこを離れた。
車の中は無言だった。
それはそうだ。あんな出来事があった後だから。
ジュンくんは相変わらず何かを考え込んでいた。そして私も、さっきの暗闇で聞こえた声が気になって黙り込んでいた。
(あの声はなんだったのかしら?・・・幻聴?それとも・・・)
鈴木さんは、私達の方をチラリと見ると、小林さんと顔を見合わせた。
「今日はもう解散しよう。いったん休んでから、また調べればいい」
「いや、続けてください。何か、何かが掴めかけてきたんです」
「何かって・・・それよりもれいちゃんを休ませた方がいい。少しはそれも考えてあげないと・・」
「鈴木さん、私なら大丈夫です」
「ちょっと待ちなさい。確かに松任谷先生の変死は事件に関係しているかもしれない。でも、あまりにもおかしな事件が続きすぎる・・タイミングが合いすぎている・・・これではまるで・・・」
鈴木さんは、それ以上口にすることができなかった。
「そうなんです。これは、何者かが起こした一連の事件に関係しているハズです。そしてそれは、ボクたちに何かメッセージを送っているようにも思えます」
「それは考えすぎだぞ、ジュンくん!いくらおかしな事件が続いたからといって、それがきみ達と必ずしも関係していると思わない方がいい。その考えは危険だ」
「そうであります!松任谷先生だって、ただの病死だったということも考えられます」
「たしかに病死だったかもしれない・・でも、松任谷先生はこの事件に間違いなく関わっていたんだ・・」
「おい、ジュンくん!いいかげんにしないか!」
「警察が来るまで、ボクはあの部屋を隅々まで調べていたんです。そこでボクは決定的な証拠を見つけました」
「しょ、証拠だって?」
「そうです。ミイラになった松任谷先生の手には、あるものが握られていた・・」
「・・あるもの?」
「それはこれです」
ジュンくんは、鞄からアルバムを出した。それは、天栖小学校のアルバムだった。
「そ、それはたぶん、病気で死ぬ間際の松任谷先生は、昔の思い出を思い出そうとしてアルバムを見ただけだ。そんなものは証拠にならんさ」
「そうですね・・・でも、おかしな事があるんです。このボクの持っているアルバムと、松任谷先生の手に握られていたアルバムには、決定的違いがある」
「違いだって?」
「ジュンくん、その違いってなに?」
「それは・・・印さ」
「しるし?何の印なんだい?」
「写真にマジックで丸く印がつけてあったんです。その印とは、ボクとレイクミ以外の写真全てにマジックで丸がつけてあったんです」p
「な、なんですって?!どういうことかしら?!ねぇジュンくん!」
私は驚きのあまり、少し取り乱してしまった。
「ひとつ考えられること・・・それは生死の証なんだ。死んでいる人間には丸がつけられていたんだ」
「えッ!!・・・・」
ジュンくんは、松任谷先生の持っていたアルバムを開いて見せた。確かに、私とジュンくん以外の写真に、マジックで丸がつけられていた。
「ジュンくん!れいちゃんの事も考えてあげたまえ!彼女はいま気が動転して・・」
「いえ、キツくても何でも事実だから仕方ないんです。それは、レイクミも覚悟してますから」
「そんな勝手な言い訳は通じないぞ!彼女は女の子なんだぞ!」
鈴木さんは、ショックを受けている私をかばってくれている。それは有難いことだ。でも・・・
「私なら大丈夫です。それに、もっとショックなことを受けてきましたし・・・」
それが祐二のことである事は、この場にいる皆にはわかっていた。
「そ、そうか・・・きみがそう言うなら止めないが・・・しかし、ひとつおかしいのは、島津紗江にまで丸がついているじゃないか?彼女は事件によって死んだわけじゃないだろ?」
「そうですね・・彼女、いえ、サオちゃんは消息不明です。でも、仮に松任谷先生がサオちゃんの消息を掴んでいたら・・そして、写真につけられた丸い印が、死んでいるとしたら・・」
「じゃ、じゃあ、サオちゃんも死んでいるってことなの?!」
「断定はできないけど、松任谷先生は、それを知っていたのかもしれない・・・」
車の中では沈黙が流れた。
「これからどうするね?ほかの先生にあたってみるか?それとも島津紗江を探すのが先なのか?」
「いえ、天栖小学校に行きます。そこに、何かヒントがあるような気がするんです」
「あ、私もそう思ったわ。あそこなら何かのきっかけがあるかもしれないって」
「しかし、天栖小学校はとうに取り壊されているんだぞ?そんな場所へ行ったって・・・」
「小林さん、ボクの車が置いてある病院に戻ってください。ボクたちだけで行ってみます」
「・・・ふぅむ!」
鈴木さんは目をつぶって腕組みした。
「よし、そこまで言うなら仕方ない。小林!天栖小学校へ行ってくれ!」
「すいません、鈴木さん、小林さん」
「なぁに、乗りかかった船だ。それに、きみ達だけでは危険だからな。阿久津祐二が襲ってきた前例もある」
「ガードなら任せてください!本官の忍術でやっつけてやりますから!」
鈴木さんも小林さんも、笑顔でそう言ってくれた。この2人には本当に感謝しないといけない。
そして私達は、天栖小学校の跡地へと向かっていった。
(それにしても、さっきの暗闇はなんだったのかしら?・・・それにあの不思議な声は何?・・・
幻聴なのかしら・・・でもその声はハッキリ聞こえたし、それに、どこか寂しげな声だった・・・)
松任谷先生の謎の死と、手にしていたアルバム。
そして、私とジュンくん以外の写真につけられていた印の意味とは?
この先の事件の意外な展開に、私達は薄々気がついていたのかもしれない。
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