第2話 新鋭機

「え? 《HOPホップ》フロンティアへ? この私が、ですか??」

「ああ。急ですまないが、これから直ぐに向かってもらいたい」


 スクィーズは、ボールドマン艦長に呼ばれ艦橋にある指令部へとやってきた。すると、ここからかなり離れた《【HOPホップ】ゲート》施設群へ行くように言われたのだ。


「それは構いませんが、しかし何故です? このところ連日のように海賊が現れるこんな時に」

「こんな時だからこそだよ。新しく実戦配備される予定の機体を、ここのエースパイロットである君に確かめて来てもらいたい。機種&生体適合性反応マッチング・テストも兼ねてな。実際に配備されてから問題が見つかっては、何の意味もないからなぁ」


「……と言いますと、新鋭機ですか?」

「まあ、そういうことだ」


 こんな辺境の施設群に最新鋭機とは、随分と珍しいことだなとスクィーズは感じる。


「スクィーズ・マクリーン中尉。敢えて君に頼むのは、それなりの理由がある」

 ボールドマン艦長の隣に立つ、ジャミル補佐官がそこで口を開いてきたのだ。


「その新鋭機が狙われている、という情報があるからです。つまり、戦闘の可能性がある」

「狙われている? まさか、モンゴ……いえ、テロリストからでしょうか?」

「……だろうなぁ。今回も色々と面倒なことだが、どうか一つ頼まれてやってくれ」


 ジャミル補佐官の隣に座るボールドマン艦長のため息混じりの言葉を聞き、スクィーズは仕方なく納得した。

 きっと、色々と考え尽くした最善と思われる方法なのだろうと。


「わかりました。そういうことであれば、すぐにでも向かわせて頂きます」

「ああ、よろしく頼む!」

 ボールドマン艦長とジャミル補佐官に対しスクィーズは敬礼し、艦橋指令部から戦略戦術オペレーション室へと向かった。



 オペレーション室へと着くと、ワグワイア大尉が待っていた。

「話は聞いている。《HOPホップ》フロンティアなんて、ゲートを使えば直ぐそこだが、念のため指揮戦闘マスター機を用意しといたよ。一緒に宇宙AI戦闘機UAFAも連れていけ。その方が何かと安心だからな」

「助かります!」


 ワグワイア大尉に感謝してパイロットスーツを途中まで着込み、ヘルメットを片手に格納庫へと向かった。電磁カタパルト付近には、既に指揮戦闘機が用意されていた。


「これに乗るのは、久しぶりね……」


 スクィーズは見上げながらそう溢し、コクピット内に入る。それから直ぐにユーザーインターフェース周りを確認した。ポップアップ画面の配置など細かな所はターミナルにある遠隔コクピットとは異なるが、それほどの違いはない。

 同じアフリエィト社製のインターフェースを利用しているからだ。アフリエィト社とは、こうした軍用機を設計開発している民間企業のことである。

 間もなく頭を覆うようにコクピットハッチが下がり、スクィーズの前頭葉辺りに、この指揮戦闘から見える格納庫内部の様子が広がってゆく。


「こちら、スクィーズ・マクリーン。指令部、発艦許可を願います」

『発艦を許可する。くれぐれも用心していってくれ』


「了解。では、いってきます!」

 電磁カタパルトのラインに載せ光速発艦する。同じく宇宙戦闘機UAFA三機を発艦させ、静寂の宇宙の中で静かに佇む直径ニキロメートルの《【HOPホップ】ゲート》正面へと向かった。

 ゲートからは民間の旅客機などが多数出入りしている。


「【HOP】管理管制システムへ、《ゲート利用予約》を送信する。

予約レベルSクラス:ステルス通信、送信前確認。内容……全て、正常オールクリア。

通信前、擬似アンカーテスト送信……不正アクセス無し、正常オールクリア。

転送チャンネン番号受信、確認……異常なし。HOP運航システムとの自動連携アクセスを許可する」


 スクィーズが載る指揮戦闘機と宇宙戦闘機UAFA三機は、《HOP》ホウスパークンスにある第三ゲートへと急速に近づいてゆき、ゲート中心で眩い光の中へ包まれ、一瞬にして《HOPホップ》フロンティア・第三ゲートへと空間歪曲型ワープで移動した。



 ◇ ◇ ◇


 《【HOPホップ】Area65・フロンティア》は、未だ開拓中の施設エリアだった。しかしこの近くの惑星に最新の研究製造施設が出来た為、最新鋭機はほぼ全てこのフロンティアに一旦集まってくる。

 この《HOP》施設群には、全長五キロメートル・幅ニキロメートルの長方三層構造をしたメガフロートがあり。強固な防衛力と長期的な自給自足を可能とする施設がこれに隣接し、二万人もの人が住んでいた。


「随分と大きいな」


 ゲートを抜けて間もなく、この施設群を守る鎮守府へ向かうと超大型艦船が目の前に現れたのだ。スクィーズは素早く、ポップアップ画面でそれの詳細を確認した。驚くことに全長一キロ近くもある。


「基幹マザー級指揮艦船フロージア……。戦略級AI艦隊運営を司る杜の幹、その根幹となる指揮艦船か。また凄いのを連合は造ったものね。ん?」


 その大型艦船から何かが飛び出し、こちらへと光速で向かって来た。宇宙AI戦闘機UAFAのようだが。更に対艦/機動兵器レヴラドールのようなものまで発艦してくる。


「運用試験中? そんな訳は……」

 現在、混雑しているフロンティア施設群内での運用試験は原則出来ないルールの筈だった。そう思う間もなく、スクィーズの目の前を光弾が掠めてゆく。


「──クッ! まさか、こんなところでテロなんてことはないでしょうにッ! これは、どうなっているの!? 

前方の戦闘機へ通信、『こちらは第八防御機動部隊所属デルタワン。友軍機だ! 何故、攻撃を仕掛けてきた? 理由を述べよ!』」


 しかし、その質問は無視され。立て続けに光弾が付近を掠めゆき、アラートが機内で鳴り響く。更に後方から、ミサイルの発射前照射がレーダーで感知され、警戒音がコクピット内で高鳴った。


「──なっ、ミサイルッ!? まさか、本当にテロリスト?

AIcrewアイクル、あれをこれより敵機として認知します。速やかに、攻撃を開始せよ!」

《アイクル、了解。……しかし、あれは友軍機と判定した。攻撃すれば、軍規違反になるが?》


「友軍機?」

 間もなくポップアップが開き、画面に相手機体の詳細情報が表示されてゆく。


「機体所在位置、クレイドル監視機関所属フロージア357番格納庫艦載機。現在、所属登録未定。機種未登録って……なによ、コレ?」


 これでは敵なのか味方なのか、判断がまるでつかない。


「まあ、いい。今なら一対一……何を考えているのかわからない相手だけど、ここは受けて立つ!

AIcrewアイクル、お前は下がってなさい」

《アイクル、了解》


 随伴機の宇宙戦闘機UAFA三機は離脱し、それを確認してからブーストを最大出力で噴射し。まるでジェットコースターのように旋回し、更に右へ傾け戻し相手の背後を取りにいった。

 だが、相手は逆噴射で更にその背後を取ってくる。


「くっ、動きが速い! ならば、これで!」


 ポップアップ画面を手慣れた操作で素早くスクロール選択し、フレアミサイルを前方に放つ。それから少し機体を下げ騙しフェイクを仕掛け、直ぐに限界推進力で逆に引き上げ、そのまま左旋回離脱する。スクィーズの後ろから追いかけて来ていたUAFAは、同じく機体を一旦下げ直ぐに上げたが。その前に、スクィーズが撃ったミサイルが前方で閃光を放ちながら百数十メートルもの磁場を作り、その中に巻き込まれてゆく。


「よし、やった! ──なッ!?」


 だが、所属不明機は多重電磁シールドを前面に大きく展開し、光速でこちらを追い抜き様、光弾を乱射してきた。

 スクィーズが載る機体がそれで大きく揺れ、被弾したことが直ぐさま理解できる。同時に、死をも覚悟した。ところが、


「──な!? これは、ペイント弾?」

 全方位カメラアイに、多数のカラフルな色が広がっていたのだ。



 ◇ ◇ ◇


「はじめまして! 私は、銀河惑星連合クレイドル監視機関所属ルイヴィ・レンドミトン少尉です。

それにしましても流石に素晴らしい腕前でした! 『辺境の若き狩人』の名は、伊達じゃありませんでしたねっ」


 基幹マザー級指揮艦船フロージア内へと着艦し降りたところへ、まだ二十歳になったばかりの女性が現れ、手を先延ばして来たのだ。

 スクィーズは、その手を軽く掴み降りる。


「クレイドル監視機関? では、先程の宇宙戦闘機UAFAはあなたが?」

「はい。失礼ながら、中尉の操作技術を試させて頂きました」


「……期待外れな腕前で、さぞやがっかりしたでしょうね?」

「いえいえ、そんなとんでもありません。この機体でなければ、こちらがやられていたと思います」


 言われてみると、そこにはあの所属不明機が佇んでいた。


「これは?」

「新しく配備予定の《UF21―SB》、スティングブレイドです。それからあちらが、新型のアーマーロイドで。

【レヴラドール、LVR-S011】スレイプニールⅣ。

【レヴラドール、LVR-X005】エグザヴィールⅢ。

【レヴラドール、LVR-R014】レイドルフⅦ。

それぞれ、高機動型・拠点防衛型・対艦/拠点制圧型となります。クレイドル監視機関としては、モンゴメルの台頭に対処するが為、これら新型機体の配備計画を現在推し進めて居ます。と言っても……これらは全て、まだ検証試作機プロトタイプなんですけどね。

実際にあれと戦ってみて、どうでしたか?」


 スクィーズは言われて納得した。要するに、ここへ来るなり新型機の性能を試されたということのようだ。正直、不愉快な気分だった。


「クレイドル監視機関が民間のアフリエィト社製機体を営業宣伝するなんて、随分と可笑しな話ですね。

もしかして、再就職活動の一環とか?」

「あはは、そのような御冗談を! この機体は、機構とアフリエィト社……それとレヴラ・ホールディング社が長年掛けて共同開発した機体なんです。この度の試験配備には、連合政府もかなりの感心を持っています。連合政府ばかりではありませんよ? モンゴメルもそうです」


「モンゴメルも?」

「はい。ですから、この度の受け渡しには、この基幹フロージアをもって行うことになっています」


「そう……それは安心ですね」

 スクィーズは艦内を見回しながら、そう独り溢した。

 これだけの装備を持った艦船はそうない。まさに、税金の無駄遣いだろうな……と。


 そのあと予定通り新型機の新装備や注意点などの講習を受け、機種&生体適合性反応マッチング テストを行い、翌日スクィーズは帰還した。



 それから1ヶ月後、全ての手続きを済ませ、指揮艦船フロージアがHOPホウスパークンス近くに停泊している第八防御機動艦隊拠点へとやって来た。そのあと直ぐにマスター級指揮艦船グラーフ・エンジェル艦内へと新鋭機が次々に搬入されてゆく。

 UAFAを八機、レヴラドールをそれぞれ二機。

 配備数が少ないのは、量産機に比べプロトタイプはその値段が数十倍、または数百倍以上もお金が掛かるからだ。


「ありゃまた、ばかデカイ船だなぁー」

「なんでも《高機動型【HOP】ゲート》を独自管制できるそうですが。私から言わせてもらえば、税金の無駄遣いもいいところです。もっとも、大型貨物船としては、御覧のように優秀みたいですが」


「わはは! こりゃまた手厳しいもんだなぁ~。しかしありゃ見た感じ、このマスター級と同じ機能を持っていそうだぜ。いや、それ以上か?」

「……確かに、そうですね」


 ワグワイア大尉に言われて気付いたが、確かにそうなのかしれない。それならば今までよりも、遥かに大規模な無人での艦隊運用が、容易に出来る。なるほど、合理的だ。でも、


「冷たい戦争が、またこうやって拡大してゆくのですね……」


 そう静かに独り溢すと、ワグワイア大尉がスクィーズの手を掴み、安心させるような作り笑いを向けてきた。


「辞めときな。そんな情緒的なことに余り気持ちを奪われ過ぎてると、終いにゃ目の前の大事を見落とし、命を落としちまうぞ」

「……そうですね」

「あー、コホン!」

 誰かと思い振り返ると、ルイヴィ少尉が困り顔を向け頬を染め立っていた。


「失礼します! 搬入作業、無事に終わりました」

「あ、ご苦労様。ルイヴィ少尉、紹介します。こちらは、ワグワイア大尉です」

「ワグワイアだ。よろしくっ」


「よろしくお願いします。私は、銀河惑星連合クレイドル監視機関所属ルイヴィ・レンドミトン少尉です。

ところで……お二人は、どういう御関係なんでしょうかぁ?」

「どうって?」

 スクィーズとワグワイアは、何のことだといった感じで顔を見合せる。が、


「……。まあ早い話、こういう関係じゃないのかなぁ?」

 ワグワイア大尉は澄まし顔にそう言って、スクィーズの肩をニンマリ顔で抱き寄せた。スクィーズは途端、頬を染めそんなワグワイア大尉を押し退け怒って見せる。


「わ、ちょっと! ワグワイア大尉、冗談が過ぎますよ!」

「ばっか、オレはいつだって本気だぜっ」

「………にひっ♪ わお~っ! これはまさかのパワハラ? ならば、バッチリ撮らねばっ!」

 ルイヴィ小尉はそう言うなり、胸の金バッチに隠し持っていた小型カメラで写真を取り続けた。それを二人は、ドングリ眼で見つめる。


「……そういや、クレイドル監視機関ってぇ~のは……内部監察が主な任務だったよなぁ?」

「そうなのですか?」

「あ、はい~っ。本来は、行政・司法・軍などで不正が行われていないかを監視したり。スパイ行為などが行われてないかを探し出すのが主な任務なのですが。私個人としては、こういうのも大事な取り締まり対象だと思っておりますので♪」


「「──!?」」

 

「バっカやろおーっ! 今のは冗談に決まってんだろっ!」

「冗談? ですがつい先程、『オレはいつだって本気だ』などと言いませんでしたかぁ?」


「──ぬわあっ! くっそぉー! おいコラ、上官命令だ!! 今すぐにそいつを渡せえーっ、おいっ!」

「ほいっ、ボイスレコーダーにも今のをゲット~っ♪ ワグワイア大尉、ご存知ないのかもしれませんが、こういうのも立派なパワハラになるんですよぉ~?

そもそもこの私に命令など、越権行為もいいトコですから。お分かり?」


「──! あー、くそっ。これ以上構ってられるかよ!」


 ワグワイア大尉は怒りながら、向こうへと歩いていった。


「おやおや、遂に逃げ出したか。パワハラ上官には、良い薬になったかねぇ~っ? あっはっはっはっ!」

「……ルイヴィ少尉。冗談が過ぎますよ」


 スクィーズが困り顔に言うと、ルイヴィ少尉は真剣な眼差しで見つめ返してきた。


「スクィーズ中尉。余り、ああいう手合に甘い顔はしない方がいいですよ? 付け上がるだけですから」

「──わ、私は何も! た、確かに……ワグワイア大尉にはああいった困ったところはあるが、決して悪い人ではない。だから!」


「……だから。この件はここだけに留め、口外しないで欲しいと?」

「……」

 スクィーズの困った横顔を見つめ、ルイヴィ少尉は軽くため息をつく。


「お優しいのですね? それとも、実のところ本当は好きだから、ですか?」

「──!」


 途端に見せたスクィーズの動揺に、ルイヴィ小尉は思わず吹き出しそうになる。


「おやおや、まさかの図星でしたかぁ?」

「しょ、少尉っ!」

 頬を染め上げ、更に動揺し慌てるスクィーズの様子を見つめ、ルイヴィ少尉はそこで困り顔にため息をつき、次にニンマリ顔で意地悪く笑み言う。


「あらら、なあ~んだ。だったら初めっからそう言ってくださいよぉ~。私は中尉が困ってるなぁ~と思って、ああいう対応をわざと取ったんですよ。もしそうじゃなかったとしたら、本当に大きなお世話でしたよねぇー?」

 そう言ったあと、携帯端末から小さなメモリを取り出し、スクィーズに真剣な眼差しで差し出す。


「このデータをどうするかについては、スクィーズ中尉にお任せします。ですが、本当に余り優し過ぎるのもほどほどにしといた方が良いですよぉ~? 好き嫌いは時として、相手にハッキリ示さねば!

ではでは~っ、これから私は艦長にご挨拶に行かねばならないのでぇ~」


 ルイヴィ少尉はそこで軽くウィンクをしながら敬礼し、カラカラと愉しげに向こうへと歩いていった。スクィーズは、そんなルイヴィ少尉を困り顔に見送り、小さく溢す。


「階級は私の方が上でも、人生経験では明らかに、向こうの方が上……か? 色々な意味で。はぁ~っ……」




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